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chapter13. 成績表

中学生になった。

ハルコは1組で、あたしは8組。

ものすごく多いクラス数。小学校の頃とは全然違う。

ハルコだけじゃなく、同じ小学校で仲の良かった子とは誰とも同じクラスになれなくて、あたしはゼロから友達を作らなきゃいけなくなった。

でも、友達ってどうやって作るんだっけ?

「ねえねえ、どこ小?」

後ろの席から声が飛んできた。

「あ、西小」

と反射的に答えると、

「へー!そうなんだ!うち東小なんだ」

と、明るい笑顔が目に飛び込んできた。

「うち、大林リナ。そっちは?」

「えと、岸本まりこ」

「じゃあマリーって呼ぶわ!うち、”まり”って付く友達ほかにいるからさ!」

と、入学早々リナのペースに巻き込まれ、あれよあれよという間にリナは色んな子たちと仲良くなり、あたしにもあっという間に友達ができた。

心底ほっとした。クラスの雰囲気もいいし、リナといればとりあえず大丈夫と思えた。リナを介せば誰とでもすぐ親しげに口をきけた。

そして授業が始まった。

あたしたちのクラスは美術からだった。

テーマは『自画像』。鏡を見て自分の顔を描いてみましょう、というのに一学期まるまる取り掛かるのだと説明された。

先生の話が終わると、リナはすぐに話し出す。

「こんなの描けないよ〜」

と、不満げな声で言う。すると周りの席の子たちがすぐ反応して、

「わかる、だりぃ」

「自分の顔とか描きたくないんですけど〜」

「ナルみたいじゃんね」

と、次々続く。

美術って、だるいんだ……

あたしは必死に思考を巡らす。

考えて考えて、その輪に入らなきゃ、と意気込んで、

「……まあ、テキトーでいいんじゃない?」

と言った。



テキトー、かあ。

ハルコと、次の合作マンガは中学生になったら描こうね、と約束していた。

テキトーに、って言った手前、あたしも自画像をテキトーに描かなくてはいけない。

あっ、目がうまく描けすぎた。ちょっとずらして……

 

バランス悪いな。変な顔だな、あたし。

でもまあ、いっか、テキトーで。




一学期が終わった。

そんな風にテキトーを積み重ねた結果、積み重ねてもあたしは、美術の成績が「4」だった。

中学生からは成績が五段階で評価される。4か。それなら全然いいじゃん。なーんだ。

他の教科の成績も4とか、いいやつは5とかで、まんべんなく、なんとなく悪くはなかった。

それくらいがちょうどいい。ガリ勉とかダサいし。

夏休みには男子のグループとお祭りに行った。ひそかにかっこいいと思っていた男子も来るそうで、あたしとリナは大いに盛り上がった。

お目当ての男子とはちがったものの、そのお祭りであたしは、その男子グループのひとりから告白されて、映画館にデートに行ったりもした。

夏休みの終わり頃には、リナとクラスの女子何人かでプールにも遊びに行った。

充実した夏休みだった。


そして、二学期を迎えた。

校長の長くてダルい話を聞き流して、校歌を小さい声でボソボソと歌った。

先生が何か連絡事項を伝えるけど、多分特に関係のない内容だった。

すると美術のタケセンが壇上に上がってきた。あたしは、早く終わらないかな、ダルいね、と周りの子たちとくすくす笑いながら言い合っていた。

「それでは、美術大賞を発表します」

とタケセンが言った瞬間、あたしはパッと壇上に向き直った。

「1年生は初めてだと思いますが、この賞を取った人はこの場で表彰され、加えて、文化祭で美術の授業の作品を展示します」

あたしは、なぜか自分が呼ばれると思った。

「それでは、まず1年生」

タケセンが紙に目を落とす。ゆっくりと口を開く。あたしには全部スローモーションに見えた。

「1年生は……」

クラスに知り合いがいなかったのに友達がたくさんできて、その中でうまくやれてて、夏休みも充実していた。あたしはタケセンの言葉を期待して待った。


「1組、岸本ハルコさん」


キシモト?キシモトってマリー双子なの!?

ソウナンダ、知ラナカッタ

全然ニテナイネ、ニランセイ?

耳に入ってきたことばに、なんとなくうなずきながら、あたしの目だけは壇上から離せなかった。

ハルコのくるくる髪の頭が遠くでひょこっと立ち上がり、おどおどと前方へ向かう。

タケセンから「おめでとう」とか言われながら、小さい身体をさらに縮めながら賞状を受け取っていた。

あたしは、この光景を、ずっとずっと覚えている。

ずっとずっと、目に焼き付いて、離れないでいる。

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