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紡いだ詩の収納BOX
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記事一覧

皮と膜

皮と膜

道路に割れた花瓶と破片、煤けた造花の残骸。

なんにもないけど、何か持ってる振りをする。

私。

電車の音が、足元からする。

明日明後日の最終便に、あの人は間に合うか?

ねえ、君。

歩くことは、生きていることに近くて遠い。

嘘は、嘘を、嘘で、虚構の春は青々としていた。

記憶が無い。

私たちには、もうどこにも逃げ場なんてなくて。

私の頭のネジは、たぶん。どこかで落

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眠剤

眠剤

ねむれよ、よい子。
真夜中は海の底に沈んでしまって。
即効性の眠剤は、私の身体の奥深くで沈殿している。
ねむれよ、よい子よ。
子守唄は、いつも聴いたことのない民謡だったきがする。
布団と敷布団に挟まれて、もぞもぞしてるのは不安だけで、本のページには栞を挟んでいる。
ねむれよ、よい子よ。

おやすみなさいで、走り出す列車。
曖昧な言葉ではぐらかして。

おやすみなさい。
おやすみなさい。

静かな穏

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蝶

螺鈿の蝶を夢む

か細き手足をもてあまし
広げすぎた翅で飛んでゐる 蝶蝶

螺鈿の蝶を夢む

虚ろな瞳の幾多で万華鏡

千年万年の朧月夜を飛ぶ 蝶蝶

か細き手足をもてあまし
広げすぎた翅で飛んでゐる 蝶蝶

画像:こんとん様
文:辻島 治

拝復

拝復

 梅の蕾がふっくらと微笑んできた頃

 知らないあなたからもらった手紙。
 しっかり、拝読いたしました。

 名前も、年齢も、性別さえも、何も知らない。
 あなたへ

 あなたには、私のことなど、何一つとして、わからないでしょう。しかし、それでよいのです。
 あなたは、想像したことがないでしょう。きっと、これを書いているひとのことなんて、どんな顔をして、どんな声をして、どんな浪漫を体験したのかだな

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海月

海月

 孤独に寄り添えることができたなら、
 あなたを救えたらいいのにと願ってしまった。
 じぶんのことすら満足に救えない癖に、
 あなたのことを救えると信じていた。

 神様であったらいいのになと願ってしまった。

 あの頃の無辜なる言葉が、
 懺悔の言葉になる。

 欲しかったのは感謝でもなくて、
 欲しかったのは賛美でもなくて、
 共感なんて求めてもいなくて、
 ただあなたを抱きしめようとした手が

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