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日本列島の自然の成り立ちや、身近な自然の驚異である人体、一輪の花の形態から数億年に及ぶ…

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日本列島の自然の成り立ちや、身近な自然の驚異である人体、一輪の花の形態から数億年に及ぶ昆虫と植物の共進化に思いを馳せるガーデニングなど、生物学、生態学、地球科学、自然史、環境政策に関する書籍を1953年から出版する会社です。人間社会と自然の関わりを考える歴史書も。

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    築地書館社員が語る、日常のあれこれ話です。(月1回予定)

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広葉樹の国フランスー本文より

再生の決め手はいまも広葉樹 「日本の若者はアメリカナイズされすぎている。ヨーロッパに対して昔の日本人がもっていた、燃えるような憧れがない。いつまでもアメリカ離れをしないのは個人の自由だが、ヨーロッパの伝統が日本人に忘れ去られていくのは、じつにもったいない」 国内で昔私が通った大学で、よく教授がそう言っていた。当時は若者だけではなく、日本全体がそうだと思えたものだった。 とくにマーケティング分野には、この見方がそのままあてはまる。 あるとき東京の有名デパートへ、オーク製の

    • 広葉樹の国フランスーはじめに

      ガリアと呼ばれる太古のフランスは、見わたすかぎりの原生林に覆われていた。 侵略や開墾などで、その森は19世紀までに大半が失われた。 だが一方で、1000年近くに及ぶ森づくりの伝統もある。それは歴史的苦難とぶつかるたびに新たな技術と政策を生み出し、ここ200年ほどは着実に緑を再生してきた。いまは国土の約3分の1を森が占めている。 この森林率は、森と林業のイメージが強い隣国ドイツにほぼひとしい。またフランスの人口一人あたりの森林面積は0.25ヘクタールで、日本の0.19ヘクター

      • 広葉樹の国フランスー目次

        はじめに Ⅰ  知られざる森林立国─ガリアの魂とフランス林業 オークでよみがえったノートルダム・ド・パリ ビストロの看板も、パン工房の木炭も 自由・平等・緑愛 キーストーンの世界戦略 聖女伝説にさかのぼる水・森林管理 意識の古層のガリア、ケルト─失われた森を求めて 樹木信仰とユビキタス 気がつけば森林国─一人あたりの森林面積は日本以上 モザイク国土が生んだ「適地適木」 山脈の地質にはぐくまれ─フランスのおもな樹種 極相林(クリマ)を生かした林業経営 複層林でつらぬく「広葉樹

        • 広葉樹の国フランスー書影

        広葉樹の国フランスー本文より

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          映画PERFECT DAYS 雑感

          ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演、役所がカンヌ映画祭最優秀男優賞を取った話題作だ。東京渋谷区の建築家やクリエイターが設計した公共トイレ17か所を軽のワンボックスカーに清掃用具を積んで清掃巡回するチームの一員である平山(役所が演じる)の日常生活を追ったドキュメンタリーのような映画だ。 どのくらいの頻度で17か所をめぐっているのかは映画の中では示されないが、清掃ぶりが職人技なのである。ちょうど木工職人が切り出した木材を鉋(かんな)掛けしたり、切り出しナイフで削りだしたりす

          映画PERFECT DAYS 雑感

          脳科学で解く心の病―編集部より

          著者自身も含め、多くの脳科学者の研究により、 さまざまな精神疾患が、ほんのちょっとした脳の異変によって生じること、 精神疾患を発症していない状態が奇跡のように思えるほど、複雑極まりない脳の機能に衝撃を受けたのと、 研究が進んでこれからどういった機能が解明されていくのか、脳への興味が増していく。 また、注意深く症状と折り合いをつけながら日々を送る、自閉スペクトラム症の子を持つ親と患者本人の話、 この症状を抱えて生きるのがどれほど困難か、想像を絶する統合失調症の当事者の話、 依

          脳科学で解く心の病―編集部より

          脳科学で解く心の病―訳者あとがき

           本書の著者エリック・カンデルは、脳神経科学の代表的な教科書『カンデル神経科学』の主要な著者である。2000年には、記憶や学習に関する神経メカニズムの研究でノーベル生理学医学賞を受賞した。生涯の研究テーマとしてヒトの心、つまり精神の本質を解明しようと取り組んできた。  心と身体の関係について、17世紀の哲学者デカルトは、「我思う、故に我あり」と述べ、心は身体とは別にあり、身体とは無関係に動く、とする心身二元論を唱えた。しかし20世紀後半、現実はデカルトの考えとは逆で、「我あ

          脳科学で解く心の病―訳者あとがき

          脳科学で解く心の病―まえがき

           私は生涯、脳の働きと、人類が行動する際の動機について理解しようと努めてきた。ヒトラーがウィーンを占領した直後に国外へ逃避したという少年時代の体験から、人類の実存に関連する大きな謎の一つに心を奪われるようになった。地球上でもっとも発展し、洗練された文化をもつ社会が、どのようにして突然、悪に向かって突き進むことができたのだろうか? 倫理的なジレンマに直面した人は、どのように選択をするのだろうか? 分裂した自己は、専門知識を備えた人々との相互作用によって癒やされるのだろうか? 私

          脳科学で解く心の病―まえがき

          脳科学で解く心の病―目次

          まえがき 第1章 脳障害からわかる人類の本質 脳神経科学と精神医学のパイオニア ニューロン──脳の構成要素 ニューロンの秘密の言語 精神医学と脳神経科学の隔たり 脳障害に対する現代の研究手法 遺伝学 脳イメージング モデル動物 精神障害と神経障害の隔たりを埋める 第2章 人類のもつ強力な社会性──自閉スペクトラム症 自閉スペクトラム症と社会脳 社会脳の神経回路網 自閉スペクトラム症の発見 自閉スペクトラム症とともに生きる 自閉スペクトラム症における遺伝子の役割 コピー数の

          脳科学で解く心の病―目次

          脳科学で解く心の病―書影

          脳科学で解く心の病―書影

          都市に侵入する獣たち―編集部より

          2023年は、OSO18をはじめ街中に出没するクマによる被害が大きな話題になりました。本来「自然」の領域にいるはずの猛獣が人間の暮らす領域で行動するようになったのはなぜなのか、その理由に多くの人々が関心を寄せています。 本書は、アメリカ・カリフォルニア大学で環境学を教える著者が、アメリカの都市が「奇妙な野生生物保護区」になった理由を歴史的・科学的に振り返る『Accidental Ecosystem』(2022)の翻訳です。訳者陣は、長年京都などで野生動物の研究、保護と駆除に

          都市に侵入する獣たち―編集部より

          都市に侵入する獣たち―訳者あとがき

           飛行機の窓から大阪の中心部を見ると、灰色の四角い建物たちが立ち並び、ほんの少しの緑と中心部を流れる、コンクリートで護岸された川が見える。人が住みはじめる前は、森や湿地、草原が広がり、シカや、イノシシやツキノワグマも自由に闊歩していたことだろう。今は大型の獣は姿を消し、樹上棲のリスやムササビを見ることもない。  北アメリカへ人々が移住を始めた時、そして徐々に人口が増加していった時、何が起こったのかをこの本で作者は劇的に明らかにしてくれる。  著者によれば「マンハッタン島だ

          都市に侵入する獣たち―訳者あとがき

          都市に侵入する獣たち―まえがき

           数年前のよく晴れたある冬の日、私は荷物をまとめ、服を着替え、自転車に飛び乗って、職場から家に向かった。その日は金曜日で、週末を早く迎えるにふさわしいと思ったからだ。10年近くを費やした私の最初の本の最後の仕上げをちょうどしたところで、手が空いていたのだ。しかし、今のところ、私は午後の休暇を取ることで満足していた。  自宅へと向かう自転車道は、職場である大学のキャンパスから海辺を抜け、高速道路に沿って湿地を横切り、いくつかの小さな農場を回り、静かな郊外を抜け、にぎやかな繁華

          都市に侵入する獣たち―まえがき

          都市に侵入する獣たち―目次

          まえがき──あるボブキャットとの出合い 序論 猛獣たちのいるところは、今 都市生態系をめぐる2つの立場 「都市」「野生生物」の定義と本書の主役 第1章 都市は生命あふれる場所にこそつくられた 地理的な特徴 都市の発展と生態系へのダメージ 第2章 家畜が都市を支配していた時代 うろつく家畜 汚物と病気 家畜の追放と都市の浄化 第3章 都市の緑が野生生物を繁栄させた 野生生物抜きの都市計画 公園・街路樹・保護区の出現 第4章 郊外の成長と狩猟の衰退がもたらしたもの 都市

          都市に侵入する獣たち―目次

          都市に侵入する獣たち―書影

          都市に侵入する獣たち―書影

          『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』雑感

          紀伊國屋書店から紀伊國屋じんぶん大賞のパンフレットが送られてきた。 今年の大賞受賞作は、『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(小野寺拓也+田野大輔著 岩波ブックレット──ブックレットといっても2段組で新書1冊分くらいの分量あり)である。 ナチス政権の権力掌握過程、経済政策、労働政策、家族支援、環境政策、健康保健政策について、「事実・解釈・意見」の3層構造で分析していく。 受賞パンフレットに載っている著者による「じんぶん大賞特別寄稿」には「確かに事実の確定は重要です。でも

          『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』雑感