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#56【陽経治療】陽経治療まとめ

杉山勲先生の考える陽経治療についてまとめます。

陽経治療の考え方は非常にシンプルで、学んだ直後から使える技術です。
そしてその効果には申し分のないものがあります。
痛みの改善、ROM制限などにはてきめんに効きます。

1.なぜ、陽経治療なのか

なぜ杉山先生が陽経治療を推めるのかというと、最初は簡単な技術を身に着けた方が良いからです。

鍼灸の資格を取った後、鍼灸師が最初につまずくのが経絡治療と脈診です。
経絡治療とは日本で独自に発展した治療方法です。
脈診によって五臓の虚実を判定し、虚している五臓を補い、実している五臓を瀉すというものです。

この「脈診」というのが曲者です。
「脈で五臓の状態を把握する」言うだけなら簡単ですが、これには熟練の業が必要になります。偉い先生方の本をいろいろと読んでいますが、どうやら30〜40年くらいやらないと身につかない業のようです。

右も左もわからない1年目からこういう治療をしてもうまく行きようがありません。
結局よくわからないまま経絡治療をやり、わからないままやっているので症状が改善することもありません。
症状が治せないと患者さんも定着しないので、仕方なく経絡治療を諦めて、痛いところに鍼を刺すという西洋式の鍼灸治療しかできない鍼灸師になってしまうのです。

これは非常にもったいないと、杉山先生は言います。
脈診を用いた経絡治療は素晴らしい治療法なのですが、それができるようになるには時間がかかります。しかし眼の前の患者さんはそれを待ってはくれません。
そこで杉山先生は、陽経治療を身につけることで眼の前の患者さんを治しながら、少しずつ脈診を身に着けていきましょうと言います。

陽経治療は脈を見たりする必要がありません。
経絡の走行さえわかっていれば、簡単に治療穴を見つけられます。
また急性痛や痛みなど、鍼灸院を訪れる理由となる愁訴に対して大きな効果を発揮するのです。

悪い部位から離れたところに鍼を刺して痛みが改善すると、素人の人はそれなりに感激してくれます。
陽経治療で痛みを改善しファンが増えてくれれば鍼灸院が繁盛するというわけです。
繁盛してくれれば経営が成り立ちますので、その中で少しずつ脈診と経絡治療を身に着けていきましょうということになります。

まとめますと、経絡治療に比べて陽経治療は簡単な技術であり、また患者さんの愁訴を容易に改善させることができます。
まずは陽経治療を身に着けて繁盛する鍼灸院をつくり、そこから徐々に経絡治療を身に着けて行けば良い、というのが杉山先生の主張です。

2.陽経治療のやり方

陽経治療とは、陽経の経穴に瀉法を行う治療法です。
瀉法を行う経穴は痛みのある場所から推測して探します。

前提として、痛みは「実」であると考えます。
痛みが出ているというのは、痛みが出ている部位を通る経絡が実していると考えます。したがって、治療法は実した経絡を瀉すというやり方です。
(杉山先生によると「虚」の痛みもあるということですが今回は省略します)

また、瀉す経絡は陽経に限ります。
陽経の経絡上の痛みであれば同一経絡上のツボを狙います。
陰経の経絡上の痛みであれば、表裏関係にある陽経のツボを使います。例えば膝の内側で陰陵泉のあたりに痛みがあれば、脾経と表裏関係にある胃経を使います。

次に、使用する経穴は主に要穴になります。
例えば大腸経の経絡上に痛みがあれば、大腸経の原・郄・絡の3つの穴の圧痛をみます。圧痛が一番強い穴を治療穴として選択します。
陽経は6経あるので6陽経×3穴=18穴を覚えればできるようになります。

さらに言えば、上肢には大腸・小腸・三焦の3陽経しか通っていないので、上肢の痛みではこの3陽経 × 3穴=9穴を確認するだけで済みます。

原・郄・絡で選穴できるようになれば、今度は五行穴まで選穴の範囲を広げます。井・滎・兪・経・合の5つの経穴のことです。
これを入れても、6陽経×8穴=48穴を覚えるだけでできます。

とても簡単ですね。もう一度まとめますと、
①痛みが出ている部位を通っている経絡を確認する。
②その経絡上の原・郄・絡の圧痛を確認し、一番圧痛が強いツボに瀉法を行う。

これだけで痛みが取れてしまうというわけです。

ステップアップとして、
③選穴の範囲を五行穴まで拡大して、原・郄・絡・井・滎・兪・経・合の中で一番圧痛が強いツボに瀉法を行う。
ここまでできれば、ほとんどの痛みを取ることができると杉山先生は言います。

私も実際に自分で試したり、友人で検証したりしていますが、痛みの改善とROM制限の改善はかなりの確率で成功しています。
鍼を刺すのはもちろんですが、鍉鍼でも効果が認められます。鍉鍼は手頃にできるので、私は鍉鍼をよく使っています。鍉鍼で痛みやROMが変化するとかなり驚かれます。

3.陽経治療の原則

陽経治療のやり方の大枠は理解してもらえたかと思います。
後は実際に試してみるとよいでしょう。

陽経治療にはいくつか原則がありますので、こちらもチェックしてみてください。

3-1.瀉法は一肢に一穴が原則

患者が訴える痛みに対して用いるのは、痛みがある経脈上で最も圧痛が強い一穴です。
一側の上肢あるいは下肢の2本の経脈を使ってはいけません。
また同一系脈上に2穴以上瀉法をしてもいけません。

膝と足関節が痛いというように同一の下肢に2点以上痛みがあったとしても、胃・膀胱・胆のどれか一経脈のみを選択して瀉法を行わなくてはなりません。
こういう場合は一経脈に瀉法を行うことで両方の痛みが改善するということです。

3-2.同一経を両側で用いることはない

人の体は左右で陰陽に分かれていますので、同じ経脈や経穴を両側で用いることはありません。

例えば右上肢の大腸経を瀉したのであれば、左上肢の経穴は三焦経か小腸経から選択しなくてはなりません。

3-3.三経(三肢)以上の陽経に瀉法を行ってはならない。

患者の求めに応じて、瀉法をしすぎるのも良くないといいます。例えば両上肢と両下肢すべてに瀉法を行うのはやり過ぎです。
その理由は、体幹と四肢がこれまた陰陽の関係であるためです。四肢の全てに瀉法を行うと体幹とのバランスが崩れるというように考えます。

杉山先生によれば、3ヶ所目の瀉法も気をつけるべきだと言います。
瀉法をするにしてもごく軽い刺激にすべきでしょう。

3-4.陰経の流注部位に痛みがある場合は、原則としてその経と表裏関係にある陽経を用いる。

もし痛みがあるのが陰経の流注部位だったとしても、原則として陽経に圧痛点を求めます。その際は、痛みがある陰経と表裏関係にある陽経から圧痛点を探します。

例えば母指球に痛みがある場合、肺経の痛みと判断しますが圧痛点を探すのは表裏関係にある大腸系の要穴からです。

4.六陽経の鑑別まとめ

基本的に痛みが出ている経絡上を瀉せばいいのですが、経絡は隣接していることもあってどの経絡上の痛みか迷うこともあります。
実している経絡は何経かという鑑別に使えるポイントをそれぞれまとめましたので、参考にしてください。

4-1.手の陽明大腸経

歯痛・咽喉痛・肩関節痛・母指や腕関節の痛み

大腸経に風熱の邪が入ると咽喉部が赤く腫れて痛む
風寒の邪が入ると肩関節などが痛む

目や鼻の症状も大腸経を処置して軽快するものが多い(合谷は面目に効く)

4-2.足の陽明胃経

胃経は長いので全身どこにでも症状が起こり得る。
胃経の変動による腰痛も珍しくはない。

軽い悪心を伴う頭痛(悪心:吐き気)
流行性耳下腺炎は胃経に熱と湿の邪が入った症状と考えてよい。

歯痛(上歯痛は胃経、下歯痛は大腸経の痛みである)
※歯肉については逆になるらしい。上歯肉は大腸経、下歯肉は胃経の変動による痛みである。
鎖骨上窩の痛みも胃経と関係が深い。

乳腺炎や乳腺症による痛みも胃経の処置によって治ることが多い。

胃痛・下腹部痛

下肢では大腿神経痛、膝関節や足関節の痛みが胃経の変動と関係が深い。

4-3.手の太陽小腸経

小腸経の痛みには頚部痛と肩関節痛が多い。
「朝起きたら首が動かない」といった症状は、小腸経に風寒の熱が入った時に見られる。

小腸経に熱邪が入ると、肘関節や腕関節が腫れて痛む。関節リウマチ

小腸経に風邪が入ると、腫れることはないが運動痛を主症状とする関節の痛みが現れる。
筋の症状は風(木の邪)と関係が深い。今で言う五十肩

4-4.足の太陽膀胱経

膀胱経の変動では極めて多彩な症状が現れる。

項強り、頭痛、鼻塞、悪寒、発熱は膀胱経に風寒の邪が入ったときの初期の症状である。

膀胱経に寒邪が入ると背部痛や腰痛が起こる。多くは労倦との複合原因によるものである。
背部痛や腰痛は両側性のものが多い(左右どちらか一方が痛いものは胆経の実に原因がある)。

殿部から大腿後側にかけて痛みが出る坐骨神経痛
第五中足骨の基節関節や中足趾節関節の痛みが膀胱経の変動として捉えられる。

4-5.手の少陽三焦経

三焦経の痛みは頚部から上肢にかけて、どの部分の痛みでも起こり得る。
耳の疾患に伴う痛みもしばしば見られる(耳の痛みについては三焦経以外の経脈も考えられる)。

頚の回旋時の痛みは三焦経の実である(前後の痛みは小腸経の痛みである)。
肩関節の痛み。回旋運動に伴う痛みが特徴である。
肘関節の痛み。テニス肘はほとんどが三焦経の実である。回内回外運動(回旋運動)が肘に負担をかける。

※三焦経の実は、大腸経や小腸経との鑑別が難しい。

4-6.足の少陽胆経

胆経の症状は偏側性という特徴があるので鑑別に困ることはない。

偏頭痛や側頸部・側胸部の痛み。肋間神経痛。
腰痛では寝返りのときに苦痛が強い
背部の筋肉痛でも一側性であるものは胆経の実。

股関節や膝関節など下肢の関節痛。

5.終わりに

以上、陽経治療のまとめでした。
個人的にも、容易に実践できてかなり効果が出る治療法だと思っています。
是非試してみてくださいね。

参考図書・文献
杉山勲、鍼灸院の患者が増える 即効・陽経治療、2009、源草社

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