見出し画像

You Are My Great Dad 【ショートストーリー】

機内食がやってくると、父は緊張した表情で周囲を伺いはじめた。青い目のCAに「オニク、サカナ?」と日本語で聞かれ、答える父も「サカナ、サカナ!」と片言になっている。

フライトは12時間。
「着くの昼だから、寝てなよ」そう伝えても、『これ1冊で話せる英語!』と書かれた本を父は閉じない。


入国審査に並ぶ頃には、父の本は折目だらけになっていた。ガラスの向こうに座る初老の男性が、手招きする。

「さいとしぃんぐ」父が固い笑顔でパスポートを渡す。審査官は厳しい表情で私達をじっと見てから、優しく微笑んだ。

“Is she your friend?” 審査官の質問に父は「いえす!」と繰り返す。
“He is my great dad.” そう伝えると、審査官は“I know.”と笑った。

「なんて言ってんだ?」訝しむ父を促し、ゲートをくぐる。
「お父さんの英語上手だねって」私の答えに、父は「だろ?」と得意げな顔をした。

お読み頂き、ありがとうございました。 読んでくれる方がいるだけで、めっちゃ嬉しいです!