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熱射/コルドバ

降り注ぐ太陽の熱を遮るものは何もない。コルドバ駅前の広場は、ターミナル駅とは思えない静けさで、動くものといえば日陰を求めてうろつく数匹の猫くらいのものだった。

その日のうちに別の列車に乗り継ぐ予定だが、せっかくだし、と、取りあえずは観光名所になっている橋を目当てに歩を進める。特段、この紀元前に建てられたとかなんとか言う橋に興味があるわけでもないのだが、“このあたりを目指して“とゴールを決めてしまえば、ふらふら歩きまわるうえでも目的意識ができて動きやすい。なんとなく駅前の猫と自分を重ねて、広場を横切った。

◆◆◆

駅前で見た地図が正しく読めていれば、方向は正しいはず、道のりもいたって単純だった。ただし、相変わらずの直射日光と、アスファルトの照り返しにのぼせそうで、自分がどれほど歩いたのかいまいちわからなくなってきた。


いよいよ迷ってはいないかと不安に駆られ、目の前のケバブ屋に飛び込んだ。冷房の効いた店内が涼しい。トルコ人と思しき二人の店員は、人気のない昼下がりの、突然の来客が大きなバックパックを背負ったアジア人とあって多少意外そうな顔をしている。
「橋の方に行きたいんだけど、方角はあってるかな」
「ああ、それなら正しいよ。このまま、道を真っすぐだ。」

何も注文しないのが多少忍びなかったが、旅程も長く、節制を心がけなければならない。ぼくは礼をいって、店を出ようと振り返った。

「待ちなよ。水、飲んでくか?」
ぼくが余程暑さにやられていると見たのだろう、いや、事実そうだったはず。店員の二人は僕にコップ一杯の水を注いで出してくれた。自分でも気が付かないほどにのどが渇いていたらしい、一瞬で飲み干すと、たちまち元気が戻ってくるようだ。


なんとなく、観光名所を目的地に歩いていたが、そもそもこの一人旅も、こういった些細なやりとりを楽しみに続けていたな。ぼくはもう一度礼を言って店を出た。

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