映画『永い言い訳』人生は他者だ。

「ゆれる」「すばらしき世界」の西川美和監督が自身の小説を映画化した作品です。公開時に映画館で鑑賞。何度観ても西川監督の人間描写は素晴らしいです。

西川美和原作・脚本・監督。2016年製作。日本映画。

人気作家の衣笠幸夫（本木雅弘）は、スキーバスの事故で妻・夏子（深津絵里）を失います。妻に対する愛情はすでに無く、妻が事故にあった時も幸夫は不倫相手と過ごしていました。ある日、幸夫は同じバスの事故で妻を亡くした大宮陽一（竹原ピストル）と出会います。陽一の妻は夏子の親友で、一緒にスキーに行く道中で事故に遭いました。陽一は幼い子供2人を抱え、憔悴しています。トラック運転手という仕事上、家を留守にすることも多い陽一。そんな彼に、陽一宅に通い子供たちの面倒をみることを、幸夫は申し出ます。幸夫と子供達とで過ごす日々が始まりますが...

主人公の衣笠幸夫が、悲しくないのに悲しいふりをする姿は滑稽でもありました。幸夫は本音で向き合う事を避ける人です。避けているうちに自分自身も見失っているようです。本木雅弘がいい感じに情けない人気作家を演じています。

竹原ピストル演じる陽一は、幸夫と対極の存在として描かれています。陽一は表裏のない見たままの人で、妻に対する愛情はとても深い。

彼は妻の死が受け入れられず、携帯電話で事故前の妻のメッセージを聴いては涙する毎日です。

中学進学前の息子・真平や幼稚園に通う娘・灯のことまでは気が回りません。

小さい灯の世話と家事は息子・真平の大きな負担になっていて、真平は進学塾も辞めようとしています。

子供達の演技が自然でとても良かったです。

幸夫は真平の進路について話しを聞く中で信頼され、灯にも懐かれます。

幸夫は、絶望の真っ只中にいる陽一家族と、自分でも思う以上に深く関わります。

＊

亡き妻のスマートフォンには幸夫宛の下書きが残されていました。

もう愛してない。
ひとかけらも

強い印象を残したシーンです。

ただ、送信はされていない。亡くなった彼女の気持ちを確かめることは、もう誰もできないのです。

＊

陽一がトラックで事故を起こしてしまい、迎えに行った幸夫と真平。

幸夫は一人電車で帰ります。

電車の中で泣きながら手帳に書いた言葉。

人生は、他者だ。

妻の事は愛していないと思っていた。

でも永い年月、共に過ごした。

懐いてきた幼子。

いつのまにか大切な存在になっていた。

人は自分のことを知っているようで

案外知らない。

映画のストーリー自体はとても解かりやすくシンプルです。難解なところはありません。それでいて、登場人物の気持ちの解釈は、観る人の数だけあると思います。

どう感じるか。

観る人の人生が顔を出すのではないでしょうか。