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コエダメカンタービレ第五話

「じゃあ章ちゃん!今日は…なんだと思う?」
腕が黒々と日焼けした農場主の三谷さんが、わくわくした様子で、間をおいて
「ジャーーン」
「わぁっ!」
軽トラのカバーをめくると大量のじゃがいも!
章子は胸を弾ませ、目を輝かせる。
ワクワクとウキウキで鼓動が早くなる。

「え?!じゃがいもって?じゃがいも植えて作るんですか?」

「そう!これは、種いもって言うんだよ!もとはじゃがいも!」
「でっ?でっ?」
「よし!じゃあ運びながら話そうか!」

芽の出たじゃがいもが、どっさり入った農家ならではの黄色いかごを章子は左側を。三谷さんは右側を持ち、すこしかがんでから伸び上がる。

せーのっ!
よいしょっ!

ふたりで持ち上げ、軽トラから広大な畑におろす。
空は晴天。菜の花が咲く季節。
心が躍る。

「あぁ!」
びっくりした目で三谷さんが章子の雄叫びを眺める。
「あ、すいません!きっもちいいなぁ〜!って!ここ、いいなぁって!」
「ははっ!気持ちいいでしょう?」
「はい!」

やるよ!と言わんばかりに三谷さんの目が鋭くなる。
ピリッとしまった空気感と心地よい風がどうしてかマッチしてやはり気持ちいい。

「はい!」
三谷さんが包丁を渡してきた。
「え?」
「じゃがいもを切るんだよ!一つのジャガイモからいくつかの芽が出てるでしょ?これを分割して植えるんだ!」
三谷さんのさっきまでの真剣な眼がやわらいで、ふふふとばかりに心の中で鼻唄を歌っているのが聞こえる。

ほんとうにすきなんだなぁ。

思わず顔がほころぶ。

ベッドの上では感じられなかった気持ち。
病棟の中にいては体験できなかった感覚。

章子は畑にどんどんのめり込んでいった。

つづく

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