#019.呼吸2(吸気実践編)
前回は吸気(空気が体内に入ること)がなぜ起きるのかを説明しました。
今回は実際に演奏する際の吸気について考えてみましょう。
呼吸に関する間違った解釈
吹奏楽や管楽器界隈は呼吸に関して勘違いや間違った解釈がとても多い印象があります。それが部活ごと地域ごとに都市伝説化して意味不明な呼吸練習に繋がっているように思いますので、今回は、よく耳に入ってくる呼吸に関する間違った情報を訂正していきます。
お腹に空気は入りません
前回の記事でも触れましたが、吸気時は横隔膜がはたらくこと(収縮)でその下にある腸などを収めているビーチボールのような腹腔が上から押される形となり、圧迫され、お腹が膨らんだように見えます(もしくはそのような実感を覚えます)。ですから、「お腹に空気入れて!(お腹を膨らませて!)」という言葉は非常に雑な比喩であり、当然ながらお腹のほうに空気が流れ込むことはありません。また、その腹腔によるの膨らみも着ている服や吸気量、体格差によって変化する大きさはまちまちですから客観的な見た目に変化が感じれらないからと言って、それが良くない呼吸の仕方であることと直結しません。
吸気時にお腹がへこむ(すすり)
上の解説を読んで「あれ?息を吸う時お腹がへこむんだけど?」と思われた方が一定数いるはずです。お腹がへこむ理由は、吸気時に腹筋を使って(収縮して)掃除機のように「吸引」しているからです。吸引は食事で言うところの「すすり」であり、飲み物をストローで吸い上げたり、ラーメンを口の中へ吸い上げる時の体の使い方と同じです。
これをしてしまうと、肺まで到達しにくくなります。食事(嚥下=口の中にある食物を飲み込む行為)に用いられる運動ですから、舌全体が上顎に接近したり、その影響で顎も噛む運動が起こりやすく、結果的に演奏に不利な条件が発生しやすくなります。
「すすり」になっていないか確認するためには吸気時にお腹がへこむ以外に「スーーーーーーー」と吸気に長い時間を要している場合もそれにあたります。
腹式呼吸/胸式呼吸
吹奏楽や管楽器で呼吸の話題になると必ず耳にするこれらの言葉。多分、腹式呼吸はお腹が動いている自覚や見た目を指す言葉で、胸式も同じく胸(胸郭)が自覚や何らかの動きを持った際に使われていると思うのですが、今一度確認しましょう。
吸気は肋間筋と横隔膜が収縮することで胸膜を引っ張り胸膜腔を広げて陰圧にすることで起きます。生きるために安定した呼吸をするならば、それらに関連する体の働きは全て十分に使える状態であるべきだし、そもそも両方いつも働いています。
したがって、腹式、胸式などを管楽器の演奏に用いること自体必要のないことなのです。
管楽器を演奏するための特別な吸気など存在しないのだ、と理解していればこんな余計なことを考える必要もなくなります。
息を全部出す
呼吸を正しく理解できていない指導者はたびたび吸気前に「全部吐いて〜」と言います。この発想、多分ですが肺の中に空気がなくなれば(苦しさを感じられれば)、体内に自然に空気が入ってくるから(入れたくなるから)だと思うのですが、冷静に考えてみてください。肺の中が真空に(近く)なることなどありません。特殊な環境を除き、地球上にいる限り空気というものはどこにでも存在しています。鼻や口が外気と繋がっている以上、肺までの空間には常に空気が存在しています。
持論ですが、子供たちにもわかりやすく管楽器を演奏させるための比喩表現を多用することは悪くないと思うのですが、呼吸に関しては特に慎重になるべきです。比喩だか事実だかわからずに呼吸に対する間違った理解や不可思議な都市伝説が蔓延している現状は、やはり指導者側に問題があります。
確認しましょう。呼吸は酸素を取り入れ二酸化炭素を排出するガス交換で、生命維持行為です。一方、管楽器を演奏するために必要なのは体内(肺から口の中まで)にある空気の圧力を高める行為です。その際、体内にある空気の成分は関係ありません。
したがって、演奏中は吸気ができない状態であり、そのまま演奏し続けると死んでしまうので、一旦演奏を瞬間的に中止してでもブレスを行わなければならないのだ、と考えてください(もちろん音を発生し続けるための空気を確保することも目的のひとつではあります)。
呼吸を止めて吸気のタイミングを図る
間接的に聞いた話ですが、吸気前に一旦呼吸を停止させている指導者がいるらしいですが、理由がわかりません。
呼吸は無意識で行っている不随意によるもの(寝ていても呼吸が止まらないのはこれ)と、随意によるもの(深呼吸のように意図的に吸気を起こす)の両方ができます。トランペットは随意運動による吸気を用いることが基本ですが、だからと言って生命維持のために行っている不随意の呼吸を意図的に止める必要はありません。
不随意による呼吸はいつでもできるようにしていても、演奏を始めたいときに随意で吸気を始めることはいくらでもできます。タイミングを図らないと呼吸ができない、と言う考えは間違いです。
きっと僕が知らないだけで他にも呼吸に関する不思議な発言、指導、行為は相当あると思います。生まれたときから無意識に続けている呼吸だからこそ、敢えてそれを説明しようとすると意外と知らないことだらけで、知識が欠けているところを適当に穴埋めすることで都市伝説化が起こり、ありもしない情報が蔓延するのだと考えます。
吸気の実践
では正しくはどうすれば良いか。簡単です。
からだの不要な力を抜き、「空気を入れよう」と思うだけです。
「なんと感覚的!」と思うかもしれませんが、横隔膜や肋間筋が十分に働けるようにしておけばよく、これ以上特にすることはありません。
しかし、これではさすがにわかりにくいので、誰もがしている具体的な例を挙げるならそれは、
「あくび」
です。あくびのうごきはトランペットを演奏する際に有効なうごきがたくさん含まれています。今実際にあくびをして、からだにどのような変化があるか観察してみましょう。
おおまかにこのようなことが起きますね。
あくびがたくさんの空気を体内に入れる最も自然な動きなので、トランペットを演奏する際の吸気も「あくび」の動作を参考にしてみましょう。
マウスピースが唇に触れ、セッティング準備ができたら、あくびのような動作で吸気を行います。
空気が入った後、出てくるまでにしばらく時間がかかりますがそれはガス交換をしている時間ですから尊重してください。僕はその時間を「呼吸の間」と呼んでいます。
吸気量は調節するもの
これも吹奏楽指導者の呼吸に関する問題点ですが、短い音1つ出すだけでも呪文のように「沢山吸って〜」はいかがなものでしょうか。そんな言葉を連発するから常に大量に息を吸わなけれなならないと思い込んでしまい、演奏が不安定になったり、演奏中のブレスに問題が生じる原因となるのです。
体内には常に空気は存在していて、管楽器はその空気の圧力を高めることで音を出すことができるので、音を1つ出す程度であればブレスをしなくても出せます(しなくて良いとは言っていない)。
ということで今回は吸気についての具体的なお話でした。
とにかく呼吸は自然であること。トランペット専用の吸気など存在しない、と理解してください。
荻原明(おぎわらあきら)
荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。