春爛漫の四国を行くvol.5

四国は徳島県に辿り着いた。
鳴門スカイラインの手前、国道11号線で再びヒッチハイクを始める。

初めて3分。山から降りてきた1台の軽トラが目の前に停まった。
「市内までだけどいくか?」と作業服姿のお父さん。
「お願いします!」と、あっさり乗せてもらえることになった。
このお父さんは家の解体を日曜大工で行っていて、廃材を山に捨てた後だったらしい。
見慣れないヒッチハイカーで終始戸惑っている様子だったが、迷いなく車を停めて声をかけてくれる優しいお父さんだった。

車は山を降り、長閑な田園風景の中を走る。
「ここにはなにもないんだよ」とお父さんは言っていたが、その「なにもない」がどれほど貴重で美しいものか、僕は少し知っている。

「どこか見ておくといいものはありますか?」と聞くと、四国八十八ヶ所の一番札所の霊山寺と、大麻比古神社を教えてくれた。
大麻比古神社はこの近所の地域の人たちにとって古くから親しまれている場所だそうで、せっかくだからといって連れて行ってくれた。
見事な鳥居と、長い参道には幾つも祠が建てられ、歴史を感じる佇まいであった。教えてくれなければ、この先の人生でも知らなかったであろう物事に出会える。

その後、近くの霊山寺まで送ってくださることになり、お父さんと別れを告げる。お父さんは最後に「今年は富士山に登りたい」と言っていた。果たして実際行くことはできたのだろうか。

さて、霊山寺である。四国八十八ヶ所のスタート地点の寺である。
佇まいも立派で寺の前で何枚も写真を撮ってしまった。
中に入ると、小さな池があり、お線香のいい香りが周囲を包んでいる。
本堂は薄暗い中にたくさんの蝋燭に火が灯っており、信仰のメッカであることを肌で感じることができた。
5月の初夏の陽気。ときより鳴り響く鐘の音が耳に心地よかった。

「人はどんな想いでこの道を歩くのだろう」
その答えは人それぞれあると思うが、いつか自分もこの足で歩いてみたいと強く感じた。

聖地


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