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例句で知る「として」の意味と用法

俳句を始めて1年半が経った。

俳句の知識はある程度増えたが、まだまだ知らないことがあまりにも多い。分からないことを調べながら記事を書くことで、自分が持つ断片的な知識を体系的なものとし、最終的には作句の幅を広げることができるのではないかと考えている。

今後、主に文法や作句のちょっとしたテクニック、気付いたことについて扱う予定。

今回は、「として」という言葉の使い方と意味について、例句を見ながら整理する。具体的には、下記PDFに記載の「として」の分類に当てはまる句を探して、その使われ方を確認した。

複合助詞「として」の意味・用法再考
-日本語研究と日本語教育研究からの包括的記述の試みの一事例として-
(鈴木智美)

なお、例句で使用されている季語やいくつかの言葉には説明を付けている。

1.その他

「政府として対策を考える」のように、名詞に後接して立場を示すような「として」について整理するのがメイン(第2章)。先にそれ以外を確認する。

-1.1 タリ活用形容動詞の連用形+接続助詞「して」

「そのような状態で」の意で下へ続ける。

<例句>

星屑や鬱然うつぜんとして夜の新樹 日野草城

・新樹(夏):若葉におおわれた初夏のみずみずしい樹木。
・鬱然:草木がこんもりと茂っているさま。

-1.2 副詞+接続助詞「して」

<例句>

しんとして牡丹ぼたん崩るる夜中かな 正岡子規

・牡丹(夏):ボタン科の落葉低木の花。

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-1.3 ~しようとして

<例句>

烏瓜からすうり枯れなむとして朱を深む 松本澄江

・烏瓜(秋):ウリ科の蔓性多年草の実。

烏瓜

-1.4 別の話題に移る

<例文>
仕事はいいとして、体の具合はどうだい。

<例句>
例句は見つかりませんでした。

-1.5 (下に打消を伴って)例外なく全部

<例文>
一人として生き残った者はいない。

<例句>
例句は見つかりませんでした。

2.名詞に後接する「として」

分類は 複合助詞「として」の意味・用法再考 にしたがう。

-2.1 存在・行動のあり方の規定

<意味>
Aは、Bという資格・立場・名目で...する。(A=B)

<例文>
私は留学生として日本に来た。

<例句>

おぼろ夜のかたまりとしてものおもふ 加藤楸邨

・朧夜(春):朧にぼんやりかすんだ春の夜。

俳句では、主語が明示されていない場合、主語は私(作者自身)として読むことが多い。上の句で「ものおもふ」のは「私」である。

白鷺しらさぎは発光体として歩く 山口剛

・白鷺(夏):サギ科の白色の鳥の総称。

秋草のいづれも供花きょうかとして立ちぬ 櫂未知子

・秋草(秋):秋の七草をはじめ、秋に咲くさまざまな花のこと。
・供花:故人に供える花。

-2.2 行為・行動・態度のあり方の規定

<意味>
Aは、BをCというものと{考えて/ 位置付けて}、...する。(B=C)

<例文>
ホームステイの家族は、私を家族の一人として温かく迎えてくれた。

<例句>

緑蔭りょくいんを大きな部屋として使ふ 岩淵喜代子

・緑蔭(夏):緑が茂った木立の影。炎天下とは別世界のような涼しさを感じさせる。

純白のマスクをたてとして会へり 野見山ひふみ

-2.3 ある一つの側面からの価値付け・意味付け

<意味>
Aは、Bという側面から考えると...だ。(A=B)

<例文>
吉野の山は桜の名所として名高い。

<例句>
例句は見つかりませんでした。

-2.4 価値付け・意味付けの観点を示す文修飾副詞相当句

<意味>
Aは、Bという観点から考えると、 ...だと言える。

<例文>
このような失敗は、プロとして恥ずかしい

<例句>

あけびの実軽しつぶてとして重し 金子兜太

通草あけび:アケビ科の蔓性落葉低木。春に花を咲かせ、秋に淡紫色の実をつける。

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-2.5 行為・行動の規定・意味付け

<意味>
Aは、Bという意味で、...する。(B=…)

<例文>
彼は仕事として雑誌に日本語の文章を書いている。

<例句>
例句は見つかりませんでした。

-2.6 行為・行動の主体

<意味>
Aは、Aという資格・立場・名目で...する。

<例文>
政府として 、早急に対策を考えたい。

<例句>

炎天や昆虫としてただあゆむ 木下夕爾

・炎天(夏):ぎらぎら太陽が照りつける真夏の空。

上の句は、「ある昆虫が昆虫としてただあゆむ」と読めば2.6に分類されるが、「私は昆虫としてただあゆむ」と読めば2.1に分類される。

注意:2の「として」が名詞を修飾する場合

2.1の例句「白鷺は発光体として歩く」は、「発光体としての白鷺が歩く」と変形しても大きくは意味は変わらない。

このように、「として」が名詞を修飾する場合は「としての」になる。

<例句>

しんがりとしての大きな白日傘 渋川京子

・日傘(夏):強い日差しを避けるために用いる傘。白日傘は日傘の傍題。
・しんがり: 退却する軍列の最後尾にあって、敵の追撃を防ぐこと。また、その部隊。 隊列や順番などの最後。

ただし、「~として<名詞>」の形で名詞を修飾しているように見える句がいくつもある。

<例句>

大寒だいかんの残骸として飼育室 曾根毅

・大寒(冬):二十四節季の一つで、1月24日ごろにあたる。一年で最も気温が低い時期である。

しぎの群翔ち濁点としてわれら 中村路子

・鴫(秋):シギ科の鳥の総称。

これらは、「として」の「」が省略されたと解釈できる。または、

飼育室は大寒の残骸としてそこにある
→大寒の残骸として、飼育室はそこにある
→大寒の残骸として飼育室

のように、術語を省略した形とも解釈できると思う。

参考URL

https://www.lang.nagoya-u.ac.jp/bugai/kokugen/nichigen/menu7_folder/symposium/pdf/4/01.pdf

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6/

http://www.haiku-data.jp/index.php

https://kigosai.sub.jp/001/27701-2



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