自分を信じる言葉をつむぐほど、心を縛る約束はほどけてゆく
vol.73【ワタシノ子育てノセカイ】
夢はふわふわした物語みたいな気がするけど、魔法では実現しない。
こうなるんだと覚悟して、こうなるために努力する。ほしいものをできるだけクッキリ想像して、ハッキリ言葉にして、シッカリ支えてくれる仲間を探すんだ。
自分の信じた道を、こつこつと歩む努力が、夢への近道になるのかもしれないな。
◇
ところで私には「実子誘拐」で6年間離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。
◇
雨でびしょ濡れになった11歳の次男ジロウ↓↓に、私のパーカーを貸したらサイズがぴったりだった。
ジロウは誇らしげに「お母ちゃんの服ちょうどやで!ほら見て、ちょうど!」と太陽みたいな顔をする。
7年前の2017年12月。実子誘拐の15日後。弁護士に依頼して再会を果たした5歳のジロウは、響きわたる声でくり返した。
お母ちゃん、この服な、130やねんで!大きいやろ!?130やで!これタロウのやつな!ジロウ130やねん!!
母子が引き離された状況を理解していない幼いジロウは、いつもと変わらず太陽みたいに、次から次へとお喋りを浴びせてくる。
あまりにも眩しすぎて、私はいまにも、消えてなくなりそうだった。
◇
2024年3月4日月曜日。ジロウご所望のマクドでの密会交流へ。先週の密会にて、毎月最初の密会日にマクドへ行く約束をしたんだ。
半年に1回くらいはお茶しにいくマクドだけど、新しい約束に私はワクワクして週末を過ごす。だけど月曜日になると、ジロウはすっかり忘れていた。密度ある週末を過ごせたんだろう。
離れて暮らす母への想いを逐一忘れず生きるなど、まぁまぁ重荷でもありそうだし。心の奥底に、ひっそりと、でも力強く、母の愛が存在していれば、母はいなくたってかまわないんだ。
そもそも、約束が嬉しい!と感じて満足しちゃえば、やってくる未来を待ち焦がれる理由がない。今その瞬間のジロウの想いを、私は満たせてあげられたんだ、と自分をそっと抱きしめた。
◇
マクドにて。母子二人で席について、モバイルオーダーの操作を楽しむと、ジロウは投資アプリについて私に尋ねた。ジロウは私のドコモポイントでポイント運用をしているんだ。
2023年だったかな。久しく訪れたマクドにて、世界のビックマックの価格についての会話になった。
ジロウは日本の安さに驚きもしなかった。もしかしたら、α世代の日本の感じ方なのかもしれない。
価格トップの国では1,000円いるけれど、日本でなら500円あれば食べられる。ジロウが滞在したフィリピンとマレーシアは、日本よりボロボロな家がたくさんあって、ストリートチルドレンもいたのに、10円単位の差しかない。
ハンバーガーは、為替の話になって、投資の話になった。以降ジロウは、マクドに行くと必ず、投資の話を自らきりだす。ちなみに通常密会にて、投資の話はでたためしがない。
教育とはたぶん、学ぶ環境そのものなんだろうな。五感を響かせるほど記憶は定着し、学びは深まるのかもしれない。
◇
マクドからの帰り道、switchなどのゲームにおける約束事の話になった。
ジロウが遊びに誘われた文句として「今日はお母さんがおらんからゲームできるで」がでてきたんだ。誘ってくれた子のおうちでは、ゲームは1日1時間と決まっているらしい。だけど仕事で親の帰りが遅い日は、ばれないようにゲームをするそうだ。
親に隠れて何かするなどは、子どもならあることだろうし、親子関係によって程度もさまざまだろう。ジロウは私との話の流れで、聞いたことをそのまま話しただけなので、特に意味はなかったっぽい。
一方で私には「約束」における痛い体験があるんだ。特にタロウは泣きじゃくるほどの出来事を、実子誘拐から2-3年目で何度も味わい、今もおそらく囚われている。
対話なく強制された命令を、約束と勘違いしているんだな。
日本の教育を受けていれば、ありふれたカタチだろう。責任を教わらないまま、責任を負わされる恐怖の体験である。3月8日、閣議決定した親権法に類する改正法案は、まさにそんなルールなんだ。共同親権を謳い、単独親権制度を強化させただけだから。
話しは戻り。約束したら守る旨を、ジロウが私に語るから、なんで守るのか尋ねると、20秒ほど考え込んで口にした。
信頼されたいからやで。嘘つくと信頼を失うと思うねん。
◇
私は目頭が熱くなる。2-3言葉を交わし、失うのは信頼ではなく信用だと伝えると、ジロウはきょとんとした。
信頼はいつもジロウの心にあるから大丈夫で、ジロウは勇気の塊なんだ。だからこそ私たち母子は、7年以上どうにか繋がってこれたんだ。
信頼されたいジロウの願いはきっと、特定の大切な人に向けてだろう。ジロウは両親から、ただ信頼されたいんだ。愛されたいんだ。
だけど私にできることは限られていて、精一杯してきてもいる。約束のあり方を、改めて母子二人で探して、まとめた。
ところでジロウは嘘をついて母親と会っている。面会交流がなくなった2021年から、嘘をつく意味を幾度もいくども母子で話し合ってきた。嘘をつきたくないジロウは、どうして嘘をついて母親に会うのか。
マクドのこの日、久しぶりに議題にあがり、ジロウは唸りながら、私の言葉をピックアップして意見する。
ほんまはいつでも会えるねん。だって親子やねんから。
嘘がほんまで、ほんまが嘘。この国がただ、狂ってるだけなんだ。世界はそもそも、虚構でできてるし。
◇
まもなく春休み。短縮授業を狙って、ジロウは母とのランチ会を交渉するも、玉砕したらしい。
一足先に春休みのいとこがやってくるので、是が非でも母宅に行きたいジロウ。以前にもジロウだけ、いとこと満足に会えない珍事があったから、なおさらだろう↓↓
ここ2年ほど「お母ちゃんからは何も言わんほうがいい」と忠告するジロウが、私からの交渉を打診してきた。だけど私の課題ではないから、ジロウが交渉しきるよりほかない。
どうしたら交渉がうまくいくか、作戦会議へ移る。課題の洗い出しで、なんで私に交渉を依頼したのかを尋ねた。ジロウは数秒うつむいて、おもむろに運転席の私を見上げて回答する。
いろんな人から聞いた方が、考えが変わるかもしれんやん?
あぁ、大丈夫。ジロウは健やかに育っている。つむぐ言葉は自分そのものだ。
◇
2日に渡る作戦会議の末、私からの連絡も入れることになった。予定のみを綴り、ジロウに伝える依頼をLINE。警察騒動につづき、葬式騒動以来の両親の接点である。
ジロウの意見はもっともなんだ。あらゆる状況を想像しきると、私からの連絡が詰まりを溶かし、タロジロへの流れを健やかにする可能性がある。警察と葬式の騒動は、本望ではないはずだから。
いや、だから実子誘拐されるねん、と心の友らにはつっこまれるのだが。私は基本、すべてを信頼して生きているから、しかたない。
ありがたいことに、これまでのような返信はなく、既読で落ち着いている。あとはジロウの再交渉しだいかな。
結果はどうあれ、どうにかなるんだ。
ジロウは自分を信じられる、勇気の塊なんだから。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?