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月乃
2024年8月28日 07:59
雑に塗り替えられた電飾看板には「スナックチェリー」と書かれている。その文字は、スーパーで売れ残ったアメリカンチェリーのような色をしていた。バス通り沿いの小さな二階建ての古い借家に、私達家族は引っ越した。一階は台所とお風呂、そしてお店になっている。二階は六畳二間にトイレ。そこで暮らすことになった。七歳の冬だった。一階は元々喫茶店だったようで、そこで母がスナックを始めた。父は自営の小さな自動
2024年8月21日 10:14
椛だったか、桜だったか。何か模様の入ったガラスの引き戸だった。その昭和レトロガラスと呼ばれるガラスは、今はとても貴重なものらしい。私にとって、トラウマのようなそのガラスの存在は、いつまでも記憶の一番奥の引き出しに眠っている。両親が離婚して、母と弟と3人で暮らしていた頃。六畳二間の狭い借家にそれはあった。ある暑い夏の日。朝早くに目が覚めて、いつも隣に寝ているはずの母がいないことに気