映画『街の上で』今泉力哉監督が描く街と日常
2021年4月10日、出町座。「街の上で」の上映後、今泉力哉監督が登壇されました。
「街の上で」は2019年7月に東京・下北沢で撮影されましたが、社会情勢により公開が延期され、ようやく2021年4月に公開の運びとなった作品です。
「愛がなんだ」「mellow」「his」「あの頃。」の今泉力哉監督・脚本。
さりげない日常を描く作品が好きです。
この作品も、彼女に浮気されたうえにフラれてしまった古着屋の荒川青(若葉竜也)の日常をおだやかに描いています。
青は古着屋のレジ横で毎日ずっと本を読んでいます。その青に絡んでくる可愛らしくて個性的な女性たち。
主人公青を演じる若葉竜也の演技が、力が抜けていてとても自然でした。
ところどころ、くすっと笑えて心地よかったです。
ストーリーを追うことを楽しむより、登場人物の会話や間、一つ一つの小さいエピソードを味わうような作品です。
青がカフェの店長(芹澤興人)と交わす会話。
亡くなった古本屋の店主のことを、ぽつりぽつりと話すシーンは温かい。
卒業制作映画の撮影のあと、イハ(中田青渚)と青が、イハの家で過去の恋愛話をするシーン。
恋愛エピソードがいちいち面白く、ずっと聴いていられるような会話が続きます。ほんとうの雑談のようです。
青の決して高まらない話しぶりが、会話の可笑しみを増していました。
自分の恋愛を語ってしまう警官、古着屋に現れる不穏なふたり。
どこか可笑しいけど愛おしい人々を描くのが今泉監督の持ち味だと思います。
重すぎず、穏やかな作品です。
*
上映後は場所を変えずに、今泉監督とプロデューサーの髭野氏が登壇。
進行は出町座の田中氏です。
今泉監督はソフトな口調で、沢山話してくださいました。
大変な社会情勢の中、大勢の方に映画館に来ていただき感謝します。このような光景を観ることができて嬉しく思います。
<イハの関西弁について>
イハははじめ関西弁ではなかったが途中で変更された。監督が関西弁で脚本を書いてみたが「~でっしゃろ」みたいな古典的関西弁になってしまった。
イハを演じる中田青渚(兵庫県出身)が自然な関西弁で話すように心がけた。
<若葉竜也の演技>
主演の若葉竜也は全編受けの演技。一か所だけ自分から動く演技がある。そこは監督が最初考えていた演技では無かったが、良かったので採用した。
(ネタバレになるので、どの箇所かは秘密です)
<出演者>
俳優演技ワークショップ講座を開催して、最終的に10名近くがワークショップから本作品に出演している。
<出町座>
出町座は今泉監督が下北沢で映画を撮るという情報が出て、日本で一番早く連絡をした映画館。
他にも作品を制作する苦労などを知ることができて良かったです。
すでに人気作品を世に出している監督が、ミニシアターに足を運んで話をするということ。
作品の宣伝だけではない、今泉監督の映画制作に対する情熱と愛情が伝わります。
「街の上で」は今泉監督の撮りたかった作品なんだと感じました。
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