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神経たち

8
室温と体温を計測することにとりつかれた男は都内のあらゆる家の女性たちを監視し続ける。ある日男のもとに訪れた旧友が、男にある依頼をすることから、物語の歯車は動き始める。
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#SF

神経たち #8

神経たち #8

 軽やかな電子音を鳴らして、ナナコの住むマンションのエントランスのガラス扉が開く。音が明確な警戒の色彩と形状をしていて、切っ先が侵入者である僕の鼓膜に突き刺さるように思えた。僕は拒絶される時の痛みに近い何かを感じてヌメリとした汗を拭いながらエレベータで上に上がり、目を瞑って力を込めて鍵を回した。

音もなくナナコの部屋のドアノブはなめらかに回り、僕を中に招き入れた。ドアを背にホッと一息ついて、鍵屋

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神経たち #7

神経たち #7

「少し時間がかかりそうだ。別の仕事が入っちゃって」
ケイゴに嘘を付くのは良心が傷んだが、僕はなんだか本当のことをすぐに彼に伝える気になれず。どう伝えるかを考えるのも面倒になって、ただナナコの部屋に仕掛けられたカメラのことを考えながら、悶々と一週間ほどを過ごした。僕が珍しく鍵開け以外のことで鍵屋に連絡すると、彼は面白がった。
「なんだそんなことか。前に言ったろ、アンタ以外にも変な奴がいるんだ、それか

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