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時を止める能力を持つ中国人から学んだ話

プロローグ

俺はベトナムのホステルに泊まっていた。
ベトナムの田舎に位置しているホステルで、その時泊まっていたのは中国人の男子学生が1人と、30歳くらいのアメリカ人(男)が1人だけだった。

中国人の方は非常に特徴的な英語の喋り方をしていて(中国語訛りというのを差し引いても特徴的)、クレヨンしんちゃんに出てくるボーちゃんの喋り方を2、3倍速にした感じだ。

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(引用 © 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK)

よってこの中国人の男子学生を仮名「倍速ボーちゃん」、
長いので「ボーちゃん」としておく。
あくまで似ているのは喋り方だけということを忘れてはいけない。

アメリカ人の方は仮名「リンキン」としておく。
リンキンパークのボーカル、故チェスターベニントンに見た目が少し似ていたからだ。

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(故チェスターベニントン)

ボーちゃんとの出会い

ボーちゃんとの出会いはホステルにチェックインした時だった。
共用のリビングルームでボーちゃんはベトナム語を勉強していた。

目が合ったので挨拶をした。

すると10倍くらいの情報量で挨拶を返してくれた。
正直半分くらい何を言ってるかわからなかった。

俺「Hi」

ボー「よろしくお願いします。私は中国人でベトナム語をここで勉強しています。ここはすごくいい場所です。ご飯が安い、安い。私は今ベトナム語をホステルの従業員の人に教えてもらいながら、もう一ヶ月経ちました。あれ、もしかして日本の方ですか?私は日本の文化が好きです。森鴎外、石川啄木などがとてもいいです。とてもいいです!!本当に日本文学はいいです。中国の文学より日本の文学が好きです.........(中略)今日はどこへ行くつもりですか?」

このように彼は1人で喋り続ける癖がある。

古畑任三郎というドラマを知っているだろうか?
殺人事件を解決するサスペンスドラマで、古畑任三郎という刑事が謎を解き明かす直前、時が止まり、彼だけが喋っているというシーンが毎回ある。

まさにそれだ。ボーちゃんだけが喋り、周りは時が止まったかのように置いていかれる....


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(ドラマ「古畑任三郎」より引用)

彼が1人でしゃべり続けている時を古畑タイムと名付けよう

俺「今日は移動してきて疲れたからホステルでゆっくりして散歩だけするよ」

ボー「この街は本当にいいところです。ご飯が安くて、美味しくて、歴史ある建物があって.....」

こいつ、基本的に人の話を聞かない

そしてまた古畑タイムが始まろうとしている。

古畑任三郎による古畑タイムではなく、倍速ボーちゃんによる古畑タイム、なかなかの地獄だ。
地獄は避けたい。

俺「ごめん、今疲れてるから、また後でね!よろしくね」

ボー「よろしく!」

これが俺とボーちゃんとの出会いだった。
古畑タイムはかなり厄介だが、おそらく性格はいい奴なんだろうなという感想を持った。

この日は結局外をぶらぶら散歩して寝ただけだった。

ディオ出現!?

次の日、近くに有名な宮殿があるみたいだったのでそこに向かおうとホステルを出ようとした。

ボーちゃんが座っていた。
早く出たいので今回ばかりは古畑タイムは避けたい

ボー「おはよう!どこに行くの?」

俺「ちょっと〇〇まで行こうと思って、じゃあね」

よし完璧だ、古畑タイムは避けれただろう。

ボー「ところで君は日本出身だったよね?日本の文学は読みますか?めちゃくちゃ良いですよね!特に森鴎外とか太宰治とか良いよね!!!(略)」

俺は勧誘などは一言で断れるのだけど、すごく情熱的に自分の好きなことを語っている人の発言はなかなか遮れない。
特にそれが我らの日本の文化のことだからなおさらだ。

手強い......

そして彼の特徴として、質問文を投げておいて回答を聞かずにそのまま喋り続けるというものがある。
やはり時は止まっているのだろうか
ここまでくると時が止まっているというより、彼が意図的に時間を止めて、俺の存在を無視して話している
そんな気がした。

ちょうどその頃「ジョジョの奇妙な冒険第3部」を読んだ後だったので、もしかしてこいつはディオじゃないのか?、などと話を聞いている間に思っていた。

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(出典:ジョジョの奇妙な冒険 第三部「スターダストクルセイダース」モノクロ版10 P.184(©荒木飛呂彦 発行:集英社)より)

ディオとはジョジョの奇妙な冒険に出てくるキャラクターで、「時を止める」能力を持つ。
ボーちゃんであり、古畑任三郎であり、ディオである。稀有な人材だ。

そしてこの時の古畑タイムは何と15分も続いた。

これは冗談ではない。

盛ってもいない。

本当に長かった。

話を聞いている間、どこまでこの話が続くか途中で楽しみになった。

人生で自分のことばかり話し続ける人間と出会ったことは何度もあるが、彼は別格だ。

常軌を逸している。

俺「じゃあ、行ってくるね。また夜会おう」

と、ようやく観光へ向かった。
ボーちゃんが校長先生になったら、終業式とかやばいことになるだろうな、などと想像した。

日米中会議〜名曲を添えて〜

観光を終え、ホステルに帰ってきて、自分の部屋(数名の共同部屋)へ行くと、ボーちゃんとリンキン(アメリカ人)がいた。

リンキンとは初めて会ったので、お互いに軽く自己紹介をした。
とてもナイスガイで、時を止める特殊能力も古畑タイムも無さそうだ。

3人で話していて、話題は政治のことになった。
(日本人と話す時と比べて、欧米諸国の人や中国人と話していると政治や宗教の話題になることは多い気がする。)

俺「トランプの政策についてどう思ってるの?」

リンキン「その名を口にするな!!!

俺「How about you?」

ボー「その名を口にするな!!!

すごい。
ヴォルデモート顔負け
名前を口に出してはいけない人」がいきなり2人出てきた。

リンキン「奴の政策には賛同できないし、考えたくもない。(略)」

ボー「(略)」←もちろん古畑タイム。約5分ほどだった気がする。

なぜ賛同できないか、という理由を色々述べてくれたが割愛する。

ボー「日本が羨ましいです!!Shinzo Abe は我々の政治家に比べたら素晴らしいです!日本はすごくいい国です!!中国人も日本のことが大好きな人が多いです。」

リンキン「そうだそうだ!!日本はいいなあ」

俺「そんないいかなあ。」

ここでしっかりと日本の政治について説明できなかったことを恥じた。

ボー「まず、VPNを使わなくて良いって時点で素晴らしいです。フェイスブックもインスタもツイッターも使えるのすごいです。」

リンキン「それは俺たちアメリカも使えるけど、、笑」

中国ではインターネットで見れるものや、使えるアプリケーションが制限されているのでVPNという個人的なネットワーク回線を使っている人がいる。

もしあなたの友達の中国人が中国でインスタを更新していたらそれはおそらくVPNを使っている。

俺「確かに、基本的には何不自由なく暮らしてるなあ」

リンキン「日本は銃がないのも個人的に素晴らしいね。銃があると街を歩いているだけで怖いよ。」

俺「銃に関しては俺も完全に同意だね。日本の平和は世界に誇れるよ。」

ボー「日本と中国は文化でもすごく結びつきがあります。(略)」

古畑タイムが始まった。約5分

ボー「文学でもそうですが、音楽でも中国と日本はすごく密接に結びついています。(略)この曲を知っていますか?中国で大人気だったバンドです。この曲は日本語バージョンもあります。とても良い曲です!!」

この曲。
めちゃめちゃ良い曲だったのでシェアします。ぜひ聞いてください



このBEYONDというバンドが絶大的な人気を誇り、世界に飛び出そうとしていた時、ボーカルでバンドのリーダーのウォン・カークイさんが日本のバラエティ番組「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」に出演した。
(おそらく日本での活動を広げるために日本に来ていたのだろう)

なんと、その収録中にウォン・カークイさんはセットから足を滑らせて転落し亡くなってしまった
もちろん現場を知らないのでネットの情報しか知らないが、あまりに悲しい事件だ。

1回目にこの曲を聴いた時は、ただただ良い曲だなあと思って聴いていたが、この事実を知ってからもう一度聴いたら胸にくるものがある。
(わざわざ日本語で歌ってくれているから尚更、、しかも日本語の発音めちゃめちゃ良いし、、)

ボーちゃん、あんた良いもの教えてくれてるんだから、もう少しうまく伝えなよ。

俺「すごく良いね。すごく良い曲だよ。教えてくれてありがとう。」

ボー「ところで、私は文学が大好きです。特に森鴎外の作品や石川啄木の歌、もちろん太宰治も好きです。太宰治ならあの小説が一番良かったです.......(略)」

感動に浸っていたら別の話になった。

この男、相当森鴎外が好きみたいだ。

毎回彼と話していると必ず森鴎外に収束する
ここまで森鴎外が好きな人に出会うと思っていなかったし、それが日本人でないとは、、世界は広い。

俺「ごめん、俺あんまり昔の文学読んでないわ、、」

ボー「芥川龍之介はもちろん好きです。良いですよねえ」

あんた話聞いてる?(リンキンは既にイヤホンをして寝転がっている。)

得た知見


政治の話をしている時も、文学の話をしている時も、俺はあまりに日本のことを知らなかった。

自分の国の政治についてある程度説明できないのは、何か大人として欠陥している気がした。

他の国の人が自分の国の文化を褒めてくれているのに、話し相手になれず、自分の国の伝統文化について何も紹介できないのは、本当に残念な気持ちになった。

これを機に、日本の伝統文化についてぼちぼちと触れていこうという気持ちになった。

とりあえず帰国後下駄を履き始めた。


そして、自分の国を客観的に見るためには外から自分の国を見つめるということが大事ということを学んだ。

ロシアではプーチン大統領が圧倒的な実権を握っているが、この前会ったロシア人が彼を支持しているか支持していないかで友達になれるかどうか決まる、と冗談交じりに言っていた。

支持している人たちは外国に興味がなく(いい意味の場合もあれば悪い意味の場合もある)、ロシアが素晴らしくプーチン大統領が本当に唯一無二で素晴らしいと思っているらしい。

支持していない人たちは、外国に行ったり外国人の友達がいたり、外国に興味があって外から自分の国を客観視している場合が多いという。(あくまでそいつの意見)

どっちが正しいという問題ではないけど、支持していない人にとって、支持している側は考え方と価値観が違いすぎて仲良くなれないという。
おそらく逆も然り。

別に外国に行かなくても、読んだり、調べたり、他の国の人と会話したりしたら外からの視点は養えるし、逆に外国に行っても綺麗な観光地で数日過ごして写真撮って美味しいもの食べただけなら何もわからないだろう。


パリやローマに1週間ほど滞在して、綺麗なホテルに泊まって美味しい飯を食い、観光して、「パリに住みたい!」とか言ってるやつ、バカかな?と思ってしまう。

多分貴方が外国人で、日本に旅行しに来て、日本の旅館に泊まって日本の美味しい飯を食い、観光したら、「日本マジ最高。日本しか勝たん。」となるに違いない。

住むのと観光は全くの別物だ。

ボーちゃんもリンキンも、他の様々な国に長期滞在して、その国の人や他の国の旅人ともたくさん交流して、外国の書物も読み、外国の文化をよく学んで、その結果として自分の国の政治を批判していた。
外からの視点、大事にしたい

追記も読んでね。



追記1


ボーちゃんとリンキンとはSNSを交換した。

なんとボーちゃん、メッセンジャー上でも古畑タイムを使ってくる

こいつは本当にすごい。
下の写真はあくまで一部だが、定期的に様々な情報を送ってくれる。
最初は反応していたが、その反応に対してほとんどまともな返答が返ってこなかったのでもう反応していない

反応をしていなくても定期的に送ってくる
ホンモノだ。


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時が止まっているのか?というくらいに俺の存在を無視して話し続ける
やっぱり、ボーちゃん=ディオ説が濃厚になってきた。

ボーちゃんが世界を滅ぼす日が来るかもしれない。

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(出典 「ジョジョの奇妙な冒険」より)



追記2


ボーちゃんの古畑タイムを受けて、日本文学にも少しずつ触れている。
最近は石川啄木に触れた。

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石川啄木の歌、すごく良い。
尾崎豊も影響を受けたらしいけど、なんとなくそれがわかる。
まだ全部目を通していないが、良いなと思った歌を3つ、下に書く。


知らぬ家たたき起して
遁げ来るがおもしろかりし
昔の恋しさ

ピンポンダッシュやん。
叩き起こしてるから、昼間にやるピンポンダッシュよりタチ悪い。
でもやっぱり、そういういたずらを友達と笑いながらやっていた時代は誰でも恋しいよね。
どことなく切なくなる良い歌だけど、教科書には載せられないね、、


一度でも我に頭を下げさせし
人みな死ねと
いのりてしこと

すごい。俺の解釈が正しければすごい歌だ。
コンプラを意識したロックバンドよりも圧倒的にロックだ。
もちろん、教科書には載せられないね、、


わが抱く思想はすべて
金なきに因するごとし
秋の風吹く

石川啄木は借金まみれだったらしい。
お金がなくても幸せだったら良い、とかいう綺麗事があるけど、やっぱり最低限のお金は必要だよね。
でもお金を持っていたら石川啄木という歌人は存在していなかったと考えると、彼の歌が一層味わい深くなる。

まさか日本の有名な歌人がピンポンダッシュについて歌っているとは思わなかったし、こんなにロックだとは思わなかった。

触れようと思った機会をくれたボーちゃんに感謝だ。



最後まで読んでくれてありがとうございます!!
書きたいことを適当に書いていこうと思うので、ぜひこれからも読んでください。
感想とか言ってくれるとめちゃめちゃ嬉しいです!
何か質問等ありましたら気軽に連絡ください。


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