【小説】のけ者
友人に誘われて訪れたアイスクリーム食べ放題の店は、想像していたよりも派手で奇抜だった。外壁こそ大人しく白いが、ドアは濃いピンク色で、列の先頭で中に踏み入った途端異世界へ来てしまったような気になった。青い床に白や青や茶色、ピンクがでたらめに上から下へ垂れ流された壁、それらに囲まれて赤いイスとテーブルが並んでいた。入り口近くのカウンターに店員が立っていて、その先にずらりとこれまた色とりどりのアイスクリームとそのトッピングが並べられていて、自由に皿にとれるようにスプーンが添えてある。友人は僕の先を歩き、ためらいなくすらすらとアイスを皿にのせ、トッピングを贅沢に振りかけて最後に木製のスプーンを一つ取って、先行ってるよ、と僕に言い、窓際の、左右の壁のちょうど真ん中の席に腰かけた。僕は財布の中を逃げ回る小銭を追いかけていたせいでやっとお金を払い終わったばかりで、後ろに並ぶ人々の数はどんどん増えていた。大きな皿を一枚取り、アイスが盛られた大皿の隅に置いてあるスプーンをもってそのアイスの塊を切り崩した。自分の手元の皿にそのピンク色のアイスを乗せたとき、僕は妙な感覚に襲われた。皿が大きくなったのか、盛ったアイスが小さくなったのか、どちらにせよ切り取ったはずの大きさとは似ても似つかないほど、まるで茹でられたほうれん草のようにアイスは小さくしぼんでいた。きっとアイスが小さくなったのだろう、と思った。これでは一口で食べ終えてしまう。急いでもう一度スプーンをもって同じアイスを切り崩し、それを皿にのせる。するとやはり、皿に乗せた途端アイスはやけに小さく縮こまり、また一口大になってしまった。今度は別のアイスを乗せてみたが、やはり同じ。また別の、そしてまた別の、とやっているうちに、僕の大きな皿の上には一口大のチョコレートのようないくつものアイスの塊で彩られた。友人の方を見ると、彼の皿にはきちんと、僕が想像している通りにアイスが盛られている。僕は背後に視線を感じた。振り返るといくつもの刺すような視線が僕を貫いていた。早くしなければ。だけどアイスがすくえない。もう一度別のアイスを、思い切り大きくすくい取って皿に乗せてみる。するとやはり、一口大に小さくなる。見たところ、すくい取られた側の塊は少し形が戻っているように感じられた。僕は背後からの圧力に負け、とりあえずこれにトッピングを乗せて席に着こうと観念した。トッピングの、ナッツを小さく砕いた粉をアイスの上に少量振りかけると、また妙なことが起きた。今度はトッピングがやけに多くなるのだった。皿の上のアイスたちには、少量振りかけたにもかかわらずもうほとんどナッツの粉で埋まっていた。アイスの色もナッツのベージュに隠れて見えないほどだった。一度とってしまった以上、また戻すわけにもいかずそのままにして、カラフルな粒を少量、本当に少量だけ取って皿に振りかけた。するとナッツほどではないにせよ、皿の上は一気にカラフルに溢れ、鬱陶しいほど賑やかになった。僕はこの勝ち目のない戦いに参加することに疲れ、背後から今にも切りかからんばかりにこちらを睨む人々の視線にやられ、そそくさと友人の向かい側の席に着いた。そして起きたことを彼にすべて話すと、「ふーん。」という一口大の返事がぽつりとこちらへ投げられた。言うまでもなく僕は彼より先に食べ終わってしまって、あとはすることもなく暇になった。何かをしていなければ気が狂いそうな色彩の中で、何もせずにぼうっとするというのはなかなかに難しく、きょろきょろと辺りを見回していた。皆きちんとアイスを取れているようだった。妙なことが起きたのは僕だけのようだ。またアイスを取りに行くこともできたが、行列に並ぶ気持ちにもなれず断念した。店の中は人で埋まり、がやがやとしていた。その喧噪の中に一人だけ残されたような寂しさを抱えながら、うまそうにアイスを食べる友人の、胸元のポケットからはみ出しているこの店のレシートを見つめていた。
店を出るころには、行列は店の外まで伸びていた。僕はしばらく歩いてからアイス店を振り返って見た。忌々しい黒い影が建物の背後からめらめらと立ち昇って見えるのはきっと僕だけなのだろう、と思った。そして次の瞬間にはそんなものは消えていた。最初からなかったのかもしれない、とも思った。友人はすっかり冷え切った体を温めたいと、喫茶店へ行こうというので、古びているが手入れの行き届いた喫茶店を見つけ、そこへ入った。願わくば、きちんとしたコーヒーが出てくると良いのだが、と僕は思った。席について注文し、その後運ばれてきたコーヒーを見て僕は恐ろしくなった。同じ大きさのカップにもかかわらず、僕の方だけ、カップの底に一口分のコーヒーしか注がれていないではないか!
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