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高卒就職問題 ~ 10月末の調査結果を2月半ばに出されても・・・

 高卒就職問題研究のtransactorlabです。問題改善を目指して研究と提言を行っております。高卒就職問題の根幹は市場相場情報の不足であり、その責任の大部分は情報を統括する厚労省にあるという論を展開しております。

内定状況調査

 高校の進路指導主事の重要な仕事のひとつに調査モノへの報告があります。卒業予定の生徒数、男女の数、進学希望の種別と数、就職希望の種別と数、試験結果が出始めたら合格・内定状況、それも男女別に校種別・業種別・・・といった具合のかなり面倒なものです。報告先(調査母体)が文科省と厚労省の二つがある上に、都道府県教育委員会が独自に行う調査も混じります。同じ調査なのに様式がそれぞれ別なので、まあ面倒くさいことこの上なし。一本化しろよとの現場の声は大昔からあるのですが、いっこうに変わっていません。
 就職希望や内定状況に関する調査のほうは、都道府県単位の労働局が集約し、月イチの頻度で記者会見とホームページ上で公表します。そのデータソースは各高校の進路指導主事の先生たちがブーブー言いながら上げた報告なわけです。一例をあげましょう。


群馬労働局 Press Release
令和3年度高校新卒者の求人・求職・内定状況(令和3年 12 月末)
https://jsite.mhlw.go.jp/gunma-roudoukyoku/content/contents/001077879.pdf
厚生労働省群馬労働局発表 
 令和4年2月1日

 群馬労働局を選んだことにとくに理由はありません。どこの都道府県の労働局も12月末時点の内定状況調査の結果を2月の頭から中旬にかけて発信しています。ここでお考えいただきたいのは、調査から発表まで一ヶ月以上かかっている点です。遅いですよね。

高等学校就職問題検討会議

 次にこちらをご覧下さい。これは役所・教育関係者・事業主の団体の3者の代表により組織され、高卒就職の枠組みやルール、慣行の見直しなどが決められる会議です。例年、1月末から2月にかけて開催されます。引用は令和4年2月14日に厚労省ホームページ内にアップされたものです。毎年だいたいこの時期に行われます。

 2月14日にこのような会議を行った・・・というページです。その中に添付されている資料の一つにこれがあります。

資料1
令和4年3月新規高等学校卒業予定者の就職内定状況(令和3年10月末現在)に関する調査について

 ファイル名は便宜的に私がつけました。内容は昨年度生(令和4年3月卒業)就職希望者の内定状況の10月末時点の状態を表したものです。こっちは12月末時点ではありません。10月末時点の結果を2月中旬の会議で資料に使っています。
 1ページ目にこんなことが書いてあります。(見やすくするため数字を半角に、前年比のデータは割愛)

<結果の概要>
1.就希職望者数・就職内定者数等
  卒業予定者      1,001,111人
  就職希望者         148,761人
  うち就職内定者   111,788人
  うち未内定者         36,973人

2.就職内定率(就職希望者に対する就職内定者の割合)
            75.1%

この会議資料を整えることが目的なんだろうか?

 各地で行った「10月末調査」の結果を集約し、2月半ばの会議の資料として使っているのだと思われます。その間、11月末にも12月末にも報告は上げているのに、なぜ10月末なのか非常に疑問です。まあ、それはさておき問題なのは、厚労省ホームページ上での扱いを見る限り、せっかく集めたこの情報を「社長さんたち、保護者のみなさん、高卒就職市場は今こんな具合ですよ!」と、広く世間に知らせようといった意気込みが全く感じられないことです。私が知る限り、ずっと前から変わっていません。
 あの大変な報告の連続は、この会議の資料を整えることが調査の目的なのか?そんなふうに思えてなりません。だって、公表しているとは言っても、調べようと思う人が根気よく探さないと見つからないようなところに、ひっそりと出されているだけなんですよ。しかも、何ヶ月もたってから。

情報が遅さが膨大なムダを発生させる

 前々回、12月より以降、何万件もの求人票が新たに追加公開されていたと言う事実に驚き呆れたと書きました。その理由をよく示すものが上の資料に含まれています。

10月末時点で既に内定率90%越え

 3本の折れ線は就職内定率、下から10月末時点、真ん中が12月末時点、上が3月末時点です。過去7,8年は12月末時点で就職希望者の90%以上が内定を得ているということが分かります。ということは、その時点の未内定者は10%弱、全国で1万人ぐらいしかいなくなるということです。全国で、です。
 そんな時期に求人票を出しても応募が来る可能性は極めて低い。企業が一枚の求人票を出すには相当の時間と手間、コストがかかります。そのほとんどがムダになるわけです。

遅い理由 集計のやり方が紙ベースを脱していないから

 どうしてこんなに遅いのか、その理由を説明しましょう。
 「就職希望者数等に関する調査」や「内定状況調査」は高校からハローワークに対して毎月(!)報告するデータの集約です。学校の先生が所定の様式にデータを入力してメール添付で送信する形です。

 通信手段がメール添付になって以来、通信にかかる時間は格段に早くなりましたが、調査票の様式また古さ満点のシロモノなのですよ。一応、エクセルファイルではありますが、遙か昔、紙でやりとりしていた頃の表をそのままエクセルにしただけと思われるもので、入力するのも面倒だし、集計するのはもっと手間のかかる形式です。こんなものを今だに使っているから担当者の事務負担が減らず、結果が出るまで一ヶ月以上かかるのも当然です。

 これを現代的な調査方法に変えれば、ほぼリアルタイム、どんなに遅くても1週間もあれば全国の様相がわかる資料をアウトプットできるはずです。莫大な人件費が削減できる上、企業側もフレッシュな情報を入手でき、ムダな求人を出さずに済む。なんでやらないんでしょう?

 教職員だけでなく、ハローワーク職員も含めて多くの人間を使い、膨大な公的コストをかける調査なのですから、得られる情報は最大限社会全体の利益とする努力を怠ってはいけないですよね。そのためにはスピードが肝心。紙ベースの設計思想じゃあダメです。

 求人票のWEBサービスでの提供もPDF化して終わりっていう発想も、まさに、「紙ベース的思考の所産」に他なりません。あれもとっとと止めてデータベースにしてほしいものです。

 「システム変更には膨大な予算がかかるから・・・」なんて言い訳が聞こえてきそうですが、バカなこと言わんでくださいよと反論したいです。それ以上のムダなコストを毎年発生させているんですよと。それだけじゃなく、の賃金上昇や、国全体の労働生産性向上の足を引っ張っている可能性も高い。
 学校の先生の多忙解消の足も・・・これは確実ですな(笑)

 みなさん、どう思われますか?


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