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助詞「を」の意味と例句

助詞はたったの1音2音だが、その選択で句の意味や印象が大きく変わる。助詞それぞれの意味や用法を整理し、例句を通して理解を深めたい。

まずは「を」を扱う。メインの使い方である格助詞の用法のみ取り上げる。

「を」の意味

  1. 動作・作用の目標・対象を表す。
    例:家を建てる。水を飲みたい。
    ※「が」に置き換えられる場合がある

  2. 移動の意を表す動詞に応じて、動作の出発点・分離点を示す。
    例:東京を離れる。席を立つ。
    ※「から」に置き換えられる場合がある

  3. 移動の意を表す動詞に応じて、動作の経由する場所を示す。
    例:山道を行く。廊下を走る。

  4. 動作・作用の持続する時間を示す。
    例:長い年月を過ごす。日々を送る。

goo辞書 「を」の意味 より
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%82%92/

例句

1.動作・作用の目標・対象

白絹で碁石を磨く小六月
浅井陽子

・小六月:小春の傍題。旧暦十月の異称。

窓の雪女体にて湯をあふれしむ
桂 信子

「しむ」は使役の助動詞で、「自分の体で湯をあふれさせる」という意味になる。

2.動作の出発点・分離点

大寒や星のなまへの店を出て
小林すみれ

・大寒:二十四節気の一つ。一月二十一日ごろにあたり、一年のうちで最も寒さが厳しい。

靴の砂返して冬の海を去る
和田祥子

好きな句。

3.動作の経由する場所

雪野来て雪野を帰るの使ひ
小畑柚流

「雪野来て」は、「雪野を来て」のように「を」を補って意味を取ることができる。俳句ではよく助詞が省略される。雪野さんが来たわけではない。

日脚伸ぶ電車の中を人歩き
神蔵 器

「電車を」ではなく「電車の中を」のダメ押しで、クローズアップされた光景が確実に伝わる。

4.動作・作用の持続する時間

六月を奇麗な風の吹くことよ
正岡子規

六月という時間を、奇麗な風が吹いている。

昇降機しづかに雷の夜を昇る
西東三鬼

好きな句。雷の夜という時間と空間をしずかにエレベーターが昇る。

上の2句の「を」は、動作・作用の持続する時間を示す「を」に分類したが、「長い年月を過ごす」のように単純に時間だけを示す使い方ではない。

日常会話で「風が六月を吹く」や「エレベーターが夜を昇る」という言い方はしない。現実的に考えれば、風はビルの間を吹いたり、海の上を吹いたりする。つまり、風は空間を吹く。エレベーターであれば、建物の中の決められた空間を昇る。

「吹く」や「昇る」という動詞は、動作の及ぶ空間を自然と想像させる。このような動詞の目的語に時間を表す言葉を用いて、時間と空間の両方を描いている。


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