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【短編小説】 霊感タオル その5

会社へ戻って来て、田島に相談がてら早速話をしてみた。

「すっかり頼られているのね。凄いねぇ。」

「頼られてんの?」

「聞いて欲しいんだと思うよ。見えて聞こえるんでしょ?」

「でも、途中でいなくなっちゃったんだよね。」

「挨拶して去って行くっていう、律義さが欲しいの?」

「・・いや、そんなことは求めていないけど。」

「ちょっと貸して。」

タオルを首から引っこ抜かれた。

またマジマジとタグの辺りを見て何かを納得したのか、ポイっと返して寄越した。

「たぶん、会えるのは次が最後くらいだろうね。」

「何で?」

「ここ、触ってみて。」

タオルのタグを指差して言った。

普通タグは帯状に縫い込まれていて指が通るはずだけど、このタグは袋状になっていて、その中に小さい何かがコロコロっと入っている感じがする。

「何だこれ?」

「これが無くなった時に、見えないし聞こえなくなると思うよ。」

「何でそんなことがわかるのよ?」

「このタオル、今日か明日に洗濯するでしょ。それで使ってまた洗ったときにはここには何も残らないはず。」

「何入ってんのよ?」

「それは置いといて。助けてあげなよ。きっとその人喜ぶよ。どんなことがあるか知らないけど。」

「・・・、どんなことがあると思う?」

「わかんない。あっちの人のお願いなんてわかる訳無いし。ただ、悪い人じゃないのは何となくわかるからさ。」

「怖いんだけど。」

「話弾んでたじゃん。聞くだけ話を聞いてあげなよ。そんで、出来ないことを言われたらキッチリ断れば良いのよ。安請け合いするとロクなことないだろうから。」

「スゲー怖いんだけど。」


夜に洗濯する前にタオルのタグ部分を触ってみると、昼に触った時より心なしか小さくなっている感じがする。

タグを切ってみようかどうか、ちょっとだけ悩んでみた。

中身の「何か」を取り出してしまえば恐らくタオルはただの“冷感タオル”となるだろう。

けれど、そうすると多分あの女に会えなくなるのだろう、田島説によると。

ということは、あの女は困ったまま、次に存在に気づいて、話を聞いてくれる上に頼みごとも聞いてくれそうな誰かを延々と待つのだろう。

悲しそうな女の顔がふと浮かんだ。

怖いというよりは、困っていてかわいそうといった気持ちの方が強かった。

タグを軽く撫でて、タオルを洗濯機に放り込んで回した。


「きょうはあのタオル無しで公園へ行ってみる。」

なぜか田島には決意表明をしておこうと思った。

「あっ、そう。」

あんなに興味深そうに話をしていたのに、妙にあっさりしている。

「会っちゃうかな?」

「まんざらでも無いみたいね。」

「いや、どうかなぁと思って。」

「営業、行ってらっしゃ~い。」

顔も上げずに見送ってくれた。


例の公園の木陰が出来ている時間に、いそいそと出向いて行った。

きょうもバリバリの夏で、陽射しを嫌がる母親とただただ歓声を上げて走り回る子供で公園は盛況だ。

ベンチに座ってみたけれど、何の気配も無いし、何も頭に入って来ない。

「こんにちは。」

頭の中ではハッキリと、クチでは小さく声に出して言ってみた。

何も起こらずベンチ周りは実に静か。

あのタオルとあの“タグの中身”が無いと、いまあの女が隣に座っていて話し掛けてくれていたとしても、自分には何も反応出来る術がないらしい。

「今度はタオルを持ってきますね。。」

頭の中だけで言ってみたら、足元の小石が小さくコロっと転がった。




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