農業小説/土野章福

農業小説/土野章福

最近の記事

コエダメカンタービレ第7話

ブルンッ!ドドドドダダ!!! 「これはぁー!聞こえるー?これはぁー!クラッチね!で、ここを!」 エンジン音で掻き消されそうな声を三谷さんが張り上げ 一輪管理機なる機械の使い方を教えてくれる。 「まず!見ててー!」 また大きな声をあげて、三谷さんと機械が一体になったかのように、背中が離れていく。 そして、またダダダダとエンジン音をふかしながら、こちらに戻ってくる。 じゃがいもの土寄せだ。 5月、空が高くなってきた夏も近づく頃、芽吹いたじゃがいもに土を寄せていく。

    • コエダメカンタービレ第6話

      梅雨。しとしとと続く梅雨ではなくて、聞きなれなかった「線状降水帯」と言う言葉がテレビから研修の朝聞こえてくる。 章子は雨になると、気持ちがどうも落ち着かなくなるようで、「はぁーっ」と強くため息をついては、ご飯茶碗片手に、憂鬱と不安を飲み込んでいた。 しかし、しばらくするとそそくさと5分もかけないで食べ終えた茶碗と箸を造作もなく置いて、食卓の脇に置いてあるスマホを見もしないで、左手にすっと取り、携帯に何やら書き込んでいる。 息を呑みながら打ち込む画面にはこう書いてある。

      • コエダメカンタービレ第五話

        「じゃあ章ちゃん!今日は…なんだと思う?」 腕が黒々と日焼けした農場主の三谷さんが、わくわくした様子で、間をおいて 「ジャーーン」 「わぁっ!」 軽トラのカバーをめくると大量のじゃがいも! 章子は胸を弾ませ、目を輝かせる。 ワクワクとウキウキで鼓動が早くなる。 「え?!じゃがいもって?じゃがいも植えて作るんですか?」 「そう!これは、種いもって言うんだよ!もとはじゃがいも!」 「でっ?でっ?」 「よし!じゃあ運びながら話そうか!」 芽の出たじゃがいもが、どっさり入った農

        • コエダメカンタービレ第4話

          一瞬、間をおいて、相手の心を汲み取るようにして医師はこう言った。 「統合失調症です。」 父の則重は、膝からガクッとその場に落ちた。 体に力が入らない。その様が則重にその言葉が与えた衝撃を表していた。 母の眞理子は、俯いて震え、何かに怯えている章子の手をぎゅっと握り、同時に握った手に体を支えてもらうかのようにとにかくその場で崩れないようにするだけ必死だった。 そして章子は精神科に入院した。その日は章子の19歳の誕生日だった。 個室に案内された。 思いの外きれいな内装に

        コエダメカンタービレ第7話

          コエダメカンタービレ3話

          しかし、そうことはうまく運ばない。 農家は忙しい。 仕事がない ということがまずなくて、まして駆け出しの農家である章子にとって勉強の時間を作るということは簡単なことではなかった。 増して個人事業主、時代はSNSでの集客も必要となる時代。 章子は悩んでいた。 「勉強もしたい。農家として成長したい。でも家事の時間や趣味の時間、生活も大切にしたい」 しかし、ナンチャラグラムやチャラッター、どれもみんなが見てくれるのは仕事終わりの夜の時間。 章子にとっては仕事の発信をよる寝る前に

          コエダメカンタービレ3話

          コエダメカンタービレ2

          章子はなかなか基幹作物を決められないでいた。 なぜなら、章子が研修をした農場は、野菜セットを組む少量多品目農家。 季節ごとに色々な野菜があり、 章子はその農家への憧れを捨てきれずにいる。 それに、少量ずついろんな野菜が植えてある畑は、いつみても美しかった。 あの時の光景が心に焼き付いている。 あの時の高鳴る感情が今でも頭に浮かぶ光景だけでふわっとよみがえる。 しかし、章子も起業3年目。 章子なりに、数々の失敗を繰り返し、そこから学び取ったものと、自分のやりたいこと、やり

          コエダメカンタービレ2

          コエダメカンタービレ

          コエダメカンタービレ 夏だ。 寒い。 外はしとしと冷たい雨。 大地に天のおしめりが染み入る夏、が、寒い。 そう今は1月。霜が降りるこの季節、農家にとっては夏だ。 暑いから?いや、決してそうではない。 一月、農家は夏を見ている。 「う〜ん、、どうしよう。まほろばには何を植えよう?人参植えたでしょ〜?‘・・・」 章子は駆け出しの有機農家。 自分の畑に名前をつけ、可愛がっている。 いや、大切に、そして愛す場所にしていこう、そういう想いであたまにあの畑を浮かべる

          コエダメカンタービレ