新しい日常に帯びた「冷たさ」
「ごめんなさい店員さん。あたし、レジ袋を買い忘れてしまったんだけど…」
私の知る限り大手のスーパーマーケットをはじめとした小売店では、商品の会計をスタッフが行い、その支払いを自分で行うセミセルフレジが導入されている。
一方で以前までお店にいけば、必ずと言ってもいいほど身近にあった所謂「POSレジ」の存在感は、一部を除いて影を潜めている印象にも見える。
この数年で蔓延した感染爆発の影響によって、対面に心配を寄せる人たちなどが安心して買い物できるようにという一因があっただろう。
他にも紙幣や硬貨といった現金を使うことなく、スマホに表示される画面を介してQRコードやバーコード等を用いた決済に対応できるようになっている。
セルフレジは少なくともこの2、3年間で急速な普及を遂げ、私たちの日常に当たり前という形で浸透しつつある。
ただそれに便乗するかのようにSDGsなどの一貫として、お店にいけば当たり前に配布されていたレジ袋も完全に有料化となってしまっている。
そういった出来事も今となっては久しく、ますます便利さや環境に配慮した世の中になりつつあるのだろう。しかしその裏で、様々な問題が山積みのままであることも事実だ。
とある日の夕方になり、私は買い出しするために近所のスーパーへと向かった時のことであった。
しばらく出かける予定がないため、数日間分の食料品を買い込んだ。レジで会計した後は、手持ちのスマホをかざして支払いを済ませるだけだった。
レジを担当する若い店員さんが「お支払いは◯番でお願いします」と言いかけたところ、私より先に会計を済ませていた老婦が店員さんに、レジ袋が欲しい旨を申し出たのである。
その老婦はうっかりレジ袋を買い忘れていたのか、もしくはエコバッグを持ってきていたつもりが置いてきてしまったのかはわからない。いずれにしろ、商品を詰める袋が手元に無くて慌てている様子が伺えた。
「すみません。次のお客さまが支払いを待っていますので…」
この時すでに、私が買う商品の読み取りは全て終えた状態だった。そんな中でのイレギュラーな申し出に、店員さんも少々取り乱している。
「自分のことは大丈夫なので、先にそちらを優先してやってください」などと、少し気を利かせるような言葉を述べようとした。
だが、セルフレジや有料のレジ袋によって生成された暗黙のルールなるものを前に、まず不測な事態に対して私は何も言えずにいた。
結局その場は、近くを通りかかったベテランの店員さんがなんとか対処してくださり、事なきを得たのであった。
(もしレジ袋が有料じゃなかったら、支払いがセルフのものでなかったら…)
支払いを済ませた後、私はかごから商品を取り出してはエコバッグに詰めながらぼんやり考えていた。
昨今の世界事情の前にならうようにして、環境に配慮するだとか効率や便利さを追求するだとか、それなりの理由を付け加えては一連の行動に移すのは解る反面、
一昔前まで日本人の象徴の一つでもあった人情という暖かさは日を追うごとに、無機質によってこれまで憶えたのことない冷たさを感じてきている。
大袈裟な話だとは思うし気のせいかもしれない。それまでにあった当たり前が、新しい当たり前へと変貌を遂げるのは、どんな時代においても必然的に訪れることだ。
いずれもしかしたら小売店にも時代の移り変わりとともに、何においても無人と化してしまうだろう。
けれど至る所が寂れてしまわないよう、せめてほんの少しだけの温かみはせめて残してほしいと願う今日この頃であった。
最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!