【キッカケの漫画】祖父はプランター発明者!農×IoT×エンタメ=アグリテインメントを切り拓く男の原点【プランティオCEO芹澤孝悦(前編)】
子供の頃に漫画を読んで「このキャラクターのように生きてみたい!」と思った人は多いはず。人間の喜怒哀楽や生き様が詰め込まれた漫画は、読者の人生に影響を与える力を持っています。
『キッカケの漫画』では様々な領域のトップランナーに、影響を受けた漫画のお話を聞いていきます。
第1回目は、プランティオ株式会社CEOの芹澤孝悦(せりざわ たかよし)さんにお話を伺いました。
■芹澤さんが大きく影響を受けた作品は、『ブッダ』『火の鳥』『ダイの大冒険』!
芹澤
プランティオ株式会社CEOの芹澤と申します。
私は元々ジャズミュージシャンを目指していました。ですが大学卒業後はIT会社に就職して、モバイルコンテンツを配信するエンタメ系の仕事に関わりました。その後に家業を継いで今の仕事をしています。
私の会社では『grow(グロウ)』というプラットフォームを運営しています。そこでは野菜を栽培するナビゲーションシステムや、ユーザー同士が交流する野菜に関するコミュニティなど、『みんなでたのしく野菜を育ててたのしく食べる』持続可能な食と農を循環させるシステムを作っています。
絹巻
事前にお聞きした芹澤さんの好きな漫画は『ブッダ』『火の鳥』『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』とのことでした。ブッダで好きなエピソードは何でしょうか?
■あのお釈迦様ですら悩むのだから、『人は悩んでもいいんだ』と思えるようになった。
芹澤
小学校の時に初めて読みましたが、シッダルタが王子として生まれたにも関わらず様々な苦難に直面することに驚きました。漫画の序盤から、老いや死など人生における苦難が生々しく描かれていることにも衝撃を受けました。
齋藤
ブッダでは『生きること』における苦行や悩みに足を踏み入れて、悩みは解決しないまま悟りを開きます。現代のエンタメのように白黒ハッキリつけるわけではない、ブッダという題材に沿ったストーリーだと思います。小学生だった芹澤さんは、特にどんなところにのめりこみましたか?
芹澤
ブッダ自身がすごく悩んでいたことですね。『なぜ人は死ぬのか』などの誰もが抱くような普遍的な悩みをブッダ自身が抱き、悩み抜いても答えは出ない。あのお釈迦様ですら悩むのだから、『人は悩んでもいいんだ』『同じような悩みを抱いてもいいんだ』と半ば許されるような気持ちになりました。
齋藤
悩みという部分でいえば、個人的には苦行林のエピソードが印象に残っています。苦行林の僧侶たちは、『人の悩みはこうやって解決するんだ』と、足に大量の針を刺すなどして自分を痛めつけます。それに対してブッダは、『こんなやり方は違う』と感じて苦行林を飛び出す。ブッダは新しいことを始めようと思って飛び出したわけではないのに、結果的には新しいことを始めることになった……というのはスタートアップ企業にも通じる部分があるように思いました。
■火の鳥で描かれている輪廻転生は、種まきと収穫が繰り返される野菜栽培に通じる。
齋藤
続いては火の鳥についてお聞かせください。火の鳥ではどういった部分が印象に残りましたか?
芹澤
私は野菜に携わる仕事をしていますが、本来なら野菜は種を植えて実ができて、その実の種をまた植える……という輪廻転生のようなループを繰り返しています。ですが現代では『農』が『農産業』になったことに伴い、種をまいても芽が出ない、子孫を残せない一代限りの品種の野菜が増えています。
そんな中で火の鳥を読み返してみると、輪廻転生が丁寧かつ自然に描かれていて、命は紡がれるものなんだ……ということに改めて気付かされました。
絹巻
事前アンケートで『火の鳥の死生観についても仕事に通じる』と答えていましたが、それも植物の、枯れる・生まれるというところに繋がるんですか?
芹澤
火の鳥では全編通じて猿田が登場しますよね。時代が変わっても同じ魂が輪廻転生している、『もしかして死ぬという概念がないんじゃないか』ということを感じるキッカケになりました。
齋藤
漫画ではスターシステムという、『同じ外見のキャラクターが様々な作品に様々な役柄で登場する』という表現スタイルがあり、それを初めてやったのが手塚治虫先生です。しかし火の鳥に関してはスターシステムを作ろうとしたわけではなく、物語上の自然な流れ・構造として、『同じ外見・同じ魂なのに違う人間』が登場していました。
でも小学生くらいの時に読むと難しくなかったですか?
芹澤
当時は訳が分からなくて、『難しい漫画だなあ』と思っていましたね(笑)
齋藤
私が小学生の時に唯一読めたのは未来編で、自殺するロボットの話が印象に残っています。死ぬということがないロボットに関して、死の概念を付加するために自殺する……という展開が子供ながらに衝撃を受けました。
手塚治虫先生は死生観や人生観を漫画に落とし込んでいるイメージですが、そこは芹澤さんの仕事にも通じるところがありますか?
芹澤
普通なら『もっと贅沢な暮らしをしたらいいじゃん』と思うような時でも、手塚先生は素朴な目線、アースコンシャス(※)な意識をずっと持っていたように感じます。だからこそ手塚先生の作品は普遍的であり、今の時代にも通じる部分が多く、そこが本当にすごいなと思います。
※アースコンシャス……地球を大切にしようという意識と行動のこと。
■勇者とはくじけない人のこと――マトリフやアバン先生、ドラクエの言葉を胸にアグリテインメントに挑み続ける!
齋藤
ちなみにドラクエはプレイしていますか?
芹澤
オンラインのものを除いて、一通り遊びました。特に好きなのはドラゴンクエスト5とドラゴンクエスト3です。11にも非常にハマって、DS版もプレイステーション版もプレイしました。投資会社に聞かれたら、ちゃんと仕事してるのかって思われてしまうかも知れませんが(笑)
絹巻
ではドラゴンクエスト繋がりで、『ダイの大冒険』について仕事に活きたところをお聞かせください。
芹澤
大魔道士マトリフのセリフで『勇者の最強の武器は勇気だ』というものがあります。勇者は力では戦士に敵わないし、魔法では魔法使いには敵わない。でもいざという時には自分が『こっちに行くんだ!』という勇気を見せて、パーティを導いていく。そんなところが子供時代の私には非常に印象的でした。
私はプランターを発明した会社の三代目で、小さい頃は後継者になることを期待されるのが重荷に感じることもありました。ですがダイの大冒険を読んだおかげで、経営者になるとしたら目指すべき姿、『一人ではできない』ということを本質的に理解できました。
後はアバン先生の書であった『負けというのは傷つき倒れたことではなく、心が折れたこと』、ドラゴンクエスト11であった『勇者とは決してくじけない人のこと』という言葉はずっと胸にあります。何百社に交渉しても資金調達できなかった時など、倒れそうになった場面ではその言葉を思い出して踏ん張っていました。
私はプランターを発明した会社の三代目として生まれて、ITの出身でエンタメ畑の人間でもあった。そんな自分にしかできないアグリテインメントがあると考えて、いつも心を強く保つようにしています。
※アグリテインメント……IoTやAIなどのテクノロジーを下支えとした、みんなで楽しく野菜を育てるカルチャー。
齋藤
話を聞いていると、まさに『ロトの血を引く者』ですね!
芹澤
そうですね、ドラゴンクエスト的にいえば『ロトの血を引く者』ですね(笑)
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