拝復
梅の蕾がふっくらと微笑んできた頃
知らないあなたからもらった手紙。
しっかり、拝読いたしました。
名前も、年齢も、性別さえも、何も知らない。
あなたへ
あなたには、私のことなど、何一つとして、わからないでしょう。しかし、それでよいのです。
あなたは、想像したことがないでしょう。きっと、これを書いているひとのことなんて、どんな顔をして、どんな声をして、どんな浪漫を体験したのかだなんて、気にならないでしょう。
私は、これを今、綴りながら、頭の中では様々なことが複雑に絡まり合い。まるであやとりをする子供が必死に新しいワザをつくろうと必死になっているのと同じような感覚なのです。或いは、ああでもない、こうでもない、なんてパズルピースを繋げてゆく作業のようなことをしております。
そう、頭で考えながら、ことばのパズルを組み立ててゆくのです。が、ふと、そのピースをバラバラにめちゃくちゃにしてしまいたくなるのです。そうして、純粋に思ったことだけをつらつらと並べ、散らしてみたいなとさえ、思ったりしました。
夜。
風が強くなり、雨降りだと殊更に孤独は色濃く私の元へ参ります。そんな日は、そっとお布団の毛布と敷布団の間にくるまって、明日になるのをひたすら待つのです。そうして、何食わぬ顔をして「おはようございます」なんて、声を出すのですから、お恥ずかしい。そんな姿をどうか、笑ってください。
私は、日々のモノローグが、いつか誰かの心に寄り添うことになればよいなと思うのですが、それは、とても難しいことですね。どのようにすれば、芸術と生活の両方を愛すことができるのか、まるでわかってないんです。そうして、先達の書籍を読んでは分かった気になって我が物顔になって威張り散らしてみたくなるだけなんです。それは、本当の自分のものじゃあないくせに、そう。だから、探さなくてはいけないんです。たった私だけのモノローグを……射影機のコロコロという音がして、スクリーンに影と光、私の世界を彩るNoiseな世界。いつか、実現させたい。
夢見心地のなかで、お返事を書きましたので散文となったことはあなたと私だけの秘密という事でお願いします。
最後に、あなたにお会いできてよかった。
おやすみなさい。どうか、良い夢を見てください。夢でいつか、会いましょう。
画像:まっくす様
本文:辻島 治
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