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バスケで飯テロ

私の好きなバスケットボールチームの「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」に、元日本代表の張本天傑(はりもと てんけつ)選手がいる。
出征は中国で、日本に移住。実家が中華料理屋(今は閉店されてます)
中華料理が得意で、チームメイトを自宅に呼んで本格中華を振る舞ってくれるそうだ。

「天傑が作る餃子はむちゃくちゃ美味い」

チームメイト大絶賛のテンさんの餃子は、ついに公式YouTubeでレシピと共にアップされた。

普段はスイカくらい大きなバスケットボールを扱う大きな手で、チームメイトと3人並んでちまちまと餃子を包んでいるシーンが可愛い。
「大葉とエゴマがアクセント」
「えー!俺、エゴマも大葉も嫌いなんです」
一瞬不穏な空気が流れる。
だがいざ餃子が焼き上がると、大葉もエゴマもアウトを出した張本人の中東選手が「これならいける!」と笑いながら箸を伸ばす姿を見て、私も食べたくてしょうがなくなった。

小学生の頃から週刊少年ジャンプを毎週楽しみに読んでいた私は「スラムダンク」に憧れて中学進学と同時にバスケ部に入った。
バスケと言えば、ハードな運動量。
バレー部と一日交代で体育館を使っていたのだが、体育館が使えない日は、地獄の筋トレ日だった。
陸上部より走り込み、野球部より筋トレのハードワークに加えて、育ち盛りの中学生。食欲もかなり旺盛な時期だった。
夕方の練習の後に、学校の向かいの駄菓子屋で肉まんを買い食いし、帰宅後は父の帰りを待てずに食パンを1枚食べ、晩御飯は茶碗に3杯白米を食べていた。

それでも食べ足りないまま朝をむかえ、朝練に走っていく。

そんな私の楽しみは、月に何度か父が気まぐれに連れて行ってくれる個人経営の中華屋に行くことだった。
絶対に注文するのは「天津飯と餃子」他を食べた記憶がないくらい、そればかり注文していた。
ドラゴンボールのチャオズと天津飯が頭にあって注文していた可能性もある。


「はい、先に餃子ね!」

頭にタオルを巻いた店主が出してくれる餃子は、パリパリのハネで繋がってきっちりと5個並んでいた。
それが焼き魚用の細ながい皿にのって、油っぽくて黄色くなったテーブルにコンッと音を立てて置かれる。

私はテーブルの左隅に乱雑に置かれた調味料の一角から、頭に「ギョーザ」とカタカナで書かれたボトルを選ぶ。
中身は市販なのかオリジナルなのか不明。それを小皿に注ぎ、ラー油を3滴落とす。
割り箸を丁寧に割って、ここでやっと手を合わせて「いただきます!」と声を張り、餃子の上のパリパリに箸を差し込みザクザクと切り離す。
一つ剥がして転がすと、白くテカテカとした丸い餃子の腹から色の良いニラが透けて見えている。
慎重に箸で挟む。
うっかり箸を刺してしまおうものなら、溶け出した肉の油と混ざった野菜の出汁が皿に溢れてしまって勿体無い!
サッとタレにつけるとラー油とは質の違う脂の膜が広がって、それをのんびり見る暇なく一口に頬張る!
脂身の多い合挽肉とキャベツがぎゅうぎゅうに詰まった餃子が弾けて、ひき肉の油が一気に口の中に溢れる。タレの酸味とラー油の甘味、キャベツの甘味と歯触り。少し感じる苦味はハネの外側の焦げだろう。
いつまでも鼻に残るニラの匂いが中華!と最後まで太鼓判を押してくる。

「天津飯お待たせ!」

そうこうしていると、卵を2個使った卵焼きに、飴色の餡がかかったシンプルな天津飯が、真っ白な湯気に包まれながら登場。
私は箸を白い陶器のレンゲに持ち替える。
思い切りよく卵に突き立てると、どろりとした餡が流れ込む。ここの餡はアクセントにエビジャコが入っていた。
卵の下に潜んでいる白米を想像する。しっかりと米粒が詰まっているの手応えを感じながらレンゲでひとすくい持ち上げると、何度も何度も「ふう、ふう」と息を吹きかける。
まだ我慢、まだ我慢!もうもうと上がる湯気すら美味い。
それを鼻いっぱい吸い込んで、口いっぱいに流し込む。熱い、でも美味い!
隣で父が笑いながらグラスに水を注いでくれる「キリン」と書かれた白い傷だらけの小さいビールグラスだった気がする。
もぐもぐと噛み締めながら、箸に戻して餃子をもう一つ慎重に切り離しながら、もう一皿頼みたいな?と父に目配せするのだ。

店名すら覚えていないその中華屋は、いつの間にか無くなっていた。
自宅で餃子を食べることがあっても、やっぱりあの味が忘れられないし、ハードな練習に足を踏ん張った記憶をふっと思い返される。

大人になった今は、プロレス観戦の帰りに「王将」で試合の内容のくだを撒きながら餃子を食べる機会が増えた。

口ではプロレスの内容を話しながら、頭のどこかにやはりバスケの記憶が過っていく。


料理は食べる専門であまりしない私に、料理上手の姉が声をかけてくれた。
「今度テンさんの餃子一緒に作ろうか!」
「うん!」
隠し味はハチミツ、分量はテンさんの匙加減のレシピを姉の匙加減で作る。
そしてBリーグの底なし沼に首っ丈の私達は、きっとバスケを見ながら食べるのだろう。

鳥山明先生が亡くなり、ふっと書きたくなって書きました。
チャオズと天さんが好きですが、ナッパはも〜っと大好きです。

戦闘力ゴミ私の日常↓

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