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政治講座ⅴ692「米国債保有の中国の苦悩」

債務国と債権国の政治力学では不思議な現象が起きている。多額の債務国である米国の居直りに似た対応には日本も巻き込まれているのである。米国債保有世界1位の日本も中国同様明日は我が身である。ドルが基軸通貨であるが故の強みである。中国はドル基軸通貨から脱して「元」を基軸通貨とする体制を構築するために、デカップリングを進めている。今回はその辺の事情を論じる。

        皇紀2682年12月15日
        さいたま市桜区
        政治研究者 田村 司

世界最大の米国債保有国、中国がそれを売れない悩ましい理由

酒井吉廣:中部大学経営情報学部教授

2020.12.19 2:50

2021年以降の米国と中国の行く末はどうなるのでしょうか。私は2001年からホワイトハウスや国務省、財務省など、米国の政権の中枢で政策の立案・実施を担う現役官僚やOB/OGたちと仕事をしてきました。主に共和党の立場で、大統領選挙などの分析や応援もしてきました。トランプ陣営の大統領選挙アドバイザリーボードも務め、米国人のリアルな思考を理解し、米国と世界を動かす原理原則や、彼らが実践しようとしている新しい世界のルールについて日頃から肌で感じています。これら先、世界はどう変わるのか、本連載では私の著書『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測』で紹介した米国と中国、世界、そして日本の2021年以降の行く末についてご紹介しましょう。連載2回目となる今回は、2021年にバイデン新政権になっても引き続き緊張関係が続く米国と中国について。

 本連載では、これからの米国と中国、世界、そして日本がどんな方向に進むのかについて私の見解を示します。
 大国として存在感を高める中国に、米国はどう立ち向かうのか。
 米国と中国の新冷戦によって振り回される世界はどうなるのか。
 岐路に立たされる欧州連合(EU)や英国、ポピュリズム政党が力を増している欧州各国、そしてこれまで親米派を続けてきた日本の行方はどうなるのでしょうか。

 2020年の大統領選挙後、第二次世界大戦の終結から75年にわたって世界をリードしてきた米国はどうなるのでしょうか。

米中新冷戦が2020年以降の世界を動かす

 2020年3月末時点で、中国は1兆816億ドルの米国債を保有しています。これは1兆2717億ドルを保有する日本に次いで2番目で、米ドル債全体の約16%を占めています。香港が2453億ドル保有していますので、香港を中国の一部と仮定すれば、中国は実は世界最大の米国債保有国なのです。

 もし中国がこの米国債を売却すれば、米国債市場は大混乱に陥り、米国は新発債(新規に発行される債券)を出せなくなる可能性があります。日本に中国の売却分をすべて買うほどの余力はありませんし、中東などの親米国を動員しても衝撃を留めることは無理でしょう。つまり中国は米国の最大の弱みを握っているとも言えます。

 しかし果たして、本当に中国は米国債を売ることができるのでしょうか。

米国債を最も保有する中国が
それを売却できないワケ

 ここからは少し専門的な説明になります。米国には国際緊急経済権限法という法律があり、他国が自国に深刻な影響をもたらしそうな場合、米国はそれを阻止できます。

 仮に中国が米国債をまとめて売却しようとすれば、間違いなく国際緊急経済権限法に抵触しますから、その際には米国は米国債を保護預かりしている米国金融機関に売却行為をストップするように指示できるのです。つまり、どんなに中国が米国債をまとめて売ろうとしても売ることはできません。

 債券市場はどんどん進化し、新たな取引手法が編み出され続けています。米国債についても、米国債先物を売ることで相場を下落させる方法もあるでしょう。ただこの場合はどこかで買い戻さない限り、先物価格が下がり続けます。

 先物などのデリバティブを使った売り仕掛けはヘッジファンドの得意技の一つで、彼らは相場をかく乱することも利益を出す方法だと考えています。それではどこで儲けるかというと、市場全体が売られるであろうと不安に思う債券を先物で売り、市場が考える程度の下げに近づいたところで買い戻し、売った価格と買った価格の差で儲けるのです。債券の保有者が価格の上昇したところで売ることと理屈は同じです。

 中国がこれを利用して米国債市場を荒らすことはできます。ただ誰も売りを止めなかった場合、米国債を現物として保有する中国も値下がりによる含み損を抱えます

 米国債価格が下がれば日本も損をしますが、日本は満期(通常は30年債を保有)まで持っていれば発行価格で償還されるので、目の前の市場の下げは無視できます。

 中国は早いうちに売りたいわけですが、その場合は米国債市場を急落させて米国を困らせることはできても、中国も相場急落中に含み損の売りを避けられず、大幅な損失に直面します。ここで中国が売らなければ米国債相場は元に戻るからです。すると今度はヘッジファンド側が損をするので、中国による米国債の売りの確約がない限り、ヘッジファンドはこの戦略を実行しません。しかも取引所を経由した先物には期限があり、期日には取引相手から買い戻すか相手への現渡し(米国債の現物を渡すこと)をしなければなりません。

 中国がデリバティブで売りを仕掛けると米国に国際緊急経済権限法で止められることを回避できるかもしれませんが、密かにヘッジファンドに手数料を支払って下げ相場をつくってもらうとしても、その成功とは米国の相討ちまでです。

 結局のところ、中国は保有する米国債の売却という切り札を使うことはできません。そんな自爆行為を中国がやるとも思えません。

 日本や中国が多額の米国債を保有しているのは対米貿易黒字分を最も安全な米国債で運用しているためです。貿易黒字が反転すれば徐々に米国債の保有額も減っていきます。これもまた、今後の米中関係を考える場合のカギとなります。

表面上は不満をのみ込む中国

 トランプ政権が進めてきたように、中国の対米貿易黒字(米国から見れば対中貿易赤字)が減れば、中国による米国債の保有という弱点は解消します。

 今、中国は米国に対して年間40兆円の対米貿易黒字を抱えています。これを減らすための努力が、2020年1月15日に第1弾の決着となった米中貿易交渉でした。

 ところが次世代通信規格「5G」の輸出を止められ、ほかの輸出商品を買ってもらえなくなると、中国は貿易赤字に陥る可能性があります。すると保有米国債もどんどん減っていきます。これでは中国は米国と戦えません。

 既に一部の市場では起こっていますが、米中新冷戦を意識した市場参加者の中には、中国とのすべての取引をドル決済にすることを求めるケースもあります。これが拡大すると、中国が外貨としてのドルを失い、米国からの輸入や一帯一路の推進などが滞る可能性も出てきます。まだ十分に技術力が追いついておらず、これから10年は米国と戦争をしても勝てないはずです。

 そう考えると、中国の選択肢は少なくとも表面上はひとまず米国と協調する以外に道がないのです。

 中国は当面の間、多くの不満をのみ込む必要があります。もちろん表面上の姿勢でしかありませんから、腹の中では米国の力が落ちて世界の覇者から脱落することを虎視眈々と狙っているはずです。

 3000年の歴史を持つ国ですから、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)を続けることに抵抗がないのかもしれません。

 逆に米国は、現時点では表面上は協調路線を取らざるを得ないという中国の事情を分かった上で、強気の対中戦略を展開しています。それは決して、トランプ大統領の下らない感情論でも浅はかな思いつきでもありません。

 表面上は協調路線を取ろうとする中国と、今のうちに中国の台頭を押さえつけたい米国。

 2つの大国の覇権争いこそ2020年以降の世界を動かす最も大きな力となるのです。

酒井吉廣(さかい・よしひろ)中部大学経営情報学部教授1985年日本銀行入行。営業局、考査局をへて信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト、米シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)主任研究員なども務める。2012年より中国清華大学高級研究員、東京大学総長室アドバイザー。日本、米国、中国の企業などの顧問や取締役を務める。ジョージ・W・ブッシュ(子)大統領時代から共和党に知己が多く、共和党全国委員会(RNC)大統領選挙アドバイザリーボードメンバー。2020年米大統領選でもトランプ陣営のアドバイザリーボードを務めた。米国務省や米財務省、連邦準備制度理事会(FRB)、トランプ政権の政策や中国の政治経済に詳しい。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。


世界で一番「米国債」を保有している日本、二番の中国は売却を進めている?


5月2日のブルームバーグの記事によると、世界で一番米国債を保有している日本が、ここ3ヶ月間で600億ドル分の米国債を売却したそうです。600億ドルというと、日本円で約7兆円ほどにもなるため、かなり大量に処分したようにも見えますが、まだ保有額が1兆3,000億ドル分も残っていることを考えると、微々たるものでしかありません。
いずれは紙屑になる米国債であるわけですから、日本としてはこのまま売却を進めたいところだと思いますが、米国からしたら、属国日本に押し付けた紙屑を、日本が大量に売却することなど許すはずもなく、日本は近い将来、泣き寝入りすることになるでしょう。
日本ほどではないにしても、同じく膨大な米国債を抱える中国は、この問題をどのように考え、対処しようとしているのでしょうか。
中国ニュースメディア「52赫兹実験室」から「中国は1兆ドル以上の米国債を保有、割を食わないためには脱ドルしかない?」を紹介します。


多くの人は、中国が1兆ドルを超える米国債とドル準備高を抱えている理由をあまり理解せず、中国はできるだけ早いタイミングで全部売却し、近い将来の暴落リスクを回避すべきであると考えています。
しかしながら、これはそれほど単純な話ではなく、中国は米国債を買い、大量のドル準備高を維持せざるを得ない理由があり、そして他に選択肢がないのが現実的なところなのです。
この理由を理解するためには、まず米国のスイフト(SWIFT)決済システムの説明から始める必要があります。米国は、さまざまな国の商品輸出において米ドルが価格決定と決済の役割を果たすよう、国際貿易(グローバリゼーション)を発展させ、国内取引を最小化するよう促してきました。
その後、米国は、それらの国々の輸出の価格決定と決済に米ドルを使うよう強制し、商品の生産と輸出が米ドルに固定され、結果として、米ドルが信用裏づけとなる基軸通貨となったのです。
米国は、中国に対しても加工貿易の輸出型経済モデルの発展を強く支援し、大量の加工産業を提供することで、中国が世界の経済貿易に参加できるように後押ししました。しかし米国の本当の狙いは、中国の力強い経済発展を望んでいるのではなく、ドルが中国の国際貿易・国内取引において価格決定と決済の役割を果たし、ドルの地位を強固にし、維持できるようにするためなのです。
こうすることで、米国はドルによる世界金融覇権を背景に他国にノーと言うことができ、グローバル経済から利益を得ることができるのです。中国はドル紙幣と引き換えに膨大な量のモノを海外に輸出し、輸入もドルで支払われますが、輸出貿易が輸入を大きく上回った場合に、中国には大量のドルが残ることになります。しかし中国は手元にあるドルを使って、アメリカから買えるものがそれほどないため、ますます多くのドルが手元に残ることになります。
米国の銀行にドルを預けておいても利子はほとんどなく、仕方なく利回りが多少ある米国債を購入している状態なのです。


 米ドルによる覇権で米国は、軍事的侵略、ハイテク、知的財産権、信用格付け等によって、世界のサプライチェーンを制御することができます。現在の中国から見れば、ドルの覇権はまるで中国の実体経済の上に築かれているようで、米国経済は空洞化し、完全に金融化したものと映ってしまいます。中国が脱ドルにおけるリスクを回避する唯一の方法は、ドルでの取引を止め、ドルでの外資導入を止め、ドルの値決めや決済をさせないことです。今後、中国が脱ドル化に成功しロシアやイランなどの石油メジャーがすでに脱ドル化している以上、ドルの覇権の崩壊は時間の問題となるでしょう。これは米国にとって最も恐ろしいことであり、今一番の心配ごととなっています。米国は、中国のハイテクを抑圧し、中国経済を締め付けたい一方で、中国の巨大経済をうまく利用してドルを支えたいというジレンマがあるのです。ドルの覇権を確保するために、アメリカは巨額の資金を投じて、新自由主義経済理論を中国に説く、いわゆる新自由主義経済学者を大量に養成しました。彼らは、米ドルを世界通貨とし、国際経済統合と世界市場のグローバル化の基盤とし、世界経済システムに統合するためにGDPを米ドルで評価し、国の自律的な経済・金融・市場主権を否定すると提唱しています。これが経済的自立が国家発展の基本であることを否定しようとする帝国主義的なドル覇権の核心なのです。中国は、多国間貿易国との協力人民元決済システムの構築脱ドルプロセスの加速によってのみドルに搾取されることから逃れ、リスクを回避することができるのです。おわり


参考文献・参考資料

世界最大の米国債保有国、中国がそれを売れない悩ましい理由 | 日本人が知らない世界の新秩序「NEW RULES」 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)

世界で一番「米国債」を保有している日本、二番の中国は売却を進めている? - 中国最新情報局ADKD

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