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ユダヤ世界支配の幻想

世の中は複雑極まりないので、一寸先は常に不安に覆われている。その際に情弱を釣るために陰謀論やスピが存在するのである。

そして最も顕著なのは「ユダヤの世界支配陰謀説」という滑稽な論理である。

(1)ユダヤ=フリーメーソン陰謀説は大間違い

この陰謀論を垂れ流したのはフランス革命の時代であった。イエズス会の神父オーギュスタン・バリュエルが1820年に説いたものだ。

しかしこの当時のフランスのフリーメーソンのほとんどはカトリック王党派であり反ユダヤ主義であった。またフリーメーソンが革命を推進した明白な根拠はない。ゆえにこの説は大嘘であり、こんなものは都市伝説好きの情弱を釣る道具でしかない。

(2)シオン賢者の議定書という陰謀論

この『議定書』は典型的なユダヤ陰謀論であった。1905年にロシアでセルゲイ・ニルスによって出版され、1920年代から30年代にかけて猛烈な勢いで世界を席巻した。

この『議定書』はユダヤ秘密政府の一員が世界支配のための方法を会議で報告した際の講演記録という体裁となっている。

ユダヤ人がありとあらゆる策謀策略を弄して、他民族や国家を腐敗、堕落、転覆させ、最終的に世界を支配し、永遠のユダヤ王国を樹立し、全世界をユダヤ教で覆いつくすという荒唐無稽な内容である。

そこにいたるまでの手法として、自由主義、社会主義、共産主義などを鼓舞し、フリーメーソンなどの秘密結社を世界各国に設置して傀儡として使い、国家間、政党間、国民と政治指導者、国民同士の対立を誘導し戦争と革命を扇動する。

その一方でマスコミなどを利用して暗愚な民衆支配を行い、ユダヤの最高中枢部を探ろうとする者や非ユダヤ社会の敵対勢力は、さまざまな方法で粛清処理することなども記されている。

『議定書』はロシアでの出版後、各国語に翻訳され、ユダヤ人が異議を申し立てたが、焼け石に水の状態であった。この議定書はアメリカの自動車王ヘンリー・フォードやナチスのプロパガンダに利用されることとなった。

しかし1921年に『議定書』が偽書であるという動かぬ証拠が明らかになる。これは、新聞記者フィリップ・グレーブスがイギリスの有力紙『タイムズ』に発表した。

『議定書』の大部分はフランス人のモーリス・ジョリが1864年にブリュッセルで発行した『マキャヴェリとモンテスキューの地獄の対話』の焼き直しであることを暴露したのだ。

同書は、ナポレオン3世の独裁政治や世界征服への野心をあてこすった政治批判パンフレットで内容的に反ユダヤ文献とはまったく関係ない代物であった。

また別な調査において『議定書』のユダヤの秘密会議という着想がドイツの作家ヘルマン・ゲーヂェが1868年に著した『ビアリッツ』の1章「プラハのユダヤ人共同墓地および12支族の代表者会議」から得たものであることも判明した。

上記の2者を下敷きにして、ロシア帝国の秘密警察が『議定書』を偽造し、それをもとにセルゲイ・ニルスが『議定書』として刊行したものだった。

すなわちナポレオン3世の独裁政治への批判をユダヤ陰謀論に置き換えたインチキ『議定書』なのである。

ユダヤ=フリーメーソン陰謀説は根幹からすべて間違っており、『議定書』に基づくユダヤ世界支配陰謀論は100年前にインチキ本である事が明白になっている。

ユダヤ教徒にはローマ迫害によるディアスポラ(BC70年)以後大きくイベリア半島にいたスファラディ系と西欧にいたアシュケナジ系、オリエントに在住したユダヤ教徒が存在する。

ドグマとしてのユダヤ思想は継承されてはいても、育った文化圏が同じとは言えないのだ。ゆえにユダヤ教徒を一枚岩で捉えるのは辞めた方がいい。

宗教右翼のナトレイ・カルタと政治右翼のシオニズムが融和する事もありえない。ナトレイ・カルタはイスラエル樹立そのものをユダヤ教の本義に外れているとし全否定しているからだ。

あくまでも彼らは聖地に住んでいるのであって世俗国家に住んでいる意識はないのである。

■参考文献 『ユダヤ教の本 旧約聖書が告げるメシア登場の日』 学習研究所

学習教材(数百円)に使います。