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ファンづくりから仲間づくりへ、noteが少し楽になった

2021年5月5日から11月27日までの約半年間、私のnoteには大きなブランクがある。アクセスするのもままならない時期もあれば、書いては捨て書いては捨て、公開できない下書きだけを増やしていた時期もある。


2021年4月、面接での熱烈なアピールが身を結び、念願の出版社に転職した。大好きな文章に仕事として触れられる喜びと自分の言葉が社会を動かす使命感で、毎日はやりがいに満ちていた。


相手の話を瞬時に理解する力、決められた文字数でまとめる文章力、なんかこいつおもろいなと思ってもらう雰囲気……。記者としての才能は少なからずあったように思う。

「都村はうちのとっておきだ」と社長はよく言ってくれた。前職では単純作業ばかり任されてきただけに、クリエイティブを存分に発揮できる環境が嬉しくて、弱音を吐きながらも力を振り絞った。

はじめのうちは気合いでクリアしていたノルマも、期待が大きくなるほどプレッシャーと一緒にふくらんでいく。取材のアポ取り、月刊誌の記事執筆、ネット記事の更新、新しい冊子のプレゼン、取引先との定例の情報交換……とto doリストはみるみる長くなる。が、締め切りは容赦ない。


一向に減らないリストを前に、「いっそパソコンごとビルから飛び降りたい」と呟きながら、かろうじてその日締め切りの記事を1本を仕上げ、終電の中で次の構成を練る生活。帰ったところで翌朝すぐに出社する気力もなく、自腹でホテルに泊まった夜もある。noteへの情熱も義務感も疲労とやりがいの混沌にのまれていった。


8月、ついに体調を崩した。どうにか続けられる道を模索したが、どれだけ文章力が優れていても動ける体がなければ、記者としては0点。健康も、ビジョンも、コネもないまま、職まで失った。

望むものすべてを握りしめた指の隙間からことごとくこぼれ落ち、あとにはnoteだけが残った。



久しぶりに私用のパソコンを開き、真っ白な入力画面に向き合う。いっそのことこの転職からの乱高下を発信してみようと思い立つ。ぱち、ぱちと文字を打ち込むが、すぐに指は止まって、つながらない。無限にストックされた言葉から見合ったものを引き出し、つなぎ合わせていく作業は、疲弊した脳には高度すぎた。

ネタを探しては、プロットをつくってみる。が、やはりオチにたどり着かない。やりたいことすらまともにやりきれなかった人間が何を語っても説得力がないような気がした。


唯一、形になったのが、読書レビューである。1本の記事を書くのに1か月近くかかったが、好きな作品の手前、途中で投げ出すわけにはいかない。武田砂鉄『マチズモを削り取れ』、村上純『裸々』の感想文、本屋大賞ノミネート全10作レビューと、3本の記事を書き上げることができた。


投稿ボタンを押すたび、自分にはまだ書く能力が残っていると胸を撫で下ろす。同時に、説得力を本に補ってもらっているような、全身全霊で作られたものに乗っかているような後ろめたさが、靄のようにずっと頭にかかっていた。


本当は自分にしか伝えられないことを語らなければいけないのに。私のファンを増やしていかなければいけないのに。募る焦りに反して、いつまでたっても思うように形にならない。


2022年5月、新しくはじめた本屋の仕事終わりに『鈴木敏夫とジブリ展』へ。京都文化博物館の扉をくぐると、平日の昼間にもかかわらず、チケットカウンターには長蛇の列ができている。


チケットを手に入れ意気揚々と順路に従った先で、今度はエレベーター待ちの列。折り返しの最後尾に着く。


さぞかし貴重なジブリ作品の資料が展示されているに違いない。絵コンテ、企画書、ポスター、限定グッズ……。期待に胸膨らませ、吐き出されるようにしてエレベーターを降りる。じりじりと進む人波に押され、ようやく通路一面に続くショーケースが目に入った。


トトロもカオナシもカルシファーもいなかった。直線の通路を進めど進めどジブリは出てこない。代わりに鈴木敏夫さんが青春時代に愛した漫画や小説、映画のDVDがところ狭しと陳列されている。小説以外はタイトルすら聞いたことがない。世代が違うので、空間に漂う懐かしさみたいなものも掴めない。ましてやガラス越しでは、中を読むこともかなわない。けれど、これらすべてを鈴木さんはその身に取り込んできたのだと思うと、その圧倒的な量にくらりとめまいがした。


もし私が好きなものを集めたら、同じだけの数を揃えられるだろうかと考えてみる。お気に入りの本とマンガが数十冊、CDがちょっとに、大ファンのしずるとメトロンズのグッズと台本が少々。3畳あれば足りる。


つまり私はその程度のインプットでしか構成されていないということだ。知識と歴史にみっしり隙間なく支えられている鈴木さんに対し、少し突つかれればたやすく崩落してしまう私。ビュー数だとかブランディングだとか自分だけが伝えられることだとかの前に、好きなものをもっともっと集めなければいけない。


こちらを見つめてくる表紙やジャケットの前を通り過ぎながら、しばらくは好きなもののことだけを書こうと決めた。私のファンが増えなくても、自分が好きなものを好きになってくれる仲間が増えたなら、それもまた書き手冥利だ。


気持ちを刷新して手に取った1冊目が、伊藤たかみさんの『ぎぶそん』だった。私が本の感想を共有する喜びを知り、文学の道に進むきっかけになった小説である。その感想文が、3年目にして初めてnoteの今日の注目記事にピックアップされた。


この物語を手に取ってくれた方がひとりでもいたならうれしいし、この文章を読んだだれかが、その人にとっての人生の1冊を別のだれかにつなげてくれたなら、それもまた幸せなことだと思う。

ファンづくりから仲間づくりへ。舵を切った今、これまでになく楽な気持ちでnoteと向き合えている。

私がどんなにダメな人間だろうと〝好き〟の説得力は少しも損なわれないはずだから。なにより愛してやまない対象について存分に語れる場所はそうそうない。

変わらず読みに来てくださる方に感謝しながら、月に1度、そのとき一番心躍ることを記事にしている。


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