【小説】眠る支度はいつもあなたと
疲れ果てた体でゆらゆらとベッドへ入り、すがりつくように毛布を抱いた。
次々に頭に浮かんでくる今日あった出来事から逃れようと、目をぐっと閉じて体を丸める。
私が傷つけた誰か、私を傷つけた誰か。そんな消し去りたい静止画がしつこく瞼の裏に投影される。
あの時、もっとああしていれば、、、、。
そんな風に思い浮かぶ良いアイデアが疎ましい。どうして思いつけるのに、いつも遅すぎるのだろう。どうしようもない一日であったということが唯一の現実なのに。
毛布は私の胸の中でおとなしくうずくまっている。私はそのやわらかな毛並みを撫でた。
撫でるたび体に刺さっていた針がぽろぽろと落ちていくような気がする。
ジャングルを抜け出してきたわけでもないのに。
瞼に投影されていたうるさい静止画はだんだんとぼやけていく。相手がどんな顔をしていたのかも分からなくなる。自分がどんな服を着ていたのかも。
カーテンを閉め忘れていて、青白い光が瞼を通り抜けてくる。
このままでいいと思った。動いたら、また嫌な静止画がよみがえる。
そのとき、背後に人の気配を感じた。ベッドの端に腰かけ、それにつられて私の体も少しそちらへ沈み込む。
それからその気配は私を抱く。背後から、そっと。
毛布みたいに柔らかくて、ガラス細工に接するように私を包む。途端に私の心は安らぎで満ちていく。魔法使いが、魔法で枯れた大地をよみがえらせるみたいに。
もう瞼の裏には何もない。私を責め立てるものは遠ざけられ、否定された。
私は毛布を抱いていた腕の力を抜き、瞼の力を抜き、ただの人形みたいにベッドに体を預けて深く息を吸う。
私の香り、洗剤の香り、でもそれだけだ。
ゆっくりと、振り返ってみる。
誰もいない。散らかった部屋が青白くそこにあった。
途端に私はひとりになった。私を包んでいた心地よい感覚は消え、、。
でも不快な静止画も戻ってこない。
いつもそう。
ここにいてくれないけれど、私の重荷を取り去っていく。重荷だけを正確に。
その代わり、寂しさを置いていく。これだって一つの苦痛なのに、私が寂しさには慣れているからって。
おやすみなさい。もう眠ります。
この調子なら、私もきっと明日へたどり着けるでしょう。
またあした。
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