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[気づきの日記帳06]クリエイターのメディア視点

[2000年代の気づき]

マス広告全盛の時代。すべての仕事は、主要なマスメディアメニューにのっとって組み立てられていました。それがどんな業種のどんな商品やサービスであっても。TVCM、RCM、新聞広告、雑誌広告、ポスター(駅ばり、中吊り、ビルボード)。プレゼンを設計するクリエイティブ・ディレクターは、営業からの指示のもと、主要メディアメニューを全網羅したキャンペーン案でプレゼンする。それが日常でした。どんなメディアを戦略的に使うのか、とか。特定メディアと特化・連携した企画を立てる、とか。クリエイティブ側にそうした戦略をすることが難しい時代でした。

また、CM担当だった自分には、CMをいつどこでどう流すかを考える権限も与えられていませんでした。クライアントの課題に応えるCMを作ってくれれば、あとはうまくやっとくから。そんな感じ。大量生産大量販売の時代、スポット枠は完売状態が続いていた時代でもあり、いつどこに流すのかを戦略的に考える枠取りが難しい、という事情もあったと思います。ただそれ以前に、いいCMを作るのがお前の仕事でメディアをどうするかはお前の仕事じゃない、そうシャッターを閉められている感じがあったことも確かです。メディア視点のクリエイティブは、したくともできにくい時代でした。

1999年。もっとも権威ある国際クリエイティブアワード、カンヌフェスティバルに「メディア」部門が新設されます。CMとか屋外広告とかプロモーションといった部門と並んで「メディア」という部門の新設。どんなクリエイティブを審査するのかと話題になりました。「メディア活用視点でユニークなクリエイティブを実践する仕事を評価する」。なるほどと思いました。その時代、メディアの多様化が進行する中で、生活者との接点を「コンタクトポイント」あるいは「タッチポイント」と呼び、それぞれの接点特性を考えたクリエイティブのあり方を考える流れが大きくなっていたのです。

200年代初頭、カンヌのメディア部門で受賞した事例をいくつかピックアップしてみました。

The Speed of Fire / New Zealand消防局の事例
火事が発生してからたった3分で家は焼け落ちてしまうという事実を生活者に印象づけるため、特殊なTVCMの出稿プランを考案します。一般的な番組CMチャンスが3分であることに目をつけて、火がつく瞬間の30秒(CM1)→他社CM30秒が入る→火が一気に強まった瞬間の30秒(CM2)→他社CM30秒が入る→家が焼け落ちる瞬間の30秒(CM3)という流し方で放送する。あえて間に他社CMが入る構成が、火の回りの速さ、火事の恐ろしさを伝えることになる。CM放送枠の使い方にも、クリエイティブアイデアの生きる場があることを印象づけた。

SportSmart Injury Break / Accident Compensation Corporationの事例
ニュージーランドで実施されたスポーツ中継内広告企画。
ラグビー中継にはインジャリータイムがつきものです。ゲーム中に怪我する人が出るとゲームは止まり、一定時間、中継も中断されることがよく起こってきました。そこでニュージーランドのエージェンシーは考えました。ゲーム内に必ず数回、中継が中断する時間が一定の長さで発生するなら、ただ怪我の治療を映すのではなく、その時間をインジャリータイムならではの広告枠にすればいいのでは、と。そうして作られたスペシャル枠で、予期せぬ事故に備える損害保険のCMが流されました。

Painting Kit / Alaska Airlinesの事例
アラスカ航空が、広告スポンサーとなってきたシアトル シーホークスのスーパーボール出場を記念して実施した新聞広告企画。見開き30段のスペースにデザインされていたのは、シーホークスのブランドカラーであるグリーンとネイビーの2色ベタ。

出稿された新聞広告
この新聞広告の使い方

「Show Your Seahawks Pride」。新聞紙面の下部には「ちょっと体を濡らしてこのインク面を体にこすりつけ、シーホークスカラーに体が染まったら、その写真をサイトに送ってシーホークス魂を見せつけよ!」と書いてある。当日のスタジアムには当然、体をシーホークスカラーに染めたファンが大集結したわけですね。社会の今を知るための新聞は、時に、大好きなチームを応援するためのツールにもなる。高価な新聞広告をそんな使い方をしてもったいない、という人が居そうですが、よく考えてみてほしい。「アラスカ航空はシーホークスを応援しています」なんて新聞広告は出稿されても誰も記憶することはないが、チームカラーにペイントできる新聞広告を体に擦り付けてスーパーボールに応援に行ったことは一生忘れない思い出になる。

メディアにはそれぞれ個性・特性があり、そしてまたメディア上で展開されるコンテンツにも個性・特性があり、それに根ざしたクリエイティブを考えれば、まだまだ新しい表現チャレンジのチャンスがある。カンヌという世界的クリエイティブ目利きがメディアに注目する流れを作ったこと。そしてその流れでメディアクリエイティブの面白さに世界中のクリエイターが気づいたことは、その後の流れに大きな変化をもたらしました。もちろん、福田にとってもそのインパクトは半端なく、その後の自身のクリエイティブに大きな幅をもたらすものとなったことは間違いありません。

メディアクリエイティブにはもう1つ、興味深い島がありました。「メディアでないものをメディアにする」という領域。マス全盛の時代には、マスメディアとして機能しているものだけがメディアだと思っていた。ですが、世の中には日常的に多数の目に触れているモノやコトがあり、それらをメディアという視点で見直してみると、そこに面白いクリエイティブ可能性がある。次のブロックでは、その領域の面白さをご紹介していきます。

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