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日本の新卒初任給が安いワケ

高卒就職問題研究のtransactorlaboです。
noteでの発信を始めて丸一年が経ち、「高卒就職問題」に「待遇」とか「相場」などのキーワードを加えてググると上位にヒットするようになりました。関心を持って下さる方がそれなりに増えているのかなと嬉しく思っております。

さて、春闘がスタートしました。賃上げを政府がこれまでにない力の入れようで求めていますし、経営側にも前向きな姿勢が見られることから、長く続いた賃金伸び悩みの時代にもようやく終止符が打たれことを願ってやみません。

賃上げ絡みで最近気になった記事を紹介します。人事ジャーナリスト溝上憲文さんによるBUSINESS INSIDERへの寄稿です。一部を引用します。

(初任給が)最も高いのはスイスの800万円超、続いてアメリカの632万円、ドイツの534万円。ノルウェーが400万円超、フランスやスウェーデンが300万円超だが、日本の基本給(年額)は262万円。ボーナスは含まれていないとはいえ、さすがに低い。
諸外国に比べて低い日本の初任給だが、実は日本の賃金が30年間も上がらない元凶の1つは、初任給の低さにあると考えている。

日本企業はバブル崩壊後、商品・サービスの価値創造よりも人件費抑制による事業戦略に転換し、事業構造改革という名の賃金制度改革やリストラによる賃金抑制策を推進してきた。

そのターゲットが入口の部分、つまり新卒の初任給を上げないことと、採用の抑制だった。採用の抑制は後に「就職氷河期」と呼ばれ、多くの新卒無業者をつくり出すなど社会問題となった。

なぜ初任給を上げないのか。
上げてしまうと、年功賃金の性格上、在籍している社員を含めて全体の賃金を上げざるを得ないからだ。それは、賃金抑制を目論む企業にとっては絶対に避けたいことだった。

実際に初任給の対前年比増加率は、産労総合研究所の調査によると、2007年の0.43%以降、2022年度の0.64%に至るまで1%を超えることはなかった。

初任給「据え置き」を提言

新卒初任給という入口の蛇口を閉め続けた結果、前回の記事で述べたように高卒初任給を最賃が上回るという異常事態にまで発展した。

その初任給抑制の号令をかけたのが、日経連(日本経営者団体連盟=現経団連)だった。

日経連は1990年8月23日、経営トップセミナーで「日経連富士吉田提言」を発表。提言は理事会で満場一致で決議された。

このように溝上さんは、日本の賃金伸び悩みの原因は初任給が低く抑えられてきたことだとしておられます。賛成です。また、同記事の中で大卒初任給が最低賃金水準に追いつかれそうになっていることを嘆いてもおられます。それも賛成ですが、高卒就職問題を中心に見ている私としては少し意見を申し上げたくなりました。

新卒初任給と最賃はループの関係にある

溝上さんは大卒初任給が最賃水準に追いつかれそうになっていると嘆いておられますが、それは別に今に始まったことではないです。とくに高卒就職市場では昔からずっとそうです。
また、新卒初任給と最賃を別ものとお考えのようですが、それはちょっと違うのではないでしょうか。新卒初任給と最賃は相互に影響し合うループの関係にあるからです。
雇用者が求人を出す場合、まず考えるのは「最低賃金法に違反しないように」。つまり、まず月給÷労働時間が最低賃金時給を下回らないベースを作り、次いで周囲の情勢や経営事情などを勘案していくらか上乗せする。こういった方式をとるところが大半を占めているように思われます。
起点になる最低賃金の算定は、物価や生計費等様々な要素を考慮してなされますが、新卒初任給とくに高卒初任給が重要な算定要素になります。よって、最賃と新卒初任給はループの関係にあり、別個のものではないと考えるほうが自然です。実際、統計を見れば、高卒初任給は最賃の1割から2割増し、大卒は高卒1割から2割増し・・・こんな調子で推移してきたことが分かります。

賃金体系のベースは高卒初任給

私は日本の労働者の賃金体系のベースは高卒初任給だと考えます。よって、高卒初任給が上がらなければ最賃は上がらず、それに上乗せする形で決まっていく大卒も一般も上がりません。当然、アルバイト・パートの賃金も上がらないのです。よって、数も割合もだいぶ減りはしていますが、高卒就職市場は日本の雇用体系にとって非常に重要な位置にあります。ゆえに高卒就職問題は日本経済全体の問題なのです。

高卒就職市場の不健全性の原因

かくも重要な高卒就職市場は、市場として非常に不健全な状態にあります。結果的に超人手不足なのに初任給はずっと最低賃金の1割から2割増し程度の状態が長く続いていることが主な問題点なのですが、その原因がどこにあるのかというと、雇用側に市場相場が分かる情報が全くといって良いほど流通していないことです。
そうした情報の少なさが高卒初任給と最賃の結び付きを強め、新卒者への投資競争の活性化を鈍らせていると考えられます。これは、求人情報へのアクセス権は教員限定という高卒就職の世界独特のルールによる弊害です。
市場を正常に機能させるには、買う側と売る側に情報の不均衡があってはなりません。しかし、高卒就職市場には絶望的な不均衡があります。これを正さない限り問題はいつまでも続き、新卒初任給に求人倍率に応じた正常な上昇は起きず、一般も、パート・アルバイトの賃金も大きく上がることはないでしょう。

若者に対する投資競争の活性化を

日本が国としての力を取り戻すには若年層の所得向上が必須です。そのためには賃上げ、とくに新卒初任給が上がらないことには始まらないわけですが、まず雇用側に若者への投資競争の時代であることへの気づきを広めることが必要でしょう。できるだけ安く雇おうとしてもムリだと。
ではどこから手を付けるべきか。ここまでお読み下さった方はもうお気付きですね。高卒求人情報の公開です。そうすることによって高卒初任給と最賃の結び付きを確実に弱めることができます。そのあとは風が吹けば桶屋が儲かる話みたいに長くなりますので省きますが、多方面にいい流れが始まるはずだと思います。そんなに難しいことではないですし、早く実現させましょう。

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