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愛がめぐると時空を超えて、世界のすべてが繋がってゆく

vol.72【ワタシノ子育てノセカイ

成しとげるまでは何事も不可能にみえちゃうらしい。

できないって思えるのは、できることを知らないから。学んで、動いて、直して、をコツコツとくり返す。積み重ねた準備が、タイミングを掴めば、きっと成功できるんだ。

誰も信じない不可能なことほど、これから成功する素晴らしい未来なのかもしれないな。

ところで私には「実子誘拐」で6年間離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。

ほどけてはよりなおす親子時間は、どれほどの絆になるんだろうか。

2024年2月27日火曜日。「明日お昼ご飯食べに行こ」と長男タロウからLINEがきた。水曜日から金曜日までは期末テスト。今年度から恒例となった、テスト期間中のランチ会のお誘いである。

タロウは15歳なので、中学校生活で最後の期末テストとなる。子育ては長期戦なのに、子どもの成長は一瞬らしい。

お迎えの時間は12時半。ランチに誘ってくれるタロウに感謝しながら、ランチに誘ってもらえる自分を抱きしめた。

ランチ会は水・木・金と連日つづく。3日間も母子で一緒に食事できる奇跡の再来である。共に食卓を囲むのは1月5日以来なので、55日ぶりだった。

毎度のことながら、どこに向かって感謝すればいいのやら。とりあえず全てにありがとうだ。

初日はタロウのご所望により回るお寿司。2日目はおうちで母の手づくりご飯。3日目は私の食べたいものをタロウが尋ねてくれて、ラーメン屋さんへ足を運んだ。

食事を共にする時間は、命を一緒につむぐ時間。まさに同じ世界に生きてるな、って私は感動してしまうんだ。

あたたかい親子時間を創出してくれる、お魚さん、お味噌さん、もやしさん、そして食事の奥に何層にも繋がるあらゆる人々。想像するだけで、感謝が溢れてとまらない。

ランチ会はテスト期間中だけあって、母子の再会当初はだいたいテストの話になる。

テスト範囲や時間割などを、タロウは今回もするっと教えてくれた。テストの大枠を知らされたあとは、恒例の質問タイムになる。タロウ先生がよっこらしょと登場して、プチ授業を始めてくれるんだ。

テストに限らず学校生活について、下校した我が子とお喋りをする、あるはずだった日常を包み込むように、私はひとときの親子時間をかみしめる。

数学の三平方の定理にも、英語の関係代名詞にも、社会の経済活動にも、すべての授業に、ありがとう。テスト勉強中のタロウは、ありがとうよりハヨ終われ、かもしれないが。

とにかく、世界は、繋がっているんだ。

タロウとの緩やかなランチタイムのあとには、次男ジロウとの密会交流が慣行される。タロウに会って、ジロウに会う。ふたりの我が子と同じ日に会えるなんて、よき週だ。

水曜日。いつもの集合場所へ行くと、ジロウがいつものようにやってきた。だけどいつもと違って、タロウを話題にする。「タロウと何食べたん?」。

ジロウも短縮授業でランチ会できるのだけど、タロウみたいに交渉に慣れていないっぽい。というか交渉をつい忘れるらしい。実子誘拐からの7年以上で、短縮授業の日のルーティーンが、もう出来上がってしまってるから。

習慣は大切だけど、思考停止に陥りやすい。子育ては習慣みたいなもん。だから母親の存在を消されて育つ、タロジロの未来は想像に難くないんだ。

親を奪い消す社会をつづけて77年以上の国が、今の日本。未来を待たなくても、もうとっくに解がでてる。家族が崩壊して、国がカラッポ。

だからこそ私は7年以上あきらめず、タロジロと過ごす1秒にしがみつくんだ。我が子の心を、カラッポには、させない。

木曜日のタロウとのランチ会。ドンジャラ使って、タロウから麻雀を教わった。難しくて牌をなかなか切れない私に、見かねたタロウが声をかける。

お母ちゃん。数こなせばわかってくるから、とりあえずやってみたらええねんで。

鼻の奥がツンとして、視界がなんだか滲む。生きる力を、タロウがちゃんと、言語化してる。やってみないと何もはじまらないし、失敗しないと成長しない。いまいちわかってないけれど、麻雀さん、ありがとう。

説明上手なタロウのおかげで、牌を切るスピードがあがってきた頃、タロウが時計に目を向けはじめた。

時間はもどりランチどき。夕方に約束しているジロウとの密会時間を、タロウと確認する。するとタロウの応答は「明日ははよ帰らなあかんねん」。

ジロウと母の密会時間が気になる、木曜日のタロウ。タロウと母のランチ時間が気になる、水曜日のジロウ。放課後も、食事も、ありふれた親子の時間、のはずなんだけどな。

練習用に麻雀アプリを激押しされて、タロウと私の木曜日は終わり、いつもの密会交流に向かうと、ジロウの姿は見当たらなかった。

タロウのテスト期間中は、ジロウの小学校ではふれあい懇談会。下校時間がいつもと違うらしく、ジロウは前もって私に知らせていた。

だけど過去一きれいにすれ違ったらしい。いつもの待ち合わせ場所で、雨粒が車の窓に落ちてくる。そういやタロウが、ジロウの帰宅先が違う日かも、と呟いてもいたな。下校先が変更した可能性もある。

「明日はあかんけど、今日なら長くお母ちゃんとおれるねん」と無言で叫んでたらしきタロウが蘇る。あと1時間、いや30分、もう15分、一緒にいられたかもしれない。

いやいやいや、タロウもだけど、ジロウはどこだ。ワイパーのスイッチを入れると、窓の雨雫がしゅっしゅと弾かれた。

ジロウと一緒に帰宅するはずだった、さっきまでタロウがいた家に、サクサクとひとりで戻る。テーブルには麻雀のアプリ名を、タロウが走り書きしたメモ。

あったかい緑茶でも飲もうと、ポットの湯気を眺めていると、勝手口の扉が台風みたいな勢いでひらく。

雨でびしょ濡れになったジロウだった。

どうやら下校先に変更はなく、ただただすれ違っていたらしい。「遊びにきたで!」と息を切らして「今日はタロウと何食べたん?」と太陽みたいな顔で登場する。

タロジロと私は母子3人でも、なかなか一緒に過ごせないけれど、たとえ一緒にいなくたって、影響を及ぼし合っているんだな。

私たちは、親子で、家族だから。

国が、社会が、世間が、私たちを親子と信じなくとも、私たち親子は確かな愛で、今この瞬間も、繋がっているんだ。



金曜日のラーメン屋さん
クーポン探すタロウさま
店員さんの話をうろ聞きしすぎる母を
タロウは苦笑いで注意する

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