ひとり出版社をつくる⑳「お金の話」
ひとり出版社をつくるシリーズ、またまた更新が滞ってしまいました。前回アップが11月20日なのでおよそ3か月……。ひとりで本づくりのぜんぶの工程を管理する大変さを味わいながらも、全責任が自分にある状態がなんとも心地よい、そんな慌ただしくも充実した日々です。
さて。
ひとり出版社をつくるシリーズ、当面はお金の話。
というのも、たまにお問い合わせをいただくのです。出版関係の方々から。とくに、ひとり出版社を立ちあげたいという方や、すでに設立の準備をしている方から。
やはりまず気になるのはお金ですよね。ということで、当面お金でいきます。
ひとり出版社の立ち上げで必要な資金はいくら?
まずは、お金の中でも、「設立資金」について。(※以降は、いわゆる独立開業時の「初期投資(設備投資)」の話ではありません。初期投資については、別に大切な話があるので別途、項目を立ててnoteします)
先に結論を書きます。スタブロブックス株式会社を立ち上げた際、用立てた資金は「約1000万円」です。
1000万円と聞いてどう感じますか?
多いか少ないかは人によって、あるいは起業を考えている人は業種業態によって異なるでしょう。ひとり出版社をつくった本人の私としては、本気で出版社をやるならこれがギリギリという感じです。
本気?
本気ってなに?笑
ここでいう本気とは、「ISBNコード」にあらわれています。
よけいに意味が分かりませんね(笑)。
ISBNコード(ISBN978-4……と裏表紙に記載されている13桁の数字)とは、出版物を国際的に管理するための世界共通の番号です。正式には「国際標準図書番号」とよび、日本の出版界では40年ほど前に採用されました(ISBNの歴史は意外と浅いのですね)。
ちなみに日本で出版物を流通させるためにはISBNコードの表記だけではダメで、「(ISBNコードを含む)日本図書コード」と「書籍JANコード」をあわせて表記するのが一般的です。
日本図書コードとは、ISBNコードに分類コード(C●●●●)と価格コード(¥●●●●E)を付け加えた3点セットのこと。名前のとおり日本独自の表記ルールですね。
書籍JANコードとは、日本図書コードの文字情報を2段のバーコードで表現したものです。
以上のコード類(ISBNコードを含む日本図書コードと書籍JANコード)を本の裏表紙とかにまとめて表記することで、日本で出版物を流通させられるようになります。
ちょっと説明が長くなりましが、上記のコード類のうち、ベースになるのはISBNコードです。
このISBNコードの取り方には3つのパターンがあります。
パターン1:ISBN1個取得 料金8,000 円+税
パターン2:ISBN10個取得 料金 20,000 円+税
パターン3:ISBN100個取得 料金 37,000 円+税
(参考サイト:出版に必要なISBNコードを個人が取得する方法とその費用を解説)
そう、1個だけなら8000円で済みます。しかも個人でも取得できるので、どうしてもこの内容を本にしたい! という人がISBNを1個取り、〝出版者〟として本を市場に流通(出版)させることは可能なんです。(出版者としているのがミソで、法人でない個人でも出版者にはなれます)
こうしてISBNを1個だけ購入して本を出しても立派な出版活動ですが、前述の本気の真意は〝継続性〟です。つまりISBN1個ではなく、10個でもなく、100個取得し、継続的に本を出そうという心意気です。
もう一歩踏み込んでいうと、出版業で稼いで生きていこうとする覚悟です。
この継続的に本を出そうという尊い心意気、出版業を生業にしようとする覚悟をもってひとり出版社を設立する場合、(発行スケジュールにもよりますが)1000万円の設立資金ではギリギリというのが私の実感です。
もちろん、スタブロブックスでは、こぶしを回しながらISBN100個取得しました。
本1冊をつくるのにどれくらいの費用が必要?
話を2つに分けて説明していきましょう。
1つは「本1冊をつくるために必要となる費用」、そしてもう1つは「本の売り上げを回収するサイト」です。
まず1つ目から。
先に結論を言うと、本を1冊つくるために必要となる費用は150万円から200万円です。
非常にざっくりとした、一般的な費用を列挙してみます。ひとり出版社になじみやすい2000部程度での計算です。
(変動費)
・印刷・用紙代 60万円
・本文デザイン・DTP費 30万円
・装丁まわりデザイン費 20万円
・校正校閲費 10万円
・編集費 30~50万円
・合計 150万円~170万円
※これに、部数に応じて著者印税を支払います。
※加えて、イラストを起用する場合はイラスト代、営業活動や販促・広告のための販売促進費、運送料などもかかります。
(固定費)
・倉庫代
・事務所を借りるなら初期費用+月々の家賃
・ネット回線
・電話代
・水道光熱費
などが変動費にプラスしてかかります。
ひとり出版社を立ちあげる際にいきなり事務所を構えるケースはすくないと思いますが、いずれにせよ、本をつくってもつくらなくても必要となる固定費も念頭におかなければなりません。物件を借りる場合は1000万円では心もとないと思います。ちなみにスタブロブックスの拠点は、代表の私の自宅です。倉庫は2021年3月現在でまだ借りていません。
当社の場合、2020年4月21日の設立時点で4冊の出版を決めていました。
すると、1冊150万円と考えても、×4で600万円。
まだ400万円残るやん、と思われるかもしれませんが、ここで売り上げの回収サイトの問題が立ちはだかります。
本の売り上げをいつ回収できるの?
そこで、2つ目の「本の売り上げを回収するサイト」を説明しましょう。
いわゆる取次ルート(出版業界における卸会社を意味する取次会社を介した商売)で本を流通すると、当社のような新参出版社の場合、売り上げを回収できるのはだいたい8か月先です。
当社の1冊目の発刊は2020年11月。つまり売り上げを回収できるのは2021年7月です。
ということは、150万円かけて本をつくり、発売を開始した2020年11月から2021年7月までの8か月間、どうやってしのぐのか、という問題にぶちあたるわけです(出版社を設立した2020年4月21日の時点でフリーランス時代のライターの仕事をほぼゼロにしていたのでそれ以降、その意味でも無収入)。
しかも2冊目の発刊は2021年3月、3冊目は2021年5月、4冊目は2021年7月(現実の動きとはちょっと違うのですが結果としてはこう)、と発刊スケジュールを組んだため、1冊目の売り上げを回収する2021年7月までに合計4冊分の600万円が先に出ていく計算です。
加えて。
設立資金1000万円というのは……じつは偽りで、これは生活資金も含む額なのです。カッコつけて、いっせんまんえん、と書きたかったのです。
所有と経営の分離が前提の株式会社で出版社を経営しているんだから、会社のお金と個人のお金は切り分けて考えるのが大前提、というのは分かっていますが、まあ、最初はそんなもんじゃないでしょうか。だって株主兼経営者の〝たったひとりの出版社〟やし。
ちなみに株式会社設立時の資本金は100万円です。
仮に会社のお金と個人のお金を分けるならば、出版社経営にあてられる資金は600万円、残りの400万円が生活資金という感じになります。
2021年7月、早くもキャッシュ不足??
ということは。
1冊目の売り上げを回収する2021年7月時点で、出版社経営にあてられる600万円のぜんぶを使い果たす計算になります。
他方、出版社を設立した2020年4月から2021年7月までですでに1年3か月経つことになるわけで、生活費はいくら切りつめても400万円はかかります……というか足りないんじゃないでしょうか。
つまり、当社の出版スケジュールでいくと、2021年7月ごろ、資金が尽きると思われます。
これが現実です。
そして、考えるだけもおそろしい事態もあります。
それは、本が売れなかったときです。
2021年7月の時点で合計600万円を投じて4冊の本を制作・発売し、同じく2021年7月に1冊目の本の売り上げを回収できるわけですが……思うように売れなかった場合どうなるか?
どうなるか? と誰に聞いているんでしょうか(笑)。誰に聞くまでもなく、誰に答えてほしいわけでもなく、明確ですね。
さらに、2冊目の売り上げを回収できるのは2021年11月、3冊目の回収は2022年1月、4冊目の回収は2022年3月、と続いていきますが、これも売れなかったら………。
当たり前ですが600万円のぜんぶを回収できずに赤字に陥り、生活資金も枯渇し、困窮することになります。
本気で、つまり年数冊の本を安定して出して、さらに出版業で生きていこうとする場合、用立てた1000万円はギリギリ、というか、もはや投資というより投機、もっと直截的にいうと賭けじゃないかというのが実態です。
では、そのギリギリすぎる1000万円で、どうやって経営を回していこうとしているのか。次回は、そのあたりに迫ろうと思います。
つづく。
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