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完了の助動詞総ざらい

完了の用法を持つ文語の助動詞に「つ」「ぬ」「たり」「り」がある。それぞれの意味や使い方をまとめ、最後に例句を示す。

完了の助動詞の整理

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「たり」「り」はともに完了だけでなく存続の用法がある。存続の意味で使われる場合の方が多い。

「り」はたった1音で完了や存続を表現できるので、ぜひ使いこなしたい。

「り」の接続は特殊で、サ行変格活用動詞の未然形と四段活用動詞の已然形にしか接続しない。それ以外の動詞に接続するのは誤用である。

OKの例
・死す(サ行変格活用動詞)+り → 死せり
・書く(四段活用動詞)+り → 書けり

NGの例
・死ぬ(ナ行変格活用動詞)+り → 死ねり
・捨つ(下二段活用動詞)+り → 捨てり

サ変の「す」は{/し/す/する/すれ/せよ}と活用する。そのため、「り」が接続する場合、「死す」は未然形の「死せ」になる。

四段活用である「書く」は{か/き/き/く//け}のように活用する。そのため、「り」が接続する場合、「書く」は已然形の「書け」になる。

「り」が接続する動詞の活用語尾は、いずれも e の音になっている。

e の音にすれば何でも接続できると勘違いして、上記のNGの例のように、サ変・四段以外の動詞を「り」に接続させる誤用が見られる。文法的に誤りなので作句では避けたい。

「り」の接続は下記の語呂合わせが有名。

「り」はさみしい(サ・未・四・已)

例句

つ(完了)

大寺や霜除しもよけしつる芭蕉林 村上鬼城

複合サ変動詞の「霜除す」の連用形「霜除し」に、完了の「つ」が接続する。「つ」は名詞に付いているため、連体形の「つる」になる。

つ(強意)

この梅に牛も初音と鳴きつべし 芭蕉

「べし」には様々な用法があるが、「つべし」で「べし」の意味を強める。掲句の場合、「きっと鳴くに違いない」と意味を取るのが自然。

ぬ(完了)

石鹼のネットに砂や冬めきぬ 小野あらた

四段活用動詞「冬めく」の連用形に、完了の「ぬ」が接続する。

更衣ころもがへ駅白波となりにけり 綾部仁喜

「にけり」で、すでに完了している事柄について、その事実にあらたに気づいた気持ちを表わす。詠嘆を伴う。

掲句は「白波となってしまったことよ」と意味を取れる。

ぬ(強意)

鶏頭の十四五本もありぬべし 正岡子規

「つべし」と同様に、「ぬべし」の形も「ぬ」は強意。「きっと十四五本もあるに違いない」となる。

たり(存続)

隙間風さまざまのもの経て来たり 波多野爽波

カ変動詞の「来(く)」の連用形「来(き)」に、「たり」が接続する。「来ている」という意味になる。

蠅叩⼀⽇失せてゐたりけり 吉岡禅寺洞

「たりけり」は、完了または継続した状態を回想する表現。その状態にいま気づいたという気持ちを表わす。掲句の使い方はまさにピッタリ。

り(存続)

妻がゐて夜長を言へりさう思ふ 森澄雄

四段活用動詞「言ふ」の已然形「言へ」に、「り」が接続する。「夜長のことを言っている」と意味を取れる。

ほのかなる少⼥のひげの汗ばめる ⼭⼝誓⼦

四段活用動詞「汗ばむ」の已然形に、「り」が接続する。句末の「る」は「り」の連体形である。意味は「汗ばんでいることよ」となる。


補足
完了の助動詞「り」がカ行四段活用動詞に接続すると、字面に「けり」が現れるため、過去の助動詞「けり」と勘違いされるケースがある。

例えば

算術の少年しのび泣けり夏 西東三鬼

の「泣けり」は、「泣け+り」であって、「泣+けり」ではない。

過去の助動詞「けり」が「泣く」に接続する場合は、「泣きけり」になる。


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