ゲーム開発の道標(企画から完成まで)その3・ゲームに必要な情報収集をする
前回の「その2」ではゲームシステムを決めるところまで進めました。しかし、システムだけではゲームは成り立ちません。データが必要です。
カードゲームで且つ将来的にアナログゲームでも遊べるようにしたいので、カードで合戦をこなせるようなデータが必要なのです。
そのまえに、どんなカード(札)が必要かチェックしてみましょう。
「その2」と少し内容が被りますがご了承くださいませ。
どんなカードが必要かチェック!
■ 攻撃札
攻撃属性の「足軽」「長槍」「騎馬」「長弓」「鉄砲」5種類は必要です。
これらを「攻撃札」と命名しました。
これらの上位兵種も設定しておきたいところです。
「足軽」「長槍」「騎馬」「長弓」「鉄砲」の熟練兵版もデータ化!
■ 戦功札
合戦時に勝敗を決める戦功が書かれている札データも必要です。
籠城戦と野戦の2パターンがあると想定しました。
野戦での要衝となりそうな地形や建物は以下のように考えました。
・「村落」「宿場町」「商人町」「武家屋敷」
籠城戦は城が舞台となりますので城の施設を要衝と考えました。
・「城門」「櫓」「二の丸」「天守閣」
合戦によって生じるマイナス要素、戦功点的にもマイナスになるカードも設定しておきます。戦功点が変化する札はすべて戦功札としました。
・「廃屋」「死傷者」
■ 武将札
津軽為信を主人公として戦国時代の津軽地方を舞台にしたゲーム。となれば合戦に武将たちが登場しないと寂しいですよね。
◆信長の野望などのゲームにも登場する「津軽為信」と家臣たち
・主人公 「津軽為信」
・大浦三老 「兼平綱則」「小笠原信浄」「森岡信元」
・軍師 「沼田祐光」
◆ライバルとなる南部氏、浪岡氏の武将たち
・第二主人公 「南部信直」(※南部氏側でも遊びたい)
・ライバル 「石川高信」「浪岡顕村」「滝本重行」
・有名人 「九戸政実」「九戸実親」
・軍師 「北信愛」
◆一般的には知られてない人物たち
・「一町田信清」「板垣将兼」
◆興味を引きそうな話が残っている人
・「念西坊頼英」「千徳政氏」「千徳政武」「乳井建清」「朝日行安」
■ 策略札
攻撃(もしくは迎撃)に使用する攻撃札と武将札とは別に「策略札」を設定しました。攻撃札と武将札を出す前に、特に記載がなければ1枚だけ使用可能とします。
◆ゲーム仕様に関わる「距離切替」「偵察」を設定しました。
・「距離切替」 両陣営の距離(遠/近距離)を切り替えます。
・「偵察」 相手の手札を確認できます(画面表示する)
◆攻撃力を補正する策略札もあった方がいいでしょう。
・「鼓舞」 近距離の攻撃力+2されます。
・「火攻め」 遠/近距離の攻撃力+3、但し同時に廃屋札を得ます。
・「急襲」 相手の近距離の攻撃力-2します。
◆一時的に手札を増やす(減らす)策略札があると便利ですよね?
・「小荷駄隊」 山札から2枚を手札に加えます。
・「早駆け」 山札から1枚を手札に加え、策略札をもう一度使えます。
・「南部駒」 山札から2枚を手札に加え、策略札をもう一度使えます。
・「ならず者」 相手は1枚の手札を捨札にし、策略札をもう一度使えます。
・「暗殺」 相手は2枚の手札を捨札にします。
・「虚報」 相手は迎撃に武将札を使用できなくなります。
・「撹乱」 相手の連撃回数が-1されます。
必要なデータ項目を考える
ここまで羅列してきたカード(札)候補は、当然ではありますがカードという共通点があります。これをゲーム内のデータベースに格納しておく必要があります。
どんなデータ項目が必要でしょうか?
それを考えていきます。システム設計、DB設計の実践例ですね。
・カード分類 攻撃札/戦功札/武将札/策略札…と分類付けします。
・攻撃属性1 足軽/長槍/騎馬/長弓/鉄砲…と攻撃属性も必要です。
・攻撃属性2 武将は最大で2つの属性を持っています。
・突撃値 近距離攻撃力です。戦功札と策略札ではZeroとなります。
・斉射値 遠距離攻撃力です。戦功札と策略札ではZeroとなります。
・連撃値 同時に出せる札の数です。戦功・策略・武将札はZeroです。
・戦功点 合戦終了時に合計する戦功点。戦功札以外はZeroです。
・初期在庫 カード購入時に「在庫がどれくらいあるか」の値です。
・最大在庫 同じ武将札を持たせないように武将札は1となります。
・入荷スパン 在庫を増やすタイミングです。
・価格 軍備を整える(買う)際に必要な軍資金です。
必要な情報収集・精査する
ここまで使用したいカード(札)を羅列し、データ項目を決めました。
プレイヤーにわかりやすい方向性も大事にしていきたいところです。
しかし題材があるゲームですので、いわゆる通説とか逸話から大きくハズれてしまう設定はよろしくありません。可能な限り通説・逸話に絡めたデータ作りが必要でしょう。
またゲームバランスが崩壊するような歪なデータになっても困ります。そのあたりをうまい具合に整理していかないと……
■ 武将の強さのバランス
合戦で戦功点を得るために使用する攻撃札と武将札。これらの札の強さの指標となる要素は「突撃値」「斉射値」「連撃値」「攻撃属性」となります。
武将札については「連撃値」がZeroなので、ここでは無視しましょう。
次の表は「津軽為信統一記」の武将札の一覧表です。
黄色い枠がある武将は、その距離で戦うエキスパートです。
赤い枠がある武将は遠近の攻撃力を足して9以上、強めの武将です。
何を基準にこのような数値設定になったのでしょう。「ゲームバランスを考えたから」というのも正解ですが、「歴史好きな方のイメージに寄せた」というのも正解です。
■ プレイヤーのイメージに寄せる
「信長の野望」に登場している武将は「それなりに知名度がある武将であり、プレイヤーもそのイメージを有している」と判断し「信長の野望」のデータを参考に設定します。
以下では「信長の野望」の最新作「新生 パワーアップキット」の武将情報と「津軽為信統一記」の武将札を並べてみました。
◆ 戦国大名「津軽為信」
1571年に自身の支城「堀越城」の補修工事を装い物資を運び込んだ為信は南部信直の実父が城主を務める「石川城」を突如攻略します。これをきっかけに津軽地方の城郭を次々と攻略し津軽独立を果たしました。
◆ 大浦三老「小笠原信浄」「兼平綱則」「森岡信元」
大浦三老は為信が戦国大名として津軽独立事業を行う際に大いに貢献した武将たちです。
◆ 軍師「沼田祐光」
為信の軍師と云われていますが詳細は不明な点が多い人物です。
陰陽道、易学、天文学に通じていたそうなので、わたしたちが一般的に考える「軍師」というよりは……呪術的な部分で為信を支えたの人なのかもしれません。
◆ 戦国大名「南部信直」
南部氏26代当主、盛岡藩祖。早い段階から豊臣秀吉の信任が厚い前田利家と交流しており前述の「津軽為信」や、後述の「九戸政実」の反乱に苦労しながらも南部氏の基盤を整えた「南部家中興の祖」と伝わる人物です。
個人的にはもうちょっと評価高めでもいいのかな~と思っています。
◆ 信直の実父「石川高信」
智勇兼備の名将として津軽地方の統治を任されていた人物です。為信の石川城奇襲の際に亡くなったとも云われていますが、南部側の資料では落ち延びたとも伝わっています。
◆豊臣秀吉に挑んだ最後の武将「九戸政実」「九戸実親」
太字部分だけを読むとカッコイイですよね。
南部氏と同じ一族で、九戸勢は南部氏と対等だと思っていた部分があり豊臣政権下で南部信直がトップとして認められると反発(九戸政実の乱)
信直は秀吉に協力を求めたため、結果的に6万の大軍と戦うことになります。当時の九戸兄弟はこうなると予測できていたのか……
九戸勢は南部氏の中では精強だったと云われています。
◆信直を支えた「北信愛」
津軽為信統一記では南部側の軍師として設定したい「北信愛」は、南部氏の後継者争いが問題化すると信直の擁立に尽力し、その後も信直の側近として外交や内政を取り仕切った人物です。
◆浪岡氏最後の当主「浪岡顕村」
浪岡北畠氏は南北朝時代に奥州に下向した北畠氏の後裔と云われています。語弊を恐れず、すごく単純な言い方をすると名族なんで崇められていた家系の最後の当主です。
残念ながらゲームに登場する当時の浪岡氏は衰退しており、為信に浪岡城を攻め落とされた際に捕らえられ自害したとも、落ち延びて安東氏を頼ったとも云われています。
■ 伝わっている逸話からイメージする
「信長の野望」に登場する武将は参考になる資料が残っているので先に設定してました。問題は「信長の野望」に登場していない武将たちです。
ただ、少し調べると出てくる逸話・通説から各武将たちをイメージすることは可能です。
ここでは逸話・通説からイメージした3人を例にします。
◆念西坊頼英
為信が油川城を攻略した際に協力したお坊さんです。為信から協力した功を賞するため与えたられた「御墨付」が残っており弘前市の市指定有形文化財となっています。では油川城攻略とはどんな戦いだったのでしょう?
ものすごく簡単に言うと、
為信が油川城を攻める際に油川城下では騒ぎが起こった、各地から煙が上った為、大軍が押し寄せたか、奇襲をうけたかと勘違いした油川城の奥瀬氏は驚いて戦わずして逃げた……煙を上げたのは念西坊頼英の同志たちだった。
(夜に篝火をつけまくった!という話も…そりゃ大軍だと勘違いしますね)
という話があります。本当かどうかはわかりません。ただ「御墨付」が現存しているので、このお坊さんは存在していたのでしょう。
この話からイメージすると「戦わずして勝つ、賢いお坊さん」です。
ここまでで設定した智将たち(沼田祐光や北信愛)と同様に遠距離が得意なデータ設定にしました。
◆千徳政氏
政氏は南部氏を裏切って為信と同盟を結びました。怒った信直は三千の軍勢に命じ政氏の居城である浅瀬石城を攻めます(宇杭野合戦)この時、為信は政氏に対して援軍を送らなかったらしい……とはいえ撃退に成功したことから為信ほどではないですが強めに設定しました。バランス型の将です。
◆千徳政武
田舎館城主の政武は高潔な人柄で領民たちにも慕われていたと云われています。津軽統一を推進する為信に抵抗していたため、為信は政武の友人である猿賀村の清藤長兵衛を介して降伏を勧めるも拒否。城兵とともに討ち死にします。攻め手は三千に対し、城兵は僅か三百余と云われています。
僅かな兵で大軍を迎え撃ったことを評価し、近距離が得意な武将札に設定しました。余談ですが地元に住んでいる人間にしてみれば現在でも住所に使われている地名があって位置関係も想像しやすいです。
■ 策略札と武将の逸話を絡めたい
ここまで何度か触れてきましたが、為信について伝わっている逸話は決して褒められるような話ばかりではありません。
◆ならず者
石川城攻めでは賭博場にいた「ならず者」を使って防衛側の将兵の妻や娘を襲わせたという話があります…家族が心配で将兵はまともに戦える状態ではなかったのでしょう。そこで相手の迎撃を邪魔する策略札として設定しました。
◆火攻め
大浦家の家督を継いだ頃、為信は野崎村に対し火をかけて夜襲しています。これは家臣たちの忠誠心を試すための自作自演だったと云われています。野崎村の住人は既に避難済みで、焼け落ちた村も為信が再建したそうです。
ゲームの中では強力な策略札として設定しています。この野崎村の夜襲を合戦のチュートリアルとして使っており策略札「火攻め」を得られるようにしています。
◆南部駒
このゲームの最強策略札です。
南部地方は平安末期から名馬の産地として有名だったそうです。また南部氏は甲斐源氏の流れを汲みます…戦国時代の甲斐源氏といえばパっと思いつくのは武田信玄。甲斐武田氏といえば騎馬隊!
まだまだ続きます
ここまで長い記事を読んでいただきありがとうございます。
記事の中では実際にゲーム内で使われるカード等の画像を貼っていますが、この時点ではグラフィックは完成しておらず、データとして書類上にあるだけです。
つまり、まだまだゲームにはなっていません。
次回以降もゲーム制作ドキュメンタリーにお付き合いください。
「津軽為信統一記」が気になった方はコチラからどうぞ!
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