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「前橋市アーバンデザイン」を読解くvol.2 ビジョン・ドリブン

1)前橋市はどのようなまちを目指すのか

2016年2月前橋市と田中仁財団による民間共創事業として「前橋ビジョン策定プロジェクト」が発足。企業家として成功したJINSの田中さんが、事業や組織にとってのビジョンの重要性を感じていたのだろう。JINSが窮地に陥った際も、ユニクロの柳井さんに相談しビジョンの大切さをアドバイスされ、JINS事業が拡大していったという話を聞いたことがある。

企業ビジョンの例
JINS・・・Magnify Life
UNICLO・・・LifeWear
Panasonic・・・A Better Life, A Better World

「ビジョン」「スローガン」「タグライン」とか色々な言い方はあれど、自分たちの目指すべき方向性を示すものである。ここに挙げた3社とも「Life」を使用しているが、日用品としてくらしの本質に迫るビジョンであるからだろう。このようなビジョンは、企業や組織の中の人々が自分たちの進むべきベクトルを合わせるためだけでなく、外の人に対しても自分たちの目指す姿を理解してもらい、共感してもらう役割も果たす。このビジョンをまちづくりにも展開しようと「前橋ビジョン策定プロジェクト」が始まった。

2)ドイツのブランドコンサルに依頼

ビジョンを作る際に、なかなか当事者では冷静に自分達を分析できないので、外部の冷静な視点が必要になる。前橋市の場合はドイツのKMSというブランドコンサルに委託し、取りまとめを依頼した。前橋市という街の存在すら知らない人だからこそ、先入観なしに分析・提案ができるのだろう。KMSは、すべての利害関係者の想いをイチから拾い集めなければなかったが、多分野で活躍する官民30組のインタビューと3,000人分の市民アンケートを分析して(ご苦労様です)ワードを導き出した。

3)Where good things grow

「Where good things grow(良いものが育つ場所)」ええやん。さすがドイツのブランドコンサル。前橋市はJINSを始め、家電量販店、ホームセンター、たこ焼き屋など、小さいお店から商売を始めて全国規模まで事業拡大した企業を多数輩出する街である。「やってみるか~」的な楽天的な性格だからなのか、「なにくそ!」というあきらめの悪い性格だからなのか、前橋人に受け継がれるDNAの中に何かあるのかもしれない。また、江戸から100キロ離れた適度な距離感での別世界という地理的要因か、もしくは冬になると北から「からっ風」と言われるモーレツに乾燥した強風が吹きまくるという気候要因もあるのかも。でも何がイイって、「人」に焦点を当てたのが秀逸だと思う。観光名所も特産物もない地方都市が、これから生まれ変わるための「人財」を価値化していく。自分達も気付いていない「前橋市民」のポテンシャルを見える化してくれた。

4)日本語では「めぶく。」(糸井重里さん作)

英語のままでは全市民に理解してもらえない?という視点からか、前橋出身のコピーライター糸井重里さんに日本語のコピーを依頼したそうだ。糸井さんは、あまり前橋関連の仕事をされないが、プロジェクトからの猛烈なプッシュがあったようで、何回か目に承諾されたとのこと。そして生まれたのが「めぶく。」3文字ですよ、3文字!的確に言い当てて、一度聴いたらみんな忘れないコトバ。さすがです。

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前橋ビジョン(全文)

めぶく。
Where good things grow.
その芽は、まだ小さい。
風に吹かれ、雨を待ち、太陽の熱さにその身をあずける。
そしていつか、枝をつけ、葉を繁らせ、
強く太い幹となる日を夢見ている。
人は芽だ。この地は芽だ。そしてつながりは芽だ。
いまは幼い芽だけれど、未来の大樹を隠し持つ芽だ。
Where good things grow.
この地ではじまる、芽ぐみ。
ここから、よきものが伸びてゆく。
いくつもの芽が育ち、やがては大きな森をつくっていくだろう。
Where good things grow.
わたしたちは、この地の芽吹きのために、
未来に希望の森を見るために、
厳しくも優しい風になろう。
慈しみの雨になろう。
そして、なによりも熱い太陽になろう。
Where good things grow.
きっと、芽吹く。
前橋の大地の下にはたくさんの種が 、そのときを待っている。

5)市民へのメッセージ

2016年8月に前橋でいちばん大きいホール「グリーンドーム前橋」(実は競輪場)で発表会が開催された。当日は、4,000人を超える来場者だったようで、市民もさすがに前橋の本気っぷりに動かされたようだ。(神戸に住んでいる私には情報は届かなかったので、リアルタイムでは見ていない)その熱い模様はこんな感じ。

6)そして、街づくりの具現化へ

ステキなビジョンができたので、ここから街の計画のスタートです。次回はどうやって「めぶく。」というビジョンから「前橋市アーバンデザイン」という都市再開発計画を作り上げたのか、紐解いていこうと思います。


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