本屋大賞2021受賞作「海をあげる」
11月10日、2021年度の本屋大賞が発表されましたね。
ノンフィクション本大賞を受賞したのは、上間陽子さん著「海をあげる」でした。
先日私が書いた「書くことで前に進む」記事内で紹介したイベントの案内人、川内有緒さんと川村庸子さんが好きな本としてこちらも挙げられていたので、実は数日前に読んでいました。(「秋の読書記録」には間に合いませんでしたが)
今回の本屋大賞受賞をうけ、きっとこの本に関する感想はたくさん掲載されるでしょう。私が書くまでもないと思ったのですが、「書くことで前に進む」でも宣言した通り、日々の想いを残していこうと決めたので、自分のためにこの書評をアップします。ただの自分語り&独り言なので、そういうタイプの文体が苦手な方は、ここでそっ閉じお願いいたします。
●弱いものにいくしわ寄せへの怒り
上間さんの文体は、とても柔らかい。本屋大賞の受賞スピーチでご本人の声や語りを聞いたけど、こちらも柔和なイメージで、とてもたおやか。
けれど、その文章や語る言葉には、つねに怒りが込められている。
国が、社会が弱いものに押し付けてきた理不尽さに。それが上間さんにとっては沖縄であり、不遇な環境を余儀なくされる10代の少女たちだった。
そして、自分たちが他人やよその土地に自分たちが背負いたくない不都合を押し付けて、他人事のように考えている人々に怒っている。
上間さんが「沖縄の抗議集会に行けば良かった。怒りのパワーを感じにその会場にいたかった」と話しかけてきた大学指導員に感じた怒りは、その象徴的なもの。沖縄の人々の怒り、抗議までただの体験として消費しようとしている。それに対しての(時を超えての)上間さんのアンサーは、
「ならば、あなたの暮らす東京で抗議集会をやれ」
「沖縄に基地を押し付けているのは誰なのか」
「三人の米兵に強姦された女の子に詫びなくてはならない加害者のひとりは誰なのか」
この怒りは、発言した指導教員のみならず、私も受け止めていかないといけないと考えている。沖縄のみならず、グロテスクな力の不均衡は世界中にある。自分も、利己的な楽しみにそれを消費していることはないかと。
●よきものを伝える
タイトルの「海をあげる」の意味は、最終章「海をあげる」と「あとがき」で分かる。
私も、自分の子供たち世代に、よきものを残していきたい。美しい世界を生きていってほしい。
この本では、折に触れて上間さんから娘「風花ちゃん」への呼びかけがある。
こういう想いや生き方のヒントも、子供に残せる「よきもの」なのだろう。私は、自分の子供に何を伝えたい?日々の子供との会話の中で、自分の人生で学んだ生き方のコツなどは小出しに伝えてはきている。でも改めて、子供に知ってほしいことを考えなおそうと思う。
●耳を傾けるから、ことがば紡がれる
この本の中で、上間さんは多くの人々の声に耳を傾けている。それでも、彼女自身は「かつては聞き逃していた声がたくさんあるはず」と述べている。
「聞く耳を持つものの前でしか言葉は紡がれない」
これは個人的に、身につまされた言葉。私は多分、傾聴が苦手なのだという自覚がある。聞けないから自分に相手の言葉が沁みこまない。
聞く耳を持つために、前段として目を開き、感受性を常にオープンにしていたいと思う。
●上間さんの受賞スピーチ
そしてぜひ、上間さんの受賞スピーチにも耳を傾けてほしい。
(スピーチは、動画の11分頃からスタート。)
上記の記事には書き起こされていないが、上間さんは昨今のヘイトに満ちた風潮にも触れている。
この賞が今日発表されて、明日からYahooのコメント欄は荒れるでしょう。どうか、そこにある言葉が、そういう自分の持ち場で動かれた方々を傷つけることがないようにと願います。そしてできることなら、日本中を覆う、そういった匿名性を担保にした悪意の言葉が、どれだけ人を削り、奈落の底に突き落とすのか、ここにいるYahoo!の関係者、恐らく私がこれまで会うこともなかった偉い方々に考えていただけたらと思います。私たちが見たかったのは、本当にこういう社会なのでしょうか。
(このくだりは、動画の23分30秒頃から)
※「本屋大賞」はYahoo!主催
※Yahoo!のコメント欄は「荒れた」状態が放置されがちで、匿名の悪意コメントであふれている
そう、この社会は本当に私たちが望んだものなのか?
子供たちに残していきたい世界なのか?
どうやったら良き世界を残していかれるのか、成人している我々は、自分事として取り組む必要があるはずだ。正義や公平、子どもたちに託したい未来というものを手放さないために、折に触れてこの「海をあげる」を読み返していきたいと思う。
※11月17日追記
上間さんのスピーチの書き起こしがありました。文字情報を好む方は、こちらをぜひ読んでください。
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(紙版)「日本人家族が体験した、オランダの小学校での2年間」
レギュラーで書いている主な執筆媒体のご紹介です。
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