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#58【経筋】十二経筋の走行まとめ

東洋医学において経筋の考え方は古くからあったようです。体の不調を経絡という視点で見ていた彼らは、運動器系の疾患も経絡のように体表にラインを引いてそれを捉えようとしていたのでしょう。

今回は経筋の走行について紹介します。が、私見を過剰に含みます。
そもそも経筋は具体的な筋を指して、筋と筋がつながっているというようには考えていないようです。

しかし経筋はラインで表現されているので、そのライン上の筋肉がつながっていると考えたほうが臨床では約に立つと思います。

もう一点。経筋は臓腑とつながっていないと考えるので、本来であれば「膀胱経筋」ではなく「足の太陽経筋」というように表現します。
しかしこの記事では、わかりやすいように「膀胱経筋」や「胆経筋」というように記載しますのでご了承ください。

1.膀胱経筋

小趾外転筋〜下腿三頭筋〜大腿二頭筋〜脊柱起立筋〜広背筋・頭頸板状筋

足の太陽膀胱経と同じ経路だと思っていただいて良いです。

大腿後面では大腿二頭筋としています。半腱様筋と半膜様筋は腎経筋だと私は考えているからです。

膀胱系筋は股関節を通過しますが、殿筋は支配していません。屈曲や伸展には関わりますが、内外転や内外旋には関与していないということです。

広背筋は意外に思われるかもしれませんが、書籍にある膀胱系筋のルートを見ると、広背筋も膀胱系筋に含めて考えたほうが良さそうです。臨床にも応用できそうな気がします。

2.胆経筋

足の第4趾〜長短腓骨筋〜腸脛靭帯〜大殿筋・中殿筋・梨状筋〜内腹斜筋・腹横筋・肋間筋〜僧帽筋上部線維

足の少陽胆経は第4趾から始まります。ここに適当な筋はありませんがあえて当てはめるなら、総趾伸筋の4・5趾というようになるかと思います。

胆経筋は殿筋と梨状筋を含みます。股関節の外転や外旋は胆経筋の働きです。パトリックテストの可動域が悪い方は胆経筋に問題がある可能性があります。

体幹部では、内腹斜筋と腹横筋が胆経筋だと考えます。外腹斜筋はこの次に出てくる胃経筋です。帯脈の主治穴が胆経の足臨泣であるのも、これを裏付けています。
肋間筋もおそらく胆経と考えて良いでしょう(要考察)。

頚部では僧帽筋の上部線維を支配しています。胆経には肩井、風池などのツボがあります。

3.胃経筋

足の第2~4趾〜前脛骨筋・総趾伸筋〜大腿四頭筋〜腹直筋(へそまで)・外腹斜筋/胸鎖乳突筋〜頬筋

経絡では2趾に終わりますが、3・4趾も含めるべきです。
下肢前面については特に言う事はないでしょう。

経絡の走行は腹直筋を胸郭まで登っていきますが、経筋としては臍部までのようです。理由はよくわかりません。

特徴的なのは外腹斜筋でしょう。胃経筋は背部までつながっています。胃経筋の問題は、背部のT4~L1の範囲に出てくると言います。これは外腹斜筋が5~12肋骨に付着していることと関連してきます。T12には胃兪もありますよね。

胃経筋は胸鎖乳突筋を支配していると考えるべきですが、臍部から頚部までを結ぶ適当な筋が見当たりません。書籍では臍部で体幹の深層に入り、頚部でまた出てくるというように表現されています。

顔面部では頬筋も支配します。
その為、胃経筋は顎関節症にも一定の効果が見られるようです。

4.腎経筋

足底の屈筋群〜後脛骨筋・下腿屈筋群〜半腱様筋・半膜様筋〜腸腰筋〜脊柱傍筋

湧泉から始まる腎経絡の走行を考えると、足底から後脛骨筋・下腿屈筋群を経由すると考えるのが妥当です。内果の後ろを通るのは腎経で脾経と肝経は内果の前を通るからです。

腎経絡が半腱様筋の側にある陰谷を通って上に登っていくので、内側ハムストリングは腎経筋だと私は考えています。

坐骨結節に付着する内側ハムストリングから小転子に付着する腸腰筋につながるというのは、一見無理がありそうですが、機能的にはセットにしたほう良いと思います。

腎は先天の精を蓄えており、命の源です。ですので、腎経筋は体を最深部で支えるインナーマッスルであると考えるべきでしょう。すなわち、腸腰筋と脊柱を支える脊柱傍筋です。

5.肝経筋

足第1趾〜脛骨内面〜大内転筋

肝経は第1趾の背足から始まり脛骨内面を通っていきますが、ここに適当な筋はありません。

大腿部では大内転筋だと考えています。大体内側には前から脾経、肝経、腎経が通りますが、半腱様筋・半膜様筋は腎経筋です。
胃経筋である内側広筋と腎経筋の間には長・短内転筋と大内転筋があり、前方にある長・短内転筋が脾経筋、後方にある大内転筋が肝経筋だという解釈です。

6.脾経筋

母趾外転筋〜脛骨内面〜長・短内転筋

脾経絡は母趾内側から起こりますので、脾経筋は母趾の外転筋から始まります。

下腿部は肝経筋同様適当な筋が見当たりません。下腿の屈筋群は腎経筋としましたので。

大腿内側は先ほど言ったとおり、長・短内転筋です。

7.大腸経筋

手第2指〜長・短橈側手根伸筋〜上腕二頭筋長頭〜三角筋前部線維〜斜角筋・胸鎖乳突筋/僧帽筋中部

ここからは上肢にいきましょう。
大腸経は第2指から始まります。合谷は有名なツボですが、筋で言えば骨間筋ということになると思います。

大腸経の経絡は上腕部では前面か後面か際どいところですが、三角筋前部線維につながるということで、上腕二頭筋長頭としておきます。
しかし、上腕二頭筋長頭の多くは肺経筋に含まれると考えます。

頚部においては、前・中斜角筋と胸鎖乳突筋を含みます。斜角筋部を流れているであろう経筋には三焦経や小腸経もあるので頚部の症状は複雑に要因が絡み合っている可能性があります。
ちなみに大腸経は三焦経や小腸経よりも前方だと考えられます。

大腸経において面白いのは、肩甲間部に分布していることです。走行を考慮すると、僧帽筋の中部線維が妥当だと私は判断しました。
肩甲間部は肺気虚などで症状が出るところです。肺と大腸は表裏の関係にありますので、大腸経筋が肩甲間部につながっているのは妥当だと言えます。

8.三焦経筋

手2〜4指〜前腕伸筋群〜上腕三頭筋長頭〜三角筋中部線維・棘上筋〜斜角筋

経絡は4指から始まりますが、経筋は2〜4指という理解でいいかと思います。指と手関節の伸筋群を含みます。

上腕部は上腕三頭筋の長頭です。肩関節では棘上筋にもつながります。三角筋は中部線維です。
大腸経筋が前部、三焦経筋が中部、小腸経筋が後部というように三角筋は棲み分けされています。
三角筋中部は肩の外転に働きますので、三焦経筋には外転に関わる筋が含まれます。

頚部では斜角筋です。大腸経筋も斜角筋でしたが、大腸経筋よりは後部を走行しています。

9.小腸経筋

小指球筋〜尺側手根屈筋〜上腕三頭筋内側頭・外側頭〜三角筋後部線維・棘下筋・小円筋〜菱形筋・肩甲挙筋〜側頭筋・頬筋

小腸経は小指球筋からスタートします。小腸経絡は尺骨と尺側手根屈筋の間を走行しています。ですので、陽経ではありますが小腸経筋に(伸筋ではなく)尺側手根屈筋を含みました。

上腕部では三焦経よりも内側、すなわち上腕三頭筋の内側頭と外側頭です。

肩では三角筋後部線維と棘下筋・小円筋を経由して菱形筋・肩甲挙筋につながります。肩甲挙筋は小腸経筋しか支配していないと考えますので、肩甲挙筋由来の頚部の痛みは、小腸経筋の問題と捉えていいかと思います。

意外ですが小腸経筋は側頭筋や頬筋などの咀嚼筋も巡っているかもしれません。側頭筋は三焦経のイメージが強いですが、経筋の図では小腸経筋が巡っているようです。理由についてはよくわかりません。

10.肺経筋

母指球筋〜腕橈骨筋・円回内筋〜上腕二頭筋長頭・短頭〜小胸筋・大胸筋

肺経筋は母指球筋からスタートします。前腕では腕橈骨筋や円回内筋を含めました。円回内筋を肺経筋に含めるのは、円回内筋の停止部に肺経の郄穴があることや、母指球筋の短縮は母指球を内転させ運動連鎖で前腕が回内することから、着想を得ています。

上腕二頭筋の長頭・短頭両方を含みます。上腕二頭筋長頭腱炎の治療に肺経筋がよく効くそうです。また短頭は烏口突起から起始しています。烏口突起部は肺経絡のスタート地点です。

胸部では小胸筋と大胸筋です。これらの筋がしっかり伸長することで、たくさんの空気が肺に入ってこれます。

11.心包経筋

手の2〜4指〜前腕屈筋群〜上腕内側/前鋸筋

心包経筋は三焦経筋の裏側ですので、手の2〜4指から前腕屈筋群に繋がります。

上腕の内側では適当な筋が見当たりません。上腕二頭筋は烏口突起に付着するため肺経筋としての要素が強いと思われます。解剖学的に言えば、上腕内側の筋間中隔が妥当かもしれません。

前鋸筋を心包経に入れたのには理由があるのですが、ここで説明するとややこしくなるので割愛します。
完全にオリジナルの考えですが、子午流注の思想から着想を得て、前鋸筋を心包経筋に含めました。今後臨床で確かめていきたいと思います。

12.心経筋

手の第5指〜尺側手根屈筋〜上腕内側

心経筋はスタートが手の第5指であることを除けば、心包経筋とほぼ同じ走行だと思われます。上腕内側を通った後胸部に向かいますが、ここに適当な筋は見当たりません。

おわりに

実際、経筋治療は大きな効果を発揮します。
先日もSLRの可動域制限や腰痛が、束骨というツボで大きく改善しました。

経筋を想定した施術は陽経治療に近い考え方ですので、陽経治療について学んでいた私には馴染みやすいものでした。
臨床での扱い方は、陽経治療のやり方でいいと考えています。陽経治療も併せて学ぶのであれば、こちらの記事も是非参考にされてください。

参考文献・図書
篠原昭二、誰でもできる経筋治療、2005、医道の日本社
富田満夫、経筋療法:経絡への運動学的アプローチ、2003、創風社

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