誤配、ピボット、プロトタイピング

東浩紀の『ゲンロン戦記』が滅茶苦茶面白かった。東さんの本は毎回好きで買ってるのだが、この本はなんていうか全然毛色の違う本で、他人に結構進めている。皆さんも是非手に取って欲しい。

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(なぜかamazonのリンクが埋め込めない・・・)

何故かというと自分の居る業界と非常に接点が多い話だからだ。スタートアップおよびのスタートアップのサポート、既存企業による新規事業開発の技術的な支援をしている自分や、同様の仕事をしている人たちには刺さる内容だと思う。

この本の(というか東さんの通底した)キーワードである『誤配』と『観光客』であるが、どちらも思うところ、実感として判るところがあるのでそれぞれ書いてみる。今回は『誤配』を取り上げる。

この『誤配』というのは文字通り誤って当初予定したところじゃなかったところに届く、という文字通りの意味だ。特に東さんの書籍ではポジティブな意味で使われる場合が多い。『お、思った方向には行かなかったけどこれはこれでラッキー!』みたいな(雑に言いすぎかもしれない・・・)。

ゲンロン戦記内で誤配の代表的なエピソードとしてはこのようなものだ。最初は東さんと東さんの周りの人達の出版社として機能するよう立ち上げたゲンロンだが、ある時社員が企画してカフェ事業を立ち上げる。最初はコワーキングカフェとして運用する想定だったようだがその社員は速攻で辞め、そこはトークライブのスペース(でありニコ生の配信スペース)として機能していくことになる。そしてそのゲンロンカフェの売り上げは現在、ゲンロンの大きな支えになっている。

つまり東さん自身も、その途中で辞めた社員も誰もこのような事業をしようと思って立ち上げたわけではない。完全に想定外、つまり誤配の産物である。

ツイッターでも指摘されている人がいらっしゃったが、これはスタートアップや新規事業系で『ピボット』と呼ばれる動きに近い。

ピボットは路線変更や方向転換を意味する言葉で、事業内容を変えていくことだ。

実際企業は大体ピボットしている。YoutubeもInstagramもFacebookもPanasonicもSONYも当初の事業はどこへやら、だ。この上のリンクでも書かれているがピボットは『会社のやりたいことと社会とのビジネス的なすり合わせ』だと言える。

事業内容は社会のありようによって変わるし、会社や新規事業部のやりたいことが変化すると変わる。その度にピボットする必要がある。つまりピボットこそが重要なのだ。これはマネタイズが重要だ、という話とは違う。

これは実現したいことを社会に受け入れてもらうためのアプローチが何か、という話であって、お金そのものはその結果でしかない。

だからお金が目的の新規事業は大体方向転換をミスって失敗するし、この新規事業プランで社長にハンコ押してもらったんでこれで新規事業します!と言ってるとピボットできずに死ぬ。

つまりピボットこそが(そしてその背景にある実現したいこと、やりたいことこそが)新規事業にとって重要なのだ。

そしてもう一個、プロトタイピングも誤配を引き起こすツールとして非常に有効だ。

僕はコンサルタントと言いつつ手を動かして物を作るし、分厚い資料やリサーチドキュメントを作るぐらいなら、ワークショップでやたらめったらコンセプトを練り込むぐらいならなんでもいいから作れ、みたいなアドバイスをよくする(多分世間一般のコンサルタントから見るとかなり変なコンサルタントかもしれない・・・)。

さらに言うとデザインシンキングとかデザインリサーチ的なものもあまり好きではない。

昔はこれをトップダウン、ボトムアップ的な話として説明していた。こんな感じだ。

『リサーチやデザイン思考って結局わりとトップダウン的、思考から実装へのウォーターフォールになりがちじゃないですか。ボトムアップ的に、作って判ることを大事にして、作る機会を増やさないと』

みたいな。だが、この話は誤配という言葉を使うとしっくり来る。結局リサーチやマーケティング、思考法やワークショップ的アプローチの殆どが『考える』方法でしかないのだ。つまり『こういう事業や製品があると良いんじゃないのか』を考える方法だ。

考えるだけだと誤配は生まれない。他者に向けて投げた時、投げれる状態になってはじめて発生するのだ。文字にしたら若干生まれる可能性は増えるがまだまだだ。じゃあどうするか。プロトタイピングするのだ。まずは紙で作る。ロールプレイしてみる。次は電子工作か、アプリのモックか。兎に角誤配をなるだけ入り込むような隙を作り続け、誤配し、ピボットし、段々と具体的にしていくのだ。

ここまで言ってしまうと暴論なのかもしれないが、そもそも人間の考え方や思考は人によってそんなに大きく変わらない。特に論理的であろうとすればなおさらだ。なので考え付く解決方法は大体やってる。だからそれは独自の問題解決法、ひいては新規事業の種になったりしない。つまりウォーターフォールだったり、トップダウンだったりで作るプロセスを後回しにして、誤配を最小限に抑えたプロジェクトはその成功確率も最小にしてしまっていると言っても良い。

兎に角大事なのは誤配から得られる、思いもよらないところから得られる事実だ。それが仕事の種になる。僕はそう思っている。

あと、これと関連してテクノロジーやシステムはちゃんと使えた誤配の機会を増やせると思っていて、そのあたりを真面目に考えたいと思っているが、それはまだ全然まとまってないので今後どっかで。

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