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【映画感想】マルケータ・ラザローヴァー

チェコ映画史上最大の製作費、10年かかって完成した大作。モノクロ。

13世紀のボヘミアを舞台にしたものだけれど、全て架空の物語。
時代の変わり目の中、古い時代と新しい時代の移り変わりの中で、急成するキリスト教、しかし地方の豪族達はキリスト教より異教に属している者たちが多かった。
その狭間で翻弄されたマルケータの物語。

領主ラザルの娘・マルケータは修道女になることが決まっていたが、ラザルと隣人の領主コズリークとの確執に巻き込まれ、息子ミコラーシュに拉致され陵辱される。
しかし次第にミコラーシュを愛し始めたマルケータだったが、キリスト教においてはそれは堕落したことと同じであり、騒乱の中、ひとり実家へ戻った彼女に父親は冷たく突き放す。

壮大な叙情詩。
対立項が明確になっているので、そこが分かれば物語は追いやすい……ものの最初は戸惑った。
貴族と野蛮な領主。
キリスト教と異教。
ラザル(王側≒キリスト教)対コズリーク(異教徒)
父親(コズリーク+アダム)と息子(ミコラーシュ)
兄(ミコラーシュ)と弟(アダム)
捕虜になった司教(クリスティアン)とアレクサンドラ(異教徒、コズリークの娘)
信仰と愛。


モノクロの映像が非常に美しく、どのショットも絵になる。
修道院と修道女達の場面は静謐ながら無機質な冷たさが漂う。
マルケータ(修道女予定)やクリスティアン(司祭)は清らかで美しく、コズリークを始めとした領主は野蛮に描かれ、それはミコラーシュやアレクサンドラ、アダムといった若者達も野性味あふれる姿で描かれる。
キリスト教(聖なる神)と異教徒(野蛮な神)との対比もあるのかと思う。



父親は助けてくれずミコラーシュに拉致られるままになったマルケータ。
彼女の心情は台詞で語られることはほぼ無いが、流されるままのようでいてそうではない芯の強さを最後に映し出す、自立した女性として。

一方のクリスティアンは司祭ながらアレクサンドラと情を交わし(童貞でなくてはいけなかった筈)愛し合い子供を得るが、騒乱の中、父親と再開したことで信仰と父親の教えとアレクサンドラへの愛の間で心が揺れ動き最後は発狂してしまう。

狂気じみてんなーと思うのは、撮影もそうで548日間のロケーション撮影、しかも極寒の山奥……この時点で監督の"その時代をそのまま再現したい"という欲求が半端ではない。

神はいない、のか、人は信じる神を都合良く作り出すのか、根底にはキリスト教と異教徒との対立があるのだけれど、それと同時に女性の靭やかさや生きる強さを観た映画でもありました。

おしまい。

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