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【小説】 変える、変われる。 : 80

どれくらい酷い目に遭ったら、こんなに泣き続けることになるんだろう。

それとも涙が出るだけ、まだマシなのか。

人生、緩く流れて今に至る自分にはわからない。

「何も話したくありません。」しかまともに声も聞いていない。

シャツにじっとり涙が染み込んでいる感じがするけど、涙って止まらないし枯れないと知った。


水を飲んで欲しいと思い始めた辺りで、涙は落ち着いて来たらしい。

好きだと気づいた辺りから、抱きしめ方に力みが出てしまっていたせいか、石黒さんが身動ぎ出来ないでいる気がして緩めた。

それが辛くて涙が倍増だったら、本末転倒過ぎる。

石黒さんがゆっくり腕から抜けて向かい合う形になった。

小学生のように出掛ける時は忘れないハンカチをポケットから出して、涙でじっとり濡れすぎた顔を拭いてあげた。

涙で溶けて目が流れ出ないでいてくれたけど、真っ赤で少し腫れている。

今までヘンな話し方で上手く思っていることを伝えられなかったから、誤解させることが多かったと思う。

だから、ちゃんと話そう。


「石黒さんのことが好きです。」

トロンとしていた石黒さんの目に警戒みたいな驚いた色が走った。

このタイミングで急にどストレートに言ったら、確かにそうなる。

けど良い、思っていることをちゃんと伝えないといけない。

「だから、出来ることは何でもしたい。石黒さんが笑っていられるようにしたいんです。」

一瞬、顔が真っ赤になって、また涙が膨れ上がって来たから、ハンカチで軽く押さえた。

押さえても押さえても止まらない。

ついでに鼻から少し・・

これはハンカチじゃないなと思って、ティッシュで軽く石黒さんの鼻をつまんで拭いた。

石黒さんが「あっ」と小さく言って、自分で鼻を拭った。

目が合ってちょっとだけ2人で笑った。

「好きです、さっき、ようやく気づきました。」

隠してもしょうがないから、いつ頃からかも馬鹿正直に。

好きなことの返事は無くても、出来ることを教えて貰えたらそれで良い。

あるのか、わからないけど。


石黒さんが、しっかり真っすぐ自分の目を見て口を開いた。

「・・・私は、前から木村さんのことが好きです。」

「えっ?」

「仕事の担当になって頂いてから、何回かお会いする内に。」

「・・そうだったんですか?」

瞬間的に「一体どこを?」と思ったけど、そんなことは今はどうでも良い。

石黒さんが口を固く結んで、大きく頷いた。

緩い人生最大に嬉しい出来事が起きた! 失業中だけど。

「ありがとう!」

あんまり嬉しいので、ゾンビの時に石黒さんの腕を握った時の情けなさとは全然違う、本気の力の入れ具合で手を握ってしまった。

石黒さんもにっこり笑って、握り返してくれた。

ああ、なんて嬉しいんでしょう!!・・と、気が緩んだせいか、お腹が鳴ってしまった。

「お腹空いた! ごはん温め直して食べましょう。」

「・・はい!」

目も顔も真っ赤だけど、涙は止まっていて、石黒さんもにこにこ顔になってくれている。


変えたい、石黒さんがせめて仕事以外の時間は笑顔でいられるように。

出来るかな・・?

しっかりと話を聞いて、ちゃんと話をすれば。

いい加減な嘘を付いたり誤魔化したり、変に隠したりしなければ良いだけなはず。

・・・やりましょう!


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