面倒と展望

現代社会で生きていると気づきにくい事実だが、実は日本はめちゃくちゃ便利な国である。


いや、『日本は』と言いつつそれを主張する僕自身が渡航経験を持たないので、ここであたかも外国と比較したように見せるのは卑怯な話だが、まあ、この国で生きていて、少なくとも生活に関することで不便を感じることは早々ないと思う。


衣食住、最低限それらはどうにかなっているはずだ。厳しい人もいるだろうけど、冬服がなくて凍死しそうとかお金がなくて餓死しそうとかは早々ないだろう。



でもね、違うんです。実は不便なところもあるんです。陸の孤島って、ありふれてるんですよ。今日はそれをお話します。





@24日目


キャンプ場での朝は、大変気持ちがいい。
雲ひとつない快晴。昨夜の冷気とは打って変わって、ぽかぽかとした陽気がテントの中にまで染み込んでくる。腕時計を見れば六時、あまりにも健康的すぎる朝だ。とりあえずパスタを茹でて、適当にペペロンチーノを作る。



緑が足りない


完食、洗い物の後に、ゴミをまとめて撤収準備。
荷物をまとめて自転車に積んだ後、昨日来たときから気になっていた看板に向かった。




ふーん、いい響きじゃん。


実は温泉と抱き合わせになっているキャンプ場なのだが、昨日は恐山で一度入湯していたのと、お金の問題でスルーした。だが足湯は無料。貧乏旅人にも優しい。


まあ旅先の朝といえば風呂みたいなところあるし、足だけでも温まってから出るか――そう思って、硫黄の香りが濃い乳白色の湯船に踏み入れた。



熱っ!!!!
恐山といい、この辺りの風呂は加減を知らない。たぶん源泉かけ流しなんだろうなあ、それならしょうがないなあ、と三分ほど浸かって、出る。足だけなのに、なんだか体全体が温まった感じがした。いや、これからどうせ死ぬほど暑くなるんだけど。



キャンプ場をあとにして、市街地の方へと向かう。正確には、マクドナルドむつ中央店へと。


便利な現代社会において、お金さえあれば衣食住すべてどうにかなるわけだが、地域によって得るのが難しくなるものがある。それが電気だ。


いや、ケチらずホテルとかネカフェとかに泊まればどうにかなるっちゃなるのだけれど、それ以外で充電できる場所となると実はあまりない。


都会であれば喫茶店でもコンビニのイートインでもファミレスでも、充電できる場所は出先でいくらでもあるが、田舎にはまずそれら自体がほとんどない。イートインなら場所によっては存在するが、中に入ってみないとわからない以上、完全にガチャである。前提にして動くのではなくて、あったらラッキー☆程度でいないと痛い目を見る。



その点、マクドナルドはすごい。僕も最近気がついたのだが、店に充電できる場所があるかどうかを検索して調べられる。これを知った瞬間衝撃を受けて、付近の店舗を調べたが、まずマクドナルド自体が存在しなくて泣いた。



だがむつ市には存在した。貴重なマクドナルドが。コレ幸いと朝マックのマフィンをセットで頼み、ジュースとサラダを味わいながら充電、アンド作業。ありがとうマクドナルド、ごめんマクドナルド。四百円で一時間半くらい居座った。



腹ごしらえも終え、最低限(本当に最低限)の充電を完了したので、今日明日はどうにかなるだろうと頷いて、出発。


市街故なだらかな道が多くて、感動がすごい。ピンハネカーブばかりの急勾配なんてなかったんや、都会ってすげえべなあ……


都会は十キロも走らないうちに終わる。突如現れる、アップダウンの激しい坂道。とはいえ、昨日の恐山クライムに比べればなんてことはない。下りで勢いをつけて、上りで勢いを削がれて、また下りで……少しハードなアトラクションみたいなものだ、これが適応であり成長。


進んでいくうち、道路端の標識に「菜の花畑」の文字がちらほら見え始める。行きの際に、寄り逃して少し後悔した場所だ。標識に従って曲がり、経由地に追加する。


田園の隙間を縫うような車幅一台ほどの道を抜け、うねうねと動いていくと、黄色い花々が徐々に姿を見せ始めた。






おお……!!
僕の撮影技術の不足a.k.a機材の実力不足によって、その魅力を余すことなく伝えられているとは言い難いが、一面に咲き誇る黄色い花々の存在感を思い浮かべていただきたい。それらが風に靡き、優雅に揺れる様を。多少疲れていたのもあって、自転車をガードレールに立てかけて荷物を置き、しばしそこで花を眺めながら休んだ。




再出発。途中で数日前に通った道に合流する。先日も寄り道した「道の駅 よこはま」で昼休憩。休んでばかりだけど、まあ時間的には余裕があるので問題なし。




注文したのはホタテ丼。まあ、見ての通りカツ丼のカツ部分がホタテのフライにすげ変わった感じ。


一口食べてみる。ホクホクな上に肉厚で美味しい。噛めば貝の甘みが溢れ出す。


――が、一個目で早くも飽きが来る。冷静に考えたら僕、そこまで貝が好きじゃない。別に嫌いじゃないけど、これメインで丼丸々は少し厳しい。


観光地パワーに負けず、普通にカツ丼にしとけばよかったかなあ……と少し思いつつ完食。美味しいことに変わりはないし、ここならではの料理だと思うので、機会があればぜひお食べください。



漕ぎ出してすぐに、イートインのあるコンビニを発見。一応寄ってみると、充電スペースがあったので飲み物を買って少し滞在させてもらった。ぐぬぬ、これなら尚の事昼ごはん待てばよかった……




後悔先に立たず、まあそれもまた旅の思い出ということで、今度こそ再出発。

一度通った道だというのに、帰りだとまた違った見方になって面白い。よく見たら、視界の端に風車がたくさん並んでいることに気づいた。行きだと木々に阻まれて見えづらかったらしい。坂も比較的なだらかで優しく、海沿いなのも相まって漕いでいて気持ちがいい。



こういうサラサラした砂見ると海沿いって感じするよね





途中から、来た道からは逸れて初見の道、青森方面に向かっていく。この辺りからまた傾斜が急になってくるが、散々休んだのでこのくらいはとグングン進む。




嫌な文字



柵の敗北





愛宕公園・着。地域で一番デカい公園らしい。街の中だと高台に位置しているので、ここで夕日を見る。



かわいい



お花




展望台の写真撮り逃した




展望台・着




おお……!
めっちゃ綺麗。陸奥湾に沈みゆく夕陽、藍色に染まりゆく町々。
たぶんここから見たら豆粒みたいに小さな場所から、せっせこせっせこペダルを漕いできたと思うと、ハチャメチャに感慨深いな……っていうか展望台までの坂も公園とは思えないくらいキツかったけど、こんな景色に巡り会えるなら、坂もそんなに悪くはない……のかも。



遠くから、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえる。元気なのはいいことだな、と他人事のように思って、暗くなるまでぼーっと街を眺めていた。









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