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2021年7月FOMC展望

 FOMCとは連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee)の略で米国の金融政策を決める会議です。日本でいえば、日銀の金融政策決定会合に当たります。

 世界経済はドルを基軸通貨としていますので、米国の金融政策は、米国経済だけでなく、日本を含めた世界全体にインパクトを及ぼします。
 また、為替や株価など金融市場にとっても、米国の政策の方向性を判断するうえで重要なイベントであり、決定が公表される米国東部時間午後2時を固唾を飲んで見守ります。決定が市場に大きな変動をもたらすことも少なくありません。
 決定が公表された30分後(東部時間午後2時半)に開始される議長(現在はジェローム・パウエル Jerome Powell氏)の記者会見も注目です(日本からでもFRB(連邦準備制度理事会)ホームページからリアルタイムでみることができます)。

 私は、仕事柄、日銀やFRBの金融政策について、メディアの方や金融市場関係者からコメントを求められることが多く、決定内容を予想したノートを関係者にお配りしていました。
 今回、noteを始めるに当たって、これまで関係者に限ってお見せしていたノートをnote上でも公開することにしました。
 内容はかなり専門的ですので、とっても狭い範囲の読者しか関心がないと思いますが、興味のある読者はご覧ください。

 内容は筆者の私見ですので、FRBや日銀とは一切関係はありませんし、公表情報に基づいた検討ですので、「特別な秘密」などは何もありません。
 また、この内容を信じて、例えば、金融取引などを行ったとしても、筆者は一切の責任を負いません。
 「予想」ですので当たることもあれば、外れることもあります。また、含まれている情報も(筆者としては注意を払っていますが)正しいとは限りません。ノートの利用は自己責任でお願いします。

 2021年7月のFOMCの決定は7月28日米国東部時間午後2時(日本時間29日午前3時)です。

 「2021年7月FOMC展望」はこちらをダウンロードしてご覧ください。

 PDFファイルダウンロードだと不便という声も頂いたので、テキストでもここに貼り付けます。長いです。またPDFの方が重要な部分は赤字で書かれていますので、便利です。

米長期金利は、下振れは一時的という当方の予想に反して、一時は1.2%を割り、足許でも1.2%台で推移している。
一方、FRBの金融政策については、4月以降の当方の予想(市場コンセンサスからみればhawkish)を変更する必要はないと考えている。

今回は予め結論を書いておこう。
・ 米長期金利は、HF(その多くは1Qでスティープニングを予想し(当てて)、それが2Qでも継続すると予想していた)などのポジションの巻き戻しに伴う(私からすれば)極端なフラットニングは終わり、8月入り後はジャクソンホールを展望しつつ徐々に以前のレンジに戻ると考える。8月以降はしばらく1.4~1.8%のレンジで推移するとみる。

・ バイデン政権のインフレに対する警戒感、嫌悪感は高まっている。足許の高いインフレ率は一時的との評価は変えないだろうが、「本当に一時的かを注視する必要がある」といった「一時的でないリスクにも注意を払っていますよ」というメッセージを明確にするだろう。勿論、「雇用・物価の推移を辛抱強く見極める」というpatienceも同時に強調するだろうが、市場が一番気にしている「足許の高いインフレが一時的でないリスク」については、ややhawkishなトーンへの変更がみられるだろう。

・ フォワードガイダンスについては、テーパリングや利上げの要件については変更しないだろうが、政策スタンスの変更に関する条件「もし委員会の目標の実現を阻害しかねないリスクが表れれば(if risks emerge that could impede the attainment of the Committee's goals)」を先日の議会証言での表現「インフレのパスや長期的なインフレ期待が我々の目標と整合的な水準を大きくかつ継続的に超えて動いている兆候がみられる場合には(if we saw signs that the path of inflation or longer-term inflation expectations were moving materially and persistently beyond levels consistent with our goals)」に変更する可能性がある。趣旨は変わらないし、議会証言で使われた表現という意味で市場にとっては既知の表現ではあるが、インフレが一時的でなかった場合の政策調整の可能性がより具体的に書かれることで、実際に表現が変更されればhawkishに受け止められるだろう。

・ テーパリングについては、4月以降一貫して予想しているように「ジャクソンホールで意向表明」という点は変わらない。ただ、テーパリングのやり方についてはその「計画」を7月会合で明らかにする可能性がある。具体的には「MBSの買い入れ削減を米国債より優先して削減するか」「どれ位の期間をかけて削減するか」といった点である。これも従来から予想しているように、住宅価格や家賃の高騰はすでに政権にとっても切実な問題になっており、MBSの削減を優先すると予想する。今後インフラ投資計画の議会承認を控えていることを考えると米国債の削減はMBSよりも慎重に行うというのは理に適っている。ペースについては、後述のように開始時期を多少前倒しして、その分ゆっくりと行う(1年半ほどかけるイメージ)ことを明確にする可能性がある。

・ ジャクソンホールでの意向表明後、9月FOMCで実施を決定するとみられる(実際に始めるwell in advanceにアナウンスすると約束している)。その場合、MBSについては10月から削減が開始される可能性がある。米国債の削減開始は12月以降だろう。

・ なお、ここ数回のFOMCで議論されている資金供給のための常設のレポファシリティ(Standing Repo Facility)が7月会合で決定される可能性がある。6月会合では対象をプライマリー・ディーラーに限るのか、彼らに加え銀行の利用も認めるのかについて、(おそらくNY連銀<プライマリー・ディーラーの市場需給調整機能を重視>とその他の地区連銀<プライマリー・ディーラーと関係が薄く、銀行が使えないと意味がない>との間で)議論が分かれたようだが、いずれにせよ、今回決定するのではないか。実際にテーパリングを始めた場合、市場の資金需給の悪化や短期金利の上昇圧力に対してSRFはバックストップになるため、「テーパリングの前提条件」としての役割を担っているためである。

既に十分長くなっているので、補足説明は箇条書きにとどめたい。
・ 長期金利の低下の背景には、上記のHFのスティープニングを予想したポジションの巻き戻しのほかに、米国債の名目金利の相対的な高さに着目したリアルマネーの買い需要、FRBの「物価上昇は一時的」という説明を信じた(信じたいと考えている)市場のストーリー、雇用特別給付の打ち切りによる景気のピークアウトなどの説明がある。このうち、市場がFRBの「一時的」説明を信じたがっている点については、徐々に修正が進むと考えている。実際、6月のSEPによれば、今年のインフレ率(PCE inflation)予測の中央値は今年3.4%、来年2.1%、2023年2.2%で2%を上回り続けている。穿った見方をすれば、形式基準だけでいえば、利上げの条件すらすでに満たしているとさえいえる(勿論、現実にはforward lookingではなくoutcome-basedの判断を行うので、利上げには引続き慎重姿勢を維持するのは間違いない)。当方はFRBは「物価上昇は一時的」との判断は変えないものの、バイデン政権のインフレ警戒(嫌悪)の姿勢を受け、そうならないリスクにも目配りする姿勢にシフトしていくため、市場もこれまでの「一時的」シナリオに対する確信度を徐々に修正していくことになるだろう。

・ 労働市場は労働者の選択的求職活動(出勤とリモートのハイブリッドを可能とする職場を好む)が目立ち、出勤が必須のサービス業などは人手不足が深刻なようだ。そうした職場からの離職も増えている。7月の雇用統計での失業率の上昇はこうした「よりよい職場を求めての離職」が無視できない規模で起こっていることの表れともいえそうだ。雇用情勢はサービス業を中心にタイトであり、賃金の上昇圧力は続くだろう。

・ 長期的なインフレ期待がじりじりと上昇する中で、名目金利は低下したため、実質金利は史上最低水準にまで低下し、消費ブームの中、金融緩和は強化されている。株価や住宅価格の高騰はそれを物語っている。市場の一部には、この実質金利の低下について「コロナ禍で潜在成長率が下がり、その結果、自然利子率も低下しているので、それを反映しているだけ」との解釈がある。ただ、デジタル化の進展で生産性は上がっているとの評価も可能であり、好調な企業決算はそうした見方を裏付けている。こうした市場の我田引水的な解釈も早晩修正を余儀なくされるであろう。

・ 6月のこの展望で、O/Nリバースレポによる資金吸収が増えていることを指摘したが、引続き残高は増えている。FRBはこの増加を決して愉快には思っていないとみられる。このリバースレポ残高の増加継続もテーパリングの開始を早める要因になり得る。テーパリングを早めることで、リバースレポ残高の増加を抑えることができるためである。

以上です。お疲れさまでした。

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