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「ジョブ・ローテーションにより人は育つ」への疑問

”実務協業型”人事制度構築・導入支援を行うTrigger 代表の安松です。

組織における人材育成の最も重要な手段の1つとして位置づけられているのが「ジョブローテーション」です。異動により部署・ポジション・仕事を変え、それまでとは異質な経験をすることにより、できること(スキル)と見えるもの(視野)を広げることが目的です。
そしてこのコンセプトを仕組化するため、例えば「10年間で3職場を経験する」といった異動ルールを敷いている会社もあります。

しかし、私はこの「ジョブ・ローテーションにより人は育つ」に対して、どうにも疑問がぬぐえません。疑問というか、この議論を聞くたびにいつも、「大事なことが見落とされているのではないか?」と心の中で反論してしまいます。その理由を、自分なりに整理してみました。

「ジョブ・ローテーションにより人は育つ」の理論的根拠となっているのは『ロミンガーの法則(*1)』でしょう。

(*1)ロミンガーの法則:米国のリーダーシップ研究の調査機関ロミンガー社の調査、分析結果から生まれた法則で、同社が、リーダーシップがうまく発揮できている経営幹部に対して「どのようなことが成長に役だったか」という調査を行ったところによると「70%が経験、20%が薫陶、10%が研修」であることが分かった。

よって、「とにかく経験だ。いろいろな仕事を広範に経験することが大事で、それによって視野が広がるんだ!」となっている議論をよく聞きます。

しかし、なぜ"経験"が多様になると良いのでしょうか。その議論が非常に少ないと感じています。

ここで思い起こされるのが『経験学習サイクル(*2)』です。

(*2)経験学習サイクル:デイビット・コルブによって提唱された理論。経験学習サイクルは「経験→省察→概念化→実践」という4段階により構成され、このサイクルを繰り返すことによって、人は学び、成長していくとされている。

この経験学習サイクルのモデルから学び取るべきことは、人は単に経験を積んだだけでは学びは深まらず、成長しない、ということではないかと思います。文字通りですが、経験を省察し、概念化(持論化)し、それを踏まえて再び実践を行うことで、人は学び、成長する、と捉えるべきです。

つまり、異動によって仕事を、経験を「くるくる」回せば良い訳ではない。1つ1つの経験の血肉化の方がもっと大切。私にはそう見えます。

関連して思うのは、「視野を広げる」への違和感です。人の成長にとって、「視野(みえる範囲)を広げる」ことと「視座(みる位置)を高くすること」と「視点(みるポイント)を多くorユニークにする」ことと、いずれが肝要になるでしょうか。

いや、いずれも大事です。しかし、視座が低いと視野は狭くなるし、視点が少ないと視野が狭くなります。「多くのorユニークな視点を持っていて、視野が広いこと」を「視座が高い」というのではないか。人の成長を考える際には、ここを目指すべきではなでしょうか。

「ジョブ・ローテーションにより人が育つ」と我々の多くが経験的に感じるのはきっと、
 - 多様な経験が省察を誘発し、物事の概念化(=学び)が起こりやすくなる
 - 物事の概念化により視点の数が増え、ユニークなものとなる
 - よって、人の成長ファクターとして「経験」が大きなウェイトを占める
このような構造によるものなのでしょう。

以上のことを踏まえると、「ジョブ・ローテーション」による人材育成の仕組みを考えるステップは、最初からむやみに経験を増やそうとするのではなく、
1.経験を血肉化する施策・取組みの導入
 経験が血肉化されるプロセスの定着をもって、
2.ジョブ・ローテーションシステムの検討・導入
という順番であることがすごく大事だと思う、という記事でした。

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