【 短編小説 】 ホログラム裁判 #2000字のホラー
「・・・実証実験を重ねておりました『記憶ホログラム』が、99.99%の整合性と確認され、物的証拠として裁判で採用される運びとなりました。」
「・・・合わせて簡易裁判所にて刑期等が検討済となっている裁判において、先入観の無い子供達による裁判員制度も同時に施行される運びとなり・・・」
何でまた、こんなしょうもない事になってんのかねぇ。もう、執行猶予付きの判決が出てるじゃねぇかよ。同じことをガキにまた判断させるって時間の無駄だっつぅの。俺の横領なんて大した金額じゃないし、返してるっつぅの。サクサク終わらせようぜ、ホントに・・・
待機室の部屋のモニターに俺の前の裁判が映し出されている。
万引き常習犯の裁判か、あ~、3年2か月の実刑ねぇ、執行猶予無しってか。手癖が悪いんだか病気なんだか、イライラすると財布に金が入っていても、パンやら電池、果てはスリッパと目の前の物を手当たり次第パクっちゃうってさ。防犯カメラにバッチリ映っていても、知らぬ存ぜぬでスーパーの事務所で大暴れだって、バカだねぇ、笑わせるわ。
「・・・以上となります。被告人は罪状を認めますか?」
「・・・はい。。 申し訳ありません。。」
蚊の鳴くような声でプルプルして泣いてるわ、アホだなコイツ。
「それでは、これから『記憶ホログラム』を開始致します。」
んん~、あ、これか、例のヤツ。どれどれ。
銀行のATMにある「掌紋読込機」みたいな機械に、被告人が手のひらを乗せた。すると、被告人と裁判長の間のスペースに被告人の記憶がホログラムとなって現れた。
スーパーの一角にいる被告人が商品の棚を見つめている。
おお、スゲー!! 何これ、思いっきり菓子パンを手提げに突っ込んでんじゃん。あらら、電池も鷲づかみでポケットかよ!あぁあぁ、入り口を出た途端に自分の肩を鷲づかみされてんじゃん、あっはっは、笑える!!
本当にそこで起きているように、万引き犯の記憶が具現化されている。
子供たちが口々に「泥棒だ!」「ちゃんとレジに持って行ってお金を払わないといけないんだよ!」「悪いことをしたら、ごめんなさいって言わないとダメだと思います。」等々、思い思いの感想を話している。
何だこの茶番は、アホくさ・・・
子供達の『意見陳述』が終わり、裁判長からは「そもそもの量刑」が言い渡されて裁判は閉廷した。
ああ、こんな感じなのね、じゃ、俺のコトは万引きみたいな事じゃねぇから、子供から『意見陳述』は出るのかねぇ? わかんねぇだろ、ガキには。
刑務官に連れられて、俺も法廷に入って行った。
ボロ泣きの万引き犯と同じ流れで裁判は進んで行き「深く反省している俺」は、例の『記憶ホログラム』を受ける段となった。
裁判何てこんなもんか・・と思った、その時だった。
傍聴席から女が叫んだ。
「あなたは!! あなたはタケシさんを殺した人殺しよ!!!」
静まり返った法廷内で、一斉に傍聴席を振り返った中で俺も漏れなく振り向いた。
子供陪審員の保護者席で、刑務官に両脇を抱えられた女に見覚えがあった。
誰だっけ?
怒りに満ちた目で俺を睨んで来る女は・・
あ、ハタヤマの嫁だ、何でこんなとこにいるんだ??
女が刑務官に法廷外へ引きずられるように連れて行かれながら言い放った。
「あんたのせいで、タケシさんは死んでしまったのよ!!!」
叫び、震えながら、女が出口から消えた。
あぁ、びっくりした。
バカなヤツにはバカな嫁がセットでついているもんだな。
ハタヤマは俺の部下で、真面目だけが取り柄で愚鈍で契約を取れないバカだった。俺が丁寧に教えてやってたのに全然ダメ。だから、契約取るまで帰って来るなって、ちょっとみんなの前で言ってやっただけで、首吊ってやんの。それを俺のせいだとか言ってくる何て、アイツにぴったりなバカ嫁だな。
俺は反省を示すための下を向いたまま、ちょっとだけ口元を緩めた。
「ママが言ってた! パパが死んじゃったのは会社の人にいじめられたからだって!! 毎日バカだバカだって言われて、ぶたれたりしたって! パパがやって無い事をパパのせいにされたって言ってた!!」
法廷内に子供の声が響いた。
「バカ」にそっくりな子供が泣きながら訴えていた。
少しだけ休憩が挟まれて『記憶ホログラム』が実行された。
俺は「目の周りが黒ずんだハタヤマ」の映像が何故か頭に浮かんだ。
その瞬間、ホログラムが映像を映し出した。
俺の席の前でうな垂れて立っているハタヤマを見る他の社員。
普通じゃない時間を連日打刻しているハタヤマのタイムカードを破る俺。
ハタヤマが顔を押さえて倒れ込んでいる資料室の床。
待て待て、横領のことだろ、今?
えっと、伝票操作しているところを思い浮かべろ、領収書をイジっているあの時を思い出せ・・・!
俺の横領の執行猶予は確定した。
同時に、俺の『別件』についての捜査が始まった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?