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【短編小説】 霊感タオル その8

家に帰ってシャワーを浴びた。

ビールを飲む気になれず、テーブルにあった飲みかけの麦茶を飲みながら、テレビを点けた。

ニュースで公園の一件をさらっと報道していた。

行方不明だった女性が近所の公園に埋められているのを発見された、防犯カメラに映っていた容疑者の男を任意で取り調べ中、とのこと。

関係性とかはまだ不明らしい。

被害女性の画像として映っているのは、あの女が元気だった頃と思しき、映りの良い写真だった。

ほんの数分のニュースだった。

なんだか、涙が出て止まらなくなってテレビを消した。


翌日、会社で死体発見のことも聞かれたけど、それよりも何で田島と一緒だったのかの方がみんなは興味津々な様子だ。

知らない人間のことなんかより、身近な人間のプチ・スキャンダルの方がみんなにとっては大事件なのである。

見ると田島もそれはそれは面倒そうに適当に答えている。

何重にも申し訳無い気持ちになった。

きょうは営業に出ないように言われていたので、心ここに非ず状態でパソコンで役立たなそうな営業資料を作って過ごした。

昼過ぎに刑事が二人やってきて、田島と一緒に応接室で話をした。

容疑者の男が殺害を認めたこと、公園に死体を埋めたこと。

女性としては全く面識が無かったこと。

容疑者の男の一方的な好意がエスカレートした上での事件だったこと。

女性の落ち度は全くのゼロ、といった感じの話だった。

特にこちらから聞きたいことも無いし、教えて貰えそうなことは出来たら聞きたくないことだろうと思ったので黙っていた。

ご協力有難う御座いました、と軽く頭を下げて二人は帰って行った。

田島と話すことも無いので、刑事が出て行った後に、すぐに二人とも応接室を出た。


翌日は土曜日で会社が休みだったから、タオルのことを聞きに久しぶりに実家へ帰った。

「あら! 急に来て、どうしたの?」

連絡を寄越せと言っているけど、実際に帰って来たら、いつもこうだ。

「連絡寄越せって言ってただろ。だから来たの。」

「あら、そう。」

ちょっと嬉しそうに、いそいそと冷たいお茶なんぞを用意してくれた。

「こないだくれた荷物あるじゃない。」

「そうね。古いのは捨てたの?」

「まあ、まだ入れ替えてはいないんだけど。」

「全然そういうの気にしないから、ちゃんと小綺麗にしていないとダメよ!」

仰る通りなので、この辺りの話は反抗すると長くなるのでスルー。

大事な本題!

「1本だけ入っていたタオルがあったでしょ。あれ、どうしたの?」

「タオル・・? ああ、町内会のバス旅行で貰ったのよ。紫のやつよね?」

「そうそう。誰に貰ったの?」

「だから、バス旅行よ、町内会の。」

「いや、あの、誰が配ったの? みんなにくれたの? 母さんだけ?」

「ええ? 誰って・・・。あたしだけじゃないわよ。でも、あんな色はあたしだけだったかもねぇ。」

「で、誰からもらったの?」

イイ感じに話が進まない。

「思い出した!! 住職さんがくれたのよ。盆踊りの時に配る予定だったらしいけど、大雨降って中止になっちゃったじゃない、お寺のお祭り。」

「・・知らないけど。」

「なっちゃったのよ~。バケツ引っくり返したみたいな雨。凄かったのよぉ。まあ驚いたわ、あれには。あれじゃあ、みんな踊れないしねぇ。」

「・・そうなんだ。お寺で配るはずだったのね。」

「そうそう、住職さんがね、配ったのよ。」

細かいところは、訂正を忘れない。

「暑くても濡らして振ると冷えるってさ。使った?」

「うん、すごく機能するタオルで、良いよ。」

「そうなんだ、でも色がさ、ちょっとあたし好きじゃないし、あんたは外回りしているって言ってたから、ちょうど良いと思って送ったわけよ。」

「色、そうね、目立つよね。」

「あ、また思い出した。住職さんがタオルには当たりがあるって言ってたのよ。」

「当たり??」

何となく、また核心的なところに来た気がする。

「良い機能のタオルなんだけど、住職さんが1本だけ、当たった人が幸せになりますようにって、お祈りしたのがあるって言ってたわ。」

「ど、どういう風に?どのタオル?」

「ええ? どうだったかな。タオルなんて、みんな貰ってもそんなに嬉しくなかったみたいでさ、どれが当たりとかわかんないわ。」

「お祈りだけしたの? そのタオルは。」

「詳しく聞いて無かったもの。なんでそんなに気にするの? 冷たいなら良いでしょうに。」

「お寺って、小学校の横のあのお寺?」

「そう。」

「ちょっと、行って来る! 後でまた寄る。」

「ええっ?」

母さんからはこれ以上聞きだせない。

お寺、違う住職からのプレゼントとの情報だけで良しとするべきで、急いでお寺に向かうことにした。




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