スザンヌ・シマードさんの苦渋に満ちた講演を聞く

5/27、広尾の聖心女子大学の講堂で、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の森林生態学者シマード博士の講演を聴く機会があった。

森林土壌の、樹木と土壌微生物のパートナーシップが、根圏での1対1の関係だけでなく、多様な樹種と多様な菌根菌が森林でネットワークを作っているということを提唱した科学者だ。そうした仮説をどのように思いつき、どのようにその仮説を証明していったのかの講演だと思っていた。

しかし内容は、森林生態学者レイチェル・ホルトさんとともに、日本の国土面積の数倍の広さを持つブリティッシュコロンビア州の途上国型森林産業が構造的に持つ欠陥にピタリとはまった、日本と韓国向けの木質燃料ペレットの生産が、温帯原生雨林の皆伐という環境破壊をどのようにもたらしているかをショッキングな形で提示される場となった。

自分が住む州のお粗末な森林産業について語る二人の森林生態学者の表情は終始苦渋に満ちている。

数千億円を投じて、地中への二酸化炭素貯留技術を開発しようという時代に、最も安定した炭素貯留の仕組みを持つ原生林を破壊して樹木と森林土壌から二酸化炭素を吐き出させている。われわれ日本で電気を使う市民が毎月電力会社に払っている再生エネルギー賦課金がその原資である。

再生可能エネルギー固定価格買取制度によってバイオマス発電事業者が市場価格よりも高い価格で電力を売れるのは、われわれが払っているこの賦課金のおかげだ。太陽光や風力、地熱など二酸化炭素を出さない再生可能エネルギーによる発電の仕組みが社会にビルトインされるまで、賦課金を支払って皆で再生エネルギーを支えようということのはずだ。

それが何ということだ。温暖化を加速させている原生林破壊によって生産された木質ペレットをバイオマス発電事業者が爆買いして日本まで運び、50パーセントにも満たない発電効率でこのペレットを燃料にして電気を生産しているなんて、知らなかった。本来、効率が悪いので発電には向かない木質バイオマス発電による電気を高く買い上げるのは、その木質燃料が建築廃材や、製材所のおがくず、未利用残材だからのはずである。

この病的にゆがんだ再生可能エネルギー固定価格買取制度をとめなければ。少なくとも私が払っている電気料金で貴重な温帯雨林破壊の片棒を担ぐのはまっぴらだ。

土井二郎

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