五十六話「南瓜に乗って」
Nさんが小さかった頃の話。
その年のお盆。彼女はどうしてもナスとキュウリの精霊牛、精霊馬に『かぼちゃの馬車』を牽引させたくなったそうだ。
これは、皆様もご存じの世界的に有名なおとぎ話の影響である。
「思えば、西洋のおとぎ話のものを、無理やり仏教の習慣に落とし込むなんて無茶苦茶ですね」
昔の自分の可愛げな発想に、話しているNさんも思わず笑みがこぼれていた。
しかし、そのときの彼女は不機嫌だったそうだ。
というのも、たまたま売っていたカボチャが小さくて半分に切られたものしかなかった。
なので、どう頑張っても絵本やアニメのような馬車にはなり得ないのであった。
両親はそんなNさんをなだめつつ、なんとか中身をくりぬいて小船・・・というか、一寸法師に出てくるお椀のようなものを作って娘の機嫌をとろうとした。
なんやかんやあって日がくれてナスとキュウリと、“ お椀 ”で先祖をお迎えして、乗り物ごと御仏壇にあげた。
そしてなにもかも無事に済んだと思われた夜のこと。
Nさんは夢をみた。
夢のなかで、Nさんは自宅のまえ、家を背にして立っていた。
朝なのか夜なのか分からない。あたりは薄暗い。
そこで夕刻のときにつけた、足元の迎え火をぽけーっと眺めていた。
気づけば迎え火の隣には、あの不細工なカボチャの乗り物があった。
カボチャの断面が天を向いているわけだが、その一面をなにか無数の白いもの這いずりうねっている。
その反動からか、カボチャ自体が微かにカタカタと揺れていたそうだ。
(汚らわしい・・・)
そう思ったNさんはその小さくて白いなにかどもを、カボチャごと何度も何度も何度も何度も踏み潰して目が覚めた。
朝起きると、家のまえが騒がしかった。
両親が何事かと駆けつけたところ、カラスの群れがなにかを啄み取り合っていた。
それは、昨日ご先祖さまと一緒に仏壇にあげたはずのカボチャだった。
地面に叩きつけられ、熱帯夜でぐちゅぐちゅに腐り果てており、昨日の面影はどこにもなかった。
カラスを追い払ったあと
「こういうこともあるんだねえ・・・」
「ごめんねえ、きっとご先祖様が気に入らなかったのかもねえ・・・」
などと両親がNさんをなだめるなか、彼女はそんな光景をみて、何故だかとてもすっきりしたそうだ。
それからのお盆時は、Nさんの家にカボチャが並ぶことはなくなった。
ただ
Nさんが夢のなかで何度もカボチャを、そこにまとわりつく白いなにかごと踏み潰していたとき。
踏み潰しているのは自分一人ではなかった。
両親や祖父母でもない。知らない人たち。
彼・彼女らと一心不乱で踏み潰し続けていた。
「あのときの私、誰となにを潰してたんでしょうね?」
Nさんはいまでも、あれらを踏み潰していた足の感覚を、昨日のことのように覚えているという。