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コエダメカンタービレ

コエダメカンタービレ


夏だ。

寒い。

外はしとしと冷たい雨。

大地に天のおしめりが染み入る夏、が、寒い。


そう今は1月。霜が降りるこの季節、農家にとっては夏だ。


暑いから?いや、決してそうではない。

一月、農家は夏を見ている。


「う〜ん、、どうしよう。まほろばには何を植えよう?人参植えたでしょ〜?‘・・・」


章子は駆け出しの有機農家。

自分の畑に名前をつけ、可愛がっている。

いや、大切に、そして愛す場所にしていこう、そういう想いであたまにあの畑を浮かべる。


「冬は人参やったでしょ〜?・・・お母さん!人参の後作って何いける?」

「どれどれ」

出番が来ましたねと言わんばかりに楽しげに母の眞理子が本を取り出してくる。


章子が農家になってからというもの、家族は農業や植物、はたまた微生物にまで興味津々だ。


父の則重は夏は草刈り部隊隊長。。といっても、1人部隊。

しかし、今年我らの農場にはハンマーナイフモアと言うなんともイカつい名前のゴッツゴツの草刈機がやってきた。2mくらいの草でも粉砕してしまう代物。

相性は「草太」

則重の相棒だ。


 章子はまだ悩んでいた。

「人参のコンパニオンプランツはしゅんぎくだべ。かぶだべ。ってことはかぶと人参同じ畝に植えれば、、、、同じような時期に育つしいいかな?」


コンパニオンプランツとはお互いの病気を防ぎあったり、虫を寄せ付けないようにする代物である。

まさに共生作物。


「あき!」真理子が瞳を輝かせてこちらを見る。

「何ぃ?もう考えすぎて疲れた」

「枝豆は?」

「え〜枝豆?稼げないからやだよ!大変なんだよ!利益あがんない!もうちょっとその本見せて!」

眞理子から本を奪い取ると、、、

「お母さん!!キャベツと人参リレーいける!で枝豆もリレー行ける!一緒に植えても大丈夫!でもシンプルなほうがいい!リレー行けるよ!」


リレーリレーと連呼する章子は足が速い。

体調が悪いから行きたくないと言ったマラソン大会で優勝経験をもつ。

とまぁ余談は置いておいて、、、リレーとは農業では栽培した作物の後に作る作物を後作と呼び、その後作、その後作と続けて栽培をしていくということだ。


なぜこんなに後作やリレー栽培を気にするかと言えば、作物には相性というものがあるからだ。


リレー栽培のリレー選手となる栽培作物が固まると、農家はらくだ。


章子はそう考える。

毎年毎年、この畑に何を植えようと半年以上も頭を悩ませることもない。


農家にとって主要作物は基幹作物と呼ばれる。


「何でメシを喰うか」

今日の晩御飯のおかずじゃない。どの作物を植えて、自分たちは所得を得て、生きていくのか、そういうことだ。

…つづく

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