転勤先の地域にはホルモン療法を続けるための病院がないので不安です

2018年のGID(性同一性障害)学会で販売されたGID全国交流会誌2018「トランスジェンダー としごと」特集号が、おそらくPDFの容量が大きいせいか学会サーバーから消えていました。

ということで、PDFをこちらに再掲しましたが、コンテンツの中身もベタ打ちでも再掲していきます。

*こちらの交流会誌はTRanSとして作成したものではなく、TRanSメンバーらが関わった有志の集まりによって発行されました。

Q3. 定期的にホルモン療法を受けています。先日、会社から転勤の辞令が出ましたが、転勤先の地域には安心して通える医療機関がなくて不安です。

<回答>弁護士 宮井 麻由子

①会社との約束を確認しましょう

採用のときなどに会社との間で勤務地を限定する約束をしていたならば、会社はその社員を約束した勤務地以外で働かせることはできません。就業規則や労働協約に「転勤を命じることがある。この場合には拒むことはできない」などと書かれていても、社員との個別の約束の方が優先されるので、会社は約束した勤務地以外で働かせることはできません。転勤を命じる辞令を受けてしまっても、会社に勤務地を限定する約束があったことを伝えて、辞令を撤回してもらうことができるはずです。
「勤務地を限定する約束」が雇用契約書や労働条件通知書などの書類にはっきりと書かれていればベストですが、そうでなくてももともと転勤がないのが暗黙の了解になっていたようなケースでは、勤務地を限定する約束をしたということになる場合があります。

② 辞令が法的に無効となることも

会社との間で勤務地を限定する約束がない場合でもトランスジェンダーの社員にとって転勤先の地域に良い医療機関がなく、術後ケアやホルモン療法ができないとか(絶対できなくはないけれども)すごく困難になるという場合はどうでしょうか。例えば、会社側としては社内の慣例で転勤を命じたけれどもどうしてもその社員をその場所に転勤させる必要があるわけではない、というケースがよくあります。一方の社員側は、転勤によって適切な医療機関に通いづらくなり、大きな負担が生まれるという場合、双方のメリット・デメリットがアンバランスです。そういう辞令は法律的に無効である可能性が高いでしょう。そのことを会社に伝えて、辞令を撤回してもらうことが考えられます。
通院のことは会社に知られたくないけれど転勤は避けたい場合、通院の件とは別になにか「転勤によって生じる大きな負担」がないと転勤を拒むことは難しいかもしれません。事情を知らない会社側から見ると「この社員には大きな負担はない」ことになるからです。人事担当者など一部の人にだけ事情を伝える、といった方法も考えてみましょう。

*ちなみに、転勤の辞令が出た後で治療を始めたり、以前はごくたまにしか通院していなかったけれども、辞令が出た後に頻繁に通院し始めたりという場合には、転勤の辞令自体には問題がなく辞令に従わないといけない、となりやすいので、注意が必要です。

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